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烈空武装イナヅマン(ご当地ヒーロー大戦)  作者: はくたく
第四章 株式結社 ゲル・ファーザー
24/28

作戦開始



「魚籠鳥居ローメンマンこと臼田うすた宗介そうすけだ。よろしく」


「アップルレンジャー、リーダーのシナノレッド。赤井あかい倫吾りんごです」


「あ……あのあの……聖女ラ・フランス……星布ほしぬの聖羅せいらです」


 作戦当日の朝。

 俺達は、ともに作戦行動をする予定の地元ヒーロー達と、顔合わせをしていた。

 ローメンマンは、否市ローカルのヒーローで、地元名物のローメンという料理をモチーフにしている。ローメンとは、蒸した麺に羊肉ベースのスープを掛けてある、なんというか、見た目焼きそばとラーメンの中間のような料理である。

 だが、似ているのは見た目だけ。味は全くの別物だ。

 俺は一度だけ食べたことがあるが、実に個性的な味わいであった。一説には、何度も食べないとその真の旨さは分からない、と言われているようだが、そのエキセントリックな風味も、独特のざらついた蒸し麺の舌触りも含めて、まあ、一度食べれば充分、というのが俺の正直な感想だ。

 ソースや酢をたっぷり掛けて食べるのが地元流らしい。それぞれ「自分流」の味わいを作り出せるところが人気の秘密、という話だが、俺には、羊肉の臭いを消そうと苦心しているようにしか思えなかった。

 しかし、地元民のローメン熱愛ぶりは凄まじく、ローメンマンも大人気だ。

 独特の浅いどんぶりを頭に乗せ、ソース色のぴっちりしたスーツに身を包み、具のキャベツや羊肉を模したアーマーと、名前の通り魚籠と鳥居をモチーフにした、奇妙な二つの武器を携えた姿は、カッコイイという感覚からは微妙に外れているように思うのだが。

 そのふざけた……もとい個性的な変身姿とは対照的に、臼田と名乗った変身者は、静かで落ち着いた雰囲気で、ラフに着こなしたカウボーイ風の服装も、良い意味でよく似合っている。百戦錬磨とは、こんな感じを言うのだろうか、年齢は二十代後半くらいの頼れる感じの大人であった。

 そのオーラというか、ヒーローとしての実力みたいなものが、肌で感じ取れるのは、いくつか戦闘を経験して、俺も経験値がアップしたってことかも知れない。


 アップルレンジャーは、その名の通り、リンゴがモチーフの戦隊で名蛾野県全域を活動しているらしい。

 リーダーはシナノレッドレンジャー。

 この他、サンフジレンジャー シナノドルチェレンジャー シナノスイートレンジャー アキバエレンジャー アイカノカオリレンジャーと、覚えにくく長い名前のやつらが五人いて、総勢六名。全員が男で色も全員赤という、見分けにくい厄介な連中だ。

 なんでも、もともとは地元農業高校のバスケ部で、体育館に現れた境界面の影響で、まとめてヒーロー化してしまったらしい。彼等に言わせると微妙に色は違うとのことだが、正直、同じにしか見えない。


 聖女ラ・フランスは、珍しく女性単体のヒーローである。

 変身前は、藤色のロングスカートをはいた、栗色の長い髪が美しい女性だ。変身後は、体にぴったりした黒の衣装にやはり黒いロングブーツ。赤い仮面とマント姿となる。少し、しどろもどろなしゃべり方は、いつものことなのだろう。他の連中も特に突っ込みをいれない。

 見るからに体育が苦手な女子っぽく、少しぽっちゃりめでおっとりして見えるが、実はスポーツ万能。特にフェンシングでは、甲信越チャンピオンなのだそうだ。

 剣だけでなく、上田流護身術などの体術も修めていて、戦闘力はローメンマンにもまったくひけをとらないということだ。


 それにしても、俺達のいる場所がヒーロー控え室、とちゃんと表示されているのも意外なら、すでに戦闘員の姿でうろちょろしているゲル・ファーザーの社員達がいるのも驚きだ。

 作戦開始のタイミングは、たしか正午のはず。

 このイベント会場は、本来なら敵勢力圏のまっただ中なのだ。日中だから、イーヴィルってヤツらも姿は見せていないが、例のマグニフィカみたいに、こっちの人間と融合したみたいなヤツは、その辺にいるかも知れないのに。


「へえ? イナヅマンシステムは光無しでも運用できるとは聞いてたけど、君、本当に普通の高校生なんだな」


 不躾に俺の顔を覗き込んできたのは、アップルレンジャーの一人だ。たしか、赤織野あかおりのカイとかいったか。茶髪でロン毛。耳にはピアス。イケメンには違いないが、軽薄そうでヒーローってよりは、駅前周辺にたむろしている方が似合っている感じだ。


「しかもなんだよこの包帯? 君ケガしてんの? 腐杭県は怪我人寄越すほど人手不足なの? ね? ね?」


 しつこく聞いてきて鬱陶しい。

 枇杷湖での戦いからまだ十日あまり。たしかに傷は完治しちゃいないが、立花おやっさんからもらった薬で、相当良くなってきてはいるのだ。それにしても、骨折が治る薬ってのもよく考えてみりゃすごいな。イナヅ人の科学力ってすげえ。


「よせカイ。あの県は、ものすごく田舎で、人口が極めて少ないんだ。警察だって人手不足は深刻なんだよきっと」


 止めてくれたのは嬉しいが、なんか言わんでいいこと言ってるこいつは、砂野愛志すなのいとし。やはりアップルレンジャーの一人。中では一番身長が低いが、イケメンには違いない。いわゆる可愛い系男子である。


「なによそれ? ウチのリーダーが気に入らないっての? この怪我は名誉の負傷よ!! あんたたちだって、そのちゃらちゃらした服装でヒーローだなんて、笑っちゃうわ」


 椅子を鳴らして立ち上がったおまつさん、やっぱキレたか。って、でも俺、いつの間にリーダーになった?


「へえ? 君、可愛い顔して堅いんだなあ……服装とか気にしちゃうわけ? カッコ良くて強けりゃ、ヒーローなんて充分でしょ?」


「強いんならね? 試してみる?」


 おまつさんと赤織野カイの間で、視線が火花を散らす。


「やめなよカイ。こんなとこで騒ぎ起こしたら、敵にも知られちゃうよ?」


「あんたもさあ、他所の県のこと、知りもしないクセにごちゃごちゃ言ってたけど、この県だっておかしいんじゃない? 市を一つイーヴィルに取られてて、なんであんたらフツーにしてられるわけ? 沫元市っていったら、中核市でしょ?」


「名蛾野には、元々ヒーローが多かった。だが、沫元が侵略された時、山地で遮られていて応援に駆けつけるのが遅れたんだ。沫元のヒーローは、全滅してる」


 不機嫌そうに言って視線をこちらに投げたのは、ローメンマンこと臼田さんだ。


「そう。でも、その山地のせいで、ヤツらも容易には他の市町村へ版図を広げられないでいるの。今が、最後のチャンスなのよ」


 悲しげに目を伏せて言ったのは、ラ・フランスこと聖羅さんだ。

 さすがのおまつさんも、この二人にそう言われては、矛を収めざるを得ない。 不機嫌そうな表情はそのままだが、おとなしく椅子に座り直した。


「……でも、なんでこの季節外れに『リンゴ祭り』なのかくらい説明して欲しいわね。ヤツらの罠じゃないって証拠のためにも」


 言われてみれば、今は夏。リンゴの季節はまだまだ先だ。

 険悪な空気がほぐれてほっとしたのか、また別のアップルレンジャーが口を挟んだ。


「ウチのメンバーが失礼しました。お詫びのしるしにお答えしますと、季節外れだからこそやるのですよ。リンゴ収穫の最盛期はかき入れ時でもありますからね。のんびり祭りを楽しんでいる場合じゃない。今の時期は、リンゴ農家はちょうど暇な時期なんです。B級グルメやリンゴ加工品販売で、県外からの観光客も見込めますから。で、なんで『リンゴ祭り』なのかといえば、植え替え期でもあるから、様々な品種のリンゴの苗を売ってるんですよ」


 なるほど、窓から見える会場にはたくさんの緑の苗が並べられ、リンゴ祭りというよりも、緑化イベントのように見える。

 そして、長々と説明臭いセリフを吐いたこいつは、秋葉英あきばえい

 イケメン揃いのアップルレンジャーの中でも、飛び抜けた長身にメガネを掛けた、落ち着いた無表情で、まるでロボットのような印象を受ける。

 あとは、藤佐ふじさりん篠苗輝斗しのなえてるとの二人で、アップルレンジャーは全員だ。


「今更だが、作戦を最初からおさらいするぞ」


 ローメンマンさんが、二つ合わせた長机の上に、会場見取り図と進行表を広げた。

 決めたわけではないが、一番年長のローメンマンさんが、なんとなくこの場のリーダーっぽくなっている。また、そのことに誰も異論は唱えなかった。


 作戦の内容はこうだった。

 まず大きな意味で俺達は囮だ。このイベントを狙って、イーヴィル達の主力はこちらへ来ているだろうが、それは日中でも動ける、操られ型のヒーローもしくは、憑依型の敵幹部のみのはず。本命は否市と沫元市の市境にあるとされる、ダークネスウェーブの本拠地である。

 ここをゲル・ファーザーの幹部怪人が一斉に攻撃する。

 本拠地にあるはずの魔法陣の守りは手薄な上に、そこにいるのは、日中は外へ出られないイーヴィル達だけ、である。魔法陣が砕ければ、ダークネスウェーブ世界からイーヴィルへのエネルギー供給は絶たれ、周辺のイーヴィルは消滅もしくは無力化し、憑依型の敵幹部も弱体化できるはずだという。これはゲル・ファーザーの戦闘データと研究成果から得られた結論だ。

 このリンゴ祭り会場では、正午に市民にまぎれたゲル・ファーザーの戦闘員が、一斉に正体を現し、市民を全員体育館へと誘導する。体育館といっても、県営だからでかい。

 ドーム状で総収容人数は三万人。しかし、フロアはフードコートになっているので、実質収容人数は数千人といったところ。とはいえ、食事時であるからここへ詰めかける人は多いであろう。

 メインステージ上ではなにかと出し物があるようだが、正午から十五分間は休憩時間。進行役の地元ラジオ放送局のパーソナリティしかいないはずだ。

 ゲル・ファーザーの技術で、すでに建物全体が防御コーティングされているという。市民を安全に収容した後は、俺達は守りに徹していればいい。本拠地の魔法陣が砕け、敵が弱くなったところを攻勢に出て叩く。うまくいけば敵を全滅させ、沫元市も奪還できるという寸法だ。

 俺達三人は、体育館の西サイドを受け持つこととなった。南の正面玄関はローメンマン、東と北はアップルレンジャーが三人ずつで守る。防護壁で守られた体育館を背に、外で彼等と戦うわけだが、敵に囲まれる心配はないから戦いやすい。

 体育館内部はラ・フランスが、ゲル・ファーザーと協力してイベントっぽく盛り上げて市民を落ち着かせる。市民が気付かないうちに、すべてを終わらせてしまおうという寸法だ。


「そんなうまくいくの?」


 首を傾げながら聞いたのは、またおまつさんだ。

 これに答えたのは、シルキー・ゲルさん。こちらに来ている、唯一の怪人幹部だ。


「大丈夫です。我々、ゲル・ファーザーの技術を甘く見ないでください。屋外の店舗も、すべて当社の息が掛かっていますしね。市民の誘導は任せてください」



***    ***    ***


 公園内の時計台を見上げると、午前十一時五十分。作戦決行まであと十分だ。


「ホラ。なに顔、強張らせてんのよ? それ、犯罪者の顔だよ?」


 おまつさんが、肘で俺の脇腹をつつく。

 だが、緊張するなという方が無理だ。何が無理って、おまつさんと小鮎ちゃんという、二人の美女を両脇にして、パラソル下でスイーツなんてシチュエーション。こんなの、これまでの俺の人生では決してあり得ない。

 作戦に対する恐怖? 不安? そんなもんは、目の前のおまつさんを見るだけで吹っ飛んでしまっている。

 そりゃあ、観光客の振りするための作り笑顔だって事は分かってる。

 でも、このひと、こんな顔で笑うのか……って思うだけでも胸の裡からこみ上げてくるものがある。

 この瞬間が永遠に続けばいいのに、なんて、状況も立場も超越したバカな考えが湧き出て止まらない。


「げ。今度はにやけ始めた。しっかりしてよリーダー!? そりゃ、強張ってるよりはいいけどさ」


「あの……敬太郎さんがリーダーだって、いつ決めましたっけ?」


 小鮎ちゃんがおずおずと聞く。

 そうそう。そういえばそのこと、俺も聞こうと思ってたんだ。


「決めてないわよ。でも、そういうことにしておかないと、いざという時、公平に責任取らされるじゃない?」


「へ?」


 俺は思わず間抜けな声を出した。


「だってあたし達、今、警察を騙ってここに来てるのよ? これって、立派な犯罪でしょ? 捕まった時、責任者がいないと困るわけ」


 いやいや、言ってる意味は分かりますが、それで何で俺がリーダーになるのか、さっぱり分かりませんが?


「あんたは唯一の腐杭県民。しかも、もともとイナヅマンシステムの装着者。責任者として不自然じゃないでしょ? 大丈夫よ。未成年なんだから、名前は出ないって」


 ひどい。

 俺の脳裏に、モザイクかけられた俺の顔が、少年Aとして報道されている映像がリアルに浮かんだ。


「小鮎ちゃんは中学生なんだし、ヘタすると未成年者略取誘拐の容疑もついちゃうかも知れないけど……ま、いいよね?」


 ちっともよかない。

 俺の気分は天国から地獄へ直滑降したが、文句を言うヒマは無かった。

 正午のサイレンが鳴り響いたのだ。


『きくいちもんじ!! アーンド!!』


『馬山美奈子の!!』


『ダチラジ!! V2!!』


 パーソナリティの陽気な声と同時に、体育館内での生放送が屋外スピーカーから流れ出した。

 と、同時に公園内のあちこちから悲鳴が上がる。


「きゃあ!! 何!?」

 

「おいおい!! 何コレ!?」


「イー!!」


「イー!! イー!!」


「おお? こいつらTVで見たことあるぜ。ゲル何とかの社員だろ?」


「なぁんだ。イベント? もう、びっくりしたじゃない」


 屋台の売り子さんや警備員、清掃員などに擬装していた戦闘員達が正体を現し、手近な人を捕らえては、体育館へ行くよう促し始めた。

 市民も一旦は驚いたようだが、どうやらヒーローモノのイベントか何かだと思ってくれ始めたらしい。戦闘員達は出来る限り丁重に、しかし少々強引に、市民を誘導している。

 体育館入り口では、怪人に変身したシルキー・ゲルさんが、市民を一人一人チェック。

 その手に持っているスマホのような装置は、イーヴィルの反応を見ることが出来るらしく、敵が体育館内に入ることを防げるのだという。

 ヤツらの本拠地では今頃、ゲル・ホッパー専務率いる怪人部隊が、一斉に攻撃を開始しているはず。

 俺達の変身はまだだ。

 この展開を見て、本拠地を急襲されたことを知り、イーヴィルに操られたヒーロー、もしくは憑依された人間が暴れ出すまでは、市民の振りを通す予定なのだ。

 それにしても、えらく平穏だ。

 市民の中にイーヴィルは紛れていないようだし、和やかな雰囲気は変わらない。

 もしかするとこのイベント、狙われてなんかなかったんじゃないか……と、思い始めた時。


「イギヒィイイイーー!?」


 戦闘員の一人が、体育館の壁に叩き付けられた。

 余程強い力だったのだろう。可哀想に、戦闘員の体は無惨にも壁に張り付いたまま落ちてこない。確かめるまでもない。即死だ。


「来たわよ!! みんな変身して!!」


 おまつさんが、懐から赤いライ・チャージャーを取り出し、正面に構える。


「了解!!」


 小鮎ちゃんも俺の横で同じポーズを取った。


「天力招来!!  雷身変化!!」


 三人の声が重なる。

 半径三メートルの物が全て吹き飛び、土煙が視界を覆う。

 その間に、俺達はそれぞれ金、赤、青の雷鎧ライ・アーマーにその身を覆われていた。


『武装降臨!!』


 叫ぶと同時に、真っ先に駆け出したのはおまつさんだ。

 その向かう先には、先ほどの戦闘員を吹き飛ばした敵がいる。だが、俺はその姿を見て息を呑んだ。


『てて……天使?』


 そこにいたのは、白く輝く体に、やはり真っ白な翼を生やした、人型の物体だったのだ。


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