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「そんなことよりもこれからどうするの? ここで日記を読むのって時間がかかるんじゃない?」


 アイリは改めてその話題から逸らすかのように裕也に尋ねる。


「それもそうなんだよなー」


 その質問に対し、裕也も言われるまでもなく分かっていたことだった。

 本は全部で五冊。しかし、分厚さや中身を少しだけ確認した推測からすれば、一冊で一年分の内容であることは容易に想像がついた。


「んー、この日記たちを持って行っていいものか……」


 裕也は口元に手を当てて、そのことについて悩み始める。

 今日一日この部屋に引きこもり読むという選択肢はあるものの、一日で読む終わる量ではない。しかも、今は体調やメンタル的にもユナとアイリのおかげで落ち着いているが、下手に思い出せば、日記を読むどころではなくなるからだ。

 それ以上に問題なのが、この本をこのまま部屋に置いておくということだった。

 現状、これは真犯人を導き出す一つの証拠であり、この本を手元から引き離す=証拠を失くすという流れになってしまう。つまり、この本が証拠の物であると誰が見たり、聞いたりしているのか分からない以上、なるべく近くに置いておきたかったのである。


「一応、王女様に頼んでみますか?」


 ユナは再び取れる最善策を裕也に苦笑いしつつ尋ねる。


「いや、それはな……」


 その最善策が最も効果的であることは裕也にも分かっていた。そして、尋ねた際に返ってくる答えも容易に想像がつく。


「絶対に拒否しないよねー。王女様のことだから」


 アイリも裕也と同じ回答に至ったらしく、情けなさを含んだ笑いを溢しながら、裕也があえて言わなかった言葉に賛同した。


「その通りなんだよな。こっちからしたら、それはすごくありがたいことなんだけど、ここまで許可されると少しだけ不安になって来るんだよなー」

「まぁ、ボクたちはいいんだけど、他の人たちがね。セインとかセインとかセインとか……」

「セインの名前しか出てこないのが不思議だな」

「う、疑ってはないよ!? さっきの会話で候補関係はリセットしたもん! どっちかって言うと、側近としての――」

「分かってるって。分かってても、セイン以外の名前が出て来ないのが不思議って話さ」


 慌てた様子で言い訳を始めるアイリに、裕也はそう言って、そのことをちゃんと理解した上での言葉であることを伝える。

 それを聞いたアイリは少しだけホッとした表情になり、


「それでどうするの? 一応、連絡は取れると思うけど、今のボクはちょっと――」


 アイナに相談すること自体は反対した様子ではなかったが、まだ魔力的な通信は無理であることを改めて裕也へと報告する。


「分かってるって。てか、連絡自体はユナも取れるだろ?」


 ユナは無理だということはその様子を見ていた裕也は、訓練場で自分を除いた四人で話し合っていたことを覚えていたため、そのことを確認するためにユナへ尋ねた。

 その質問にアイリもまた「あ、そっか」と視線だけをユナへと向ける。


「出来るとは思いますよ? 裕也くんの考え通り、さっきの連絡の時に覚えた魔力の波長は分かりましたし。問題は距離的な問題ですね」

「距離的な問題?」

「はい。アイリちゃんはあの二人とは親しいので魔力の波長を合わせるのはすぐに出来ると思いますし、探すのも簡単だと思います」

「あー、なるほどな。そこまで意識して魔力の感知してたわけじゃないから、まだ不安定だって言いたいのか……」

「ですね。距離が近かったら、問題ないんですけど……」


 そのことが少しだけ不安そうに漏らすユナ。

 さすがにこればかりはどうしようもないと思い、直接聞きに行く方が早いと裕也は思い始める中、


「え? 気付いてないの?」


 と、アイリがきょとんとした顔でユナを見ていた。


「何がですか?」


 その質問の意味が全く分からないユナは、アイリの問いかけに問いかけで返す。


「もしかしてユーヤお兄ちゃんも?」


 裕也もまた首を傾げていたため、アイリはびっくりした顔で裕也を見る。


「だから、何が?」

「あー……そっかー……。仕方ないとは言えば仕方ないけど、気付いてなかったのかー……」

「だから、何がだ?」

「あまり驚かないでね? 前置きしておくよ?」


 裕也とユナが絶対に驚く自信があるのか、念を押すようにアイリはそう言い、二人の返答を待たずに、


「実は救護室ってこの部屋の二階下に位置するんだよ? だから、救護室に王女様が居たらの話になるけど、距離的な問題は大丈夫じゃないかな?」


 と、ユナの問題が解消されることをあっさりと二人へ教えた。


「え? マジで?」


 アイリの様子からウソを吐いているわけではないことはちゃんと理解していたが、それでも裕也は確認せざるを得なかった。

 もちろん、アイリは即座に「うん」と頷く。


「お城を設計したのは誰なのかボクにも分からないけど、間取り図を見たら、実はそうなってるんだよね。ただ、通路が敵に攻められた時用に少しだけ迷いやすいようになってるから、気付かない人が多いみたいだけど……」

「だからか。なんとなく通路の造りが似たように感じることがあるのは」

「うん。そう感じるのは間違ってないと思うよ。初見さんを惑わすには十分な効果があるしね」

「そうだな。迷ってる隙に王女様を逃がすことも可能だな。アベルが残したあの紙もあれば特に……」


 そう言って、ベッドの上に散らばっている紙へ視線を向ける裕也。


「そうだね。あれもあったら完璧に近いのかな?」


 実際行動してみないとどうなるか分からないことを踏まえたらしく、断言とはいかないものの、疑問を付けた形で賛同した。


「まぁ、そのことはいいや。ユナ、アイリの言う通りなら連絡取れるか?」


 考えても仕方ないことなので、目先の問題を解決しようとユナに尋ねると、


「大丈夫だと思います。アイリちゃんも頑張ったんだから、私も自分の力で頑張らないと!」


 と、少しだけ意気込んだ様子で裕也に頷いてみせる。


「……地味に嫌味を言われたような気はするけど、聞き流すか……」

「嫌味?」

「気にしないでいいよ。意識してなかったみたいだから。それよりもだ! アイリみたいに倒れるまでの無理はしないでくれよ? 二人が倒れるみたいな展開になったら、オレ一人じゃどうしようも出来ないんだから」

「現在進行形で役立たずですもんね」

「うるさい」

「そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。『ちょっとだけ大変かも?』ってだけですから。じゃあ、やりますね」


 ユナは一通り笑いを溢した後、先ほどのアイリと同じように目を閉じる。そして、魔力の同調に意識を集中し始めた。


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