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 裕也とアイリはユナが真剣に魔力の同調をしている間、無言でいることにした。

 それは、先ほどのアイリの時と同じように会話していると気が散るかもしれないと判断したからである。

 シーンとした状態を崩したのはユナの一言。


「王女様じゃないけど、先生との同調に成功しました」


 もう少し時間がかかると思っていたため、こんなにも早く繋がると思っていなかった裕也は、


「はやっ!」


 と、思わず口走ってしまう。


 ――しまった……ッ!


 出てしまった心の声にユナが機嫌を悪くなってしまうと思っていたが、ユナはそんな様子を一切見せず、


「私も少しだけ予想外でした。どうも王女様の体調が相当悪いみたいで、魔力がガタガタなので同調が出来ないみたいなので、先生を介して尋ねますね」


 二人に淡々と説明した。

 そのことに対して、何も反論がなかった二人は、


「それで頼む」

「よろしくね」


 それぞれに返答を返す。

 ふと、そこで裕也はある疑問が頭の中に浮かんできてしまう。

 内容は今の流れとは全く違うが、それでも暇だったため、アイリに尋ねることにした。


「魔力を同調させて会話させてる時でも普通に話せんだな。訓練所でやってる時はそういう様子は一切見せなかったから、ちょっと意外だ」

「え? あ、うん。それは何の問題もないよ? 魔力の同調をさせる人数によっては、念話に入れずに自分抜きで話さないといけないこともあるけど」

「ふーん。じゃあ、アイリは四人が限界なのか?」

「え?」

「だって、訓練所ではオレのことは無視して話してたろ?」

「あ、それは違うよ? っと、少しだけ身体の自由が戻ってきた!」


 アイリはほんの少しだけ首を横に振って否定する。そして、少しだけ身体の自由が利き始めたことが嬉しいらしく、その感触を確かめるように指を軽くピクピクとユナの邪魔をしない範囲で動かし始めた。


「あれはワザと話さなかっただけなんだよ。ほら、忘れてたから四人で『どうやろうか?』って相談し合ってただけ。別に普通に話してもよかったけど、忘れてたなんて言えないでしょ?」

「その前の反応でバレバレだったけどな」

「だよねー、分かってた」


 誤魔化しようがない状況だということは自覚があったらしく、アイリもあの時のことを思い出して空笑いを溢す。


「って、ネタバレしていいのか?」

「もういいんじゃないかな? 一応は解決してるわけだし……」

「確かに解決はしたな。精霊と契約させることで」

「うんうん。あ、ついでに念話の練習をさせとけば――あ、無理かー。まだ先生の魔力の波長が分からないもんね。それにボクも手伝えないから、根本的に無理だった……」


 今、ユナがやっている念話の訓練を裕也にさせるという良いアイディアを思いついたらしいが、即座にその訓練が無理であることを自分で悟り、勝手に自己完結してしまう。


「先に気付いてくれよ。ちょっとだけ焦ったじゃないか」

「えへへ、ごめんごめん」

「まぁ、いいけどさ」


 いつかは無理矢理覚えさせられる魔法であることは最初から分かり切っていたことだが、裕也はちょっとだけでも延期させられたことが嬉しかった。

 それはすでに頭がパンクしてしまいそうなほど、覚えることや考えることなどがあったからだ。だからこそ、一つでも延期出来るものは延期したい。二人には絶対に言えない本音があった。


「ふぅ……」


 そんな裕也とアイリの会話に割り込むように、ユナが小さく息を吐いて、自分をアピール。


「ん。終わったか?」

「お疲れ様、ユナお姉ちゃん」


 裕也とアイリはユナの念話が終わるまでの時間潰しをしていたにすぎないため、即座にその会話を打ち切り、すぐにユナの話を集中させる。


「終わりましたけど、もう少し静かに出来なかったんですか? そのせいで結構、音が上手く拾えない時があったんですから……」


 自分が二人の会話に入れなかったことが不満だったらしく、自分が上手く出来なかったことを棚に上げて、二人にそうぼやく。


「悪かったよ。ちょっと気になったことが出来たんだから仕方ないだろ? そんなことよりも、本の件どうなった?」


 しかし、そんなことはどうとでもいいとばかりに裕也はその話を流し、ユナに本題の件を尋ねた。



「そんなことッ!?」

「だって、大した会話じゃないしな。いいから、本題」

「……分かりましたよ。一応、許可を得ることは出来ましたよ。証拠の本だから、この部屋に残しておいたり、王女様の部屋に置いておくよりも裕也くんたちが守った方がいいって結論に至りました。まぁ、結構ごり押しみたいな感じになりましたけど」

「反対したのは? やっぱり先生か?」

「はい。王女様は後先考えずに許可を出すので、その壁として先生が立ち塞がった感じでした」

「そっか。こういう時に反対意見の人が居た方が、少しは場を冷静に見ることが出来るから、そういう立場になってくれるのもありがたいな」

「そうですね。ただ――」


 アイリは「んー」と少しだけ悩んだ様子も見せるも、


「ちょっとだけ気になることがあるんですよね? あ、あくまで私の個人的な雰囲気ですけど……」


 黙っていても仕方ないと思ったらしく、前置きを挟みつつ裕也に話し始める。


「先生、その日記をこの部屋から持ち出すのを本気で嫌がってるような感じがしたんですよね……」

「本気で、ねー」

「はい」

「まぁ、なんとなく理由は分かるけど……。いや、これしか――」


 裕也が説明しようと思っている矢先、


「アベルの個人的な物だから、あまり良い感じがしないって言いたかったんじゃないかな?」


 と、アイリが口を割り込ませてそう言った。


「人の説明を取るなよ。いや、アイリが言った通りなんだけどさ」


 前にもこんなことがあったなー、と思いつつ、裕也はアイリの説明に納得した。


「ですね。私もそれだと思うんですけど……まぁ、ちょっとだけ予想外だったってことです。とにかく、本を部屋に運びましょうか?」


 そして、自分の膝の上に頭を置いているアイリの顔を一瞥し、


「アイリちゃんの身体の自由が利くようになったら……」


 まだまだ時間がかかりそうなことに苦笑いし、そう裕也へ促す。


「そうだな。せめて歩く行為が出来るようになったらな」


 自分が頼んだせいでアイリはこうなってしまったため、ユナと同じく苦笑いをしつつ、その提案に賛成。


「えへへ、ごめんね」


 アイリは自分が悪くないとばかりに、笑顔で二人に謝罪するのだった。


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