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烈空武装イナヅマン(ご当地ヒーロー大戦)  作者: はくたく
第四章 株式結社 ゲル・ファーザー
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素人集団


 慈愛に満ちた微笑み。

 舞い降りた天使の表情は、まさに宗教画のそれと酷似していた。しかし、その凍り付いた笑顔は、能面のように動かない。

 手にぶら下げているのは、ゲル・ファーザーの戦闘員である。

 握られた首は既に折られているのだろう。ブラブラと揺れる頭は、何の意思も示してはいなかった。


「雷炎砲!!」


 おまつさんの叫びと共に、天使の顔面が炎に包まれる。

 うわ。容赦ねえ。

 あんだけ神々しいと、もしかすると天使の方が正しいかも、なんて思いかけていた俺は、頭を振ってその考えを吹き飛ばす。

 そんなはずはないのだ。だって、あの戦闘員はただの人間。ていうか、営利企業の社員だ。

 それを無惨にも殺すような存在が、本物の天使のはずはない。


『イナヅマン!! アイツから百鬼猿と同じイーヴィル反応があります!! 日中でも活動できるように進化したイーヴィルだと思われますッ!!』


 背中でシルキー・ゲルさんの声を聞き、俺も走り出した。

 右手に降臨してきた武装は雷獣剣。

 顔の炎を消し止めた天使がこちらを向いた瞬間、俺はその胴体を横薙ぎにしていた。


「クゥアアアアアアッ!!」


 鳥のような声を残して虚空へ霧散する天使。

 パワーの割には意外に弱い。防御力は大したことないようだ。


「油断しないで!! 次!!」


 おまつさんの声。

 振り返ると、上空からまたも白い天使が。今度は青いイナヅマン……小鮎ちゃんに向かって襲いかかるのが見えた。小鮎ちゃんは不意を突かれたのか、尻餅をついている。

 すかさず、左手に召喚した雷空砲を、天使の頭部目がけて放つ。

 一瞬早く、それを避けた天使がこちらへ向き直った瞬間。レーザー光線のようものが、その頭部を貫いていた。

 発射したのは小鮎ちゃん。イナヅマン・アクアの武器、『水槌銃』である。

 天使はやはり、奇声を残して空中へと霧散した。

 俺は小鮎ちゃんの傍へ駆け寄り、立ち上がるのに手を貸した。


「大丈夫か? 小鮎ちゃん?」


「はい。ちょっと驚いて、対応が遅れちゃいました」


「気をつけてよ。あなた、初めての実戦なんだから」


 そう言いながら、遅れて駆け寄ってきたおまつさんが、俺達の後ろを守って立つ。


「一体何なんですかねコイツら。見たこともないし、操られてる人間っぽさもない」


「でも、戦闘力は大したことないわ……特殊攻撃もないし、特に防御力はゼロに等しい。他の連中も、こんなのにやられたりはしないと思うけど……それより」


「それより?」


「市民の視線が痛いわ」


 おまつさんの言うのもよく分かる。見た目明らかに悪役の戦闘員を庇い、どう見ても天使にしか見えない連中を消滅させていく俺達が、市民の目にどう映るか、考えなくても分かる。


「数はそう多くないし、一気に片付けちゃうのが得策ね」


 そう多くない? まだざっと数十匹はいる天使達を見て?

 おまつさん、いったいどんな修羅場をくぐってきたんだか……


「一気に? ど……どうやって?」


「ツインアーマー。こういう場合は、出し惜しみしないでやっちゃうの」


 なるほど。たしかに、この状況を長引かせるのはまずい。一気に決めてさっさと撤収すれば、市民に白い目で見られる時間も短くて済むというものだ。


「地力招来!! 雷獣神!!」


「炎気招来!! 鳳凰神!!」


「水流招来!! 龍王神!!」


 俺達の体を、それぞれ黄金、真紅、蒼白の稲妻が包み込み、乗機ファミリアから転送されてきた強化装甲が覆う。


「雷撃波!!」


 俺は完全装着を待たずに、上段に構えた雷獣剣を、迫り来る天使たちに向けて振り下ろすと、迸る稲妻が数人の天使を包み込んだ。

 

「火炎撃!!」


 反対方向から襲ってくる天使たちの中に、おまつさんは単身で走り込む。

 重い装甲アーマーは、本来動きを鈍らせるが、おまつさんのフレイムアーマーは、背中から炎を噴き出して加速させている。繰り出したパンチ……というかほぼ体当たりに近い攻撃で、数匹の天使を吹き飛ばした。


「水龍斬!!」


 小鮎ちゃんは、両腕のアーマーから放射状に噴き出した水の膜を振り回し、上空から襲い来る天使を迎撃している。巨大な扇子にはたき落とされたように、天使達は地上に落下する。

 俺達の攻撃を受けた天使達は、大気中に溶け、霧散していく。

 防御力はたしかに低い。


「あらかた片付いたわね!? 他の連中は大丈夫かしら?」


「俺、見てきます!!」


 連絡がないということは、こちらより苦戦している可能性はある。

 体育館の正面はローメンマンさん、裏玄関を守っているのは、アップルレンジャー達のはず。

 どちらへ行こうか一瞬迷ったが、俺は裏玄関へ向かった。

 要するにどちらが苦戦していそうか、ということだけだが、ローメンマンさんが苦戦している姿は、どうしても思い浮かばなかったからだ。

 思った通り、建物を回り込んだ途端に、赤いスーツ姿が一人転がってきた。


「大丈夫か!? えーと……シナノスイートレンジャー?」


「サンフジレンジャーだッ!! くそ。みっともないとこ見られちまったな」


 サンフジレンジャーは俺の手を振りほどき、体の土を払って立ち上がる。


「そっちはもう片付いたのかよ? さすがだな」


「それほどでもない。作戦勝ちってところだ」


 それは正直な感想だ。天使どものパワーは尋常ではなかった。おまつさんのアドバイスで、一気に勝負を掛けなかったら、もっと苦戦していたに違いない。


「こっちは作戦ミスだ。市民を人質に取られちまった」


 数匹の天使の背中に隠れるようにして、小学生らしき一団が囚われている。

 いや、あの様子はもしかするとあの子達、天使達に守られてると思ってる?


「まいったぜ。ゲル・ファーザーの戦闘員なんかに市民の誘導を任せたのが間違いだった……あれじゃあ、でかい必殺攻撃はかませねえ」


 たしかにあれでは、小学生達を巻き込んでしまう。

 要するに、こっちが悪だと思われてしまったようだ。それにしたって、こっちはヒーローの格好してるってのに、そこまで疑わなくても……


「ゲル・ファーザーの手先の赤い怪人めー!! 天使様にやられちゃえー!!」


 おい。なんだあの子達の反応。

 アップルレンジャーって、名蛾野全域を活動してんじゃなかったのか? なんで知られてないわけ??

 アーマー越しにも、俺の冷たい視線を感じたのか、サンフジレンジャーは恥ずかしそうにそっぽを向く。


「ま……まだ活動始めたばっかなんだよ俺達……実戦も初めてだし……」


 待て。

 さんざん人を素人扱いしといて、実戦が初めてだと!?


「おーい!! 違うよ坊や達―!! 悪い怪人はそいつらなんだー!! 僕たちは、正義のヒーロー!! アップルレンジャーだよー!!」


「そうだよー!! ホラ!! お兄さんたち、レンジャーのカッコしてるだろー!?」


 公衆トイレの陰に隠れながら、あとの二人……何レンジャーかは知らないが、そいつらが自分の姿を小学生にアピールしつつ、誤解を解こうとしている。

 俺は戦闘中であることを忘れて、頭を抱えて膝を突いた。

 アホか。

 誰がトイレに隠れるようなヤツらを、ヒーローだと信用するものか。

 誤解を解いたところで、小学生が円陣を組んだヤツらの中から、自分で脱出できるはずはない。

 天使達は、小学生がいる間は彼等が攻撃できないと悟っているのだろう、態勢を崩さずに手からの光弾で二人を集中的に攻撃している。


「うそつきー!! レンジャーは色んな色がいるんだよー!! 赤ばっかしなんて、全部ニセモノだー!!」


 追い打ちをかけるように、子供達の罵声が飛ぶ。まあ、当然の反応だろう。


「サンフジレンジャーっつったか。お前、まだ走れるか?」


「あ……ああ。どうする気だ?」


「あの二人とは反対側に、大きな木があるだろ? そこに回り込め。二方向から天使たちの注意を惹き付けてくれれば、俺が正面から突っ込んでも、向かってくるのは一、二匹だろう。それなら剣で斃せる。俺が突っ込んだら、お前らも遅れず突っ込め。天使の防御力は高くない。一人あたま二匹は斃せよ?」


「わ……わかった。でも……」


「まだなんかあるのか?」


「天使って……一匹二匹って数えるのか?」


「んなことどうでもいいだろ!! 行け!!」


 俺に一喝されたサンフジレンジャーは、慌てて駆け出した。

 姿勢を低くして走る姿は、けっこう様になっている。しかし、まさか素人集団とは……まあ、俺も少し前まではそうだったわけだが。


『いい作戦だな、イナヅマン』


「うわびっくりした!! いたのかサバズシ!?」


 不意を突かれて俺は飛び上がった。


『当然だ。変身すれば常に君の傍にいる』


「そ……そう言われてみりゃそうだったな」


『ところで、いい作戦だが、ひとつ穴がある』


「穴ぁ?」


『君が突っ込んで、何匹か斬り倒した瞬間、残りの天使が小学生を襲ったらどうする気だ?』


「そ……そりゃあ、そんなことが無いように、あいつらにも突っ込ませるってわけなんだけどな?」


『それでも万全ではない。特に初陣の彼等が突入のタイミングを失する可能性は高い。そうなれば犠牲者が出るぞ』


 たしかにサバズシの言う通りだ。市民を危険に晒して、万が一のことがあれば……それも子供達なのだ。お詫びのしようがない。


「どうしろって言うんだよ?」


『任せろ。そういう時のために、私が存在するのだ』


「ええっ?」


『作戦を変える必要はない。そのまま突っ込めと言っているんだ』


 どうする気なのか、説明する気はないらしい。

 この局面を打開する、どんな策があるのかサッパリわからないが、もう猶予はない。公衆便所も骨組みだけとなり、とっくにたどり着いたサンフジレンジャーの隠れている木は、天使の光弾で脆くも崩れ去ろうとしているのだ。

 あと数秒で、三人のアップルレンジャーは仕留められてしまうだろう。


「じゃあ、行くぜ?」


『行け!!』


 俺は、円陣を組む天使達に向けて駆け出した。


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