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その土地に残る作法には、だいたい理由がある  作者: トミカ


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5/10

夜の納屋

夏休みのあいだ、私は祖父の家に預けられていた。

祖父のことは好きだった。朝は一緒に畑へ行くし、昼には冷えた麦茶を出してくれる。口数は少ないけれど、そばにいると安心できた。


ただ、家の裏にある納屋だけは、昔からあまり好きじゃなかった。


昼でも中が暗い。

一度だけ祖父のあとについて中を見せてもらったことがある。鍬や鎌、肥料の袋、木箱が置いてあるだけで、別に変なものは何もなかった。ここならかくれんぼで最後まで見つからなさそうだな、と思ったくらいだった。


今年も来た初日に、祖父は裏を歩きながら言った。

「夜は納屋、開けるなよ」


私はうなずいた。

理由は聞かなかった。


––


昼のあいだは、納屋のことなんて気にならない。

畑に行って、戻って、昼を食べて、川に行って、夕方になる。


ただ、日が傾いてくると、裏を通るときだけ足が少し速くなる。

納屋の前は、同じ場所なのに影が濃く見える。


田舎の夜は、音がする。

縁の下で何かが動いたり、屋根で小さく音がしたりする。最初は全部怖かったけれど、たいていは猫か、風か、そのくらいだと分かるようになっていた。


––


三日目の夜だった。

その日は昼寝をしすぎて、布団に入ってもなかなか眠れなかった。目が冴えていて、虫の声ばかりが大きく聞こえる。


その中に、別の音が混じった。


……ずる。


何かが引きずられるような、低い音だった。


一度だけではなかった。

少しして、また鳴る。


……ずる。

……かさ。


庭のどこかで鳴っているようで、でも、だんだん場所がはっきりしてくる。

納屋のほうだった。


動物の音とは違う。

もっとゆっくりで、同じところを動いている感じがする。


私は布団の中で固まった。

息をするのも浅くなる。


音は止まらなかった。

……ずる。

……かさ。

ときどき、……とん、と小さく鳴る。


布団を頭までかぶっても、音は消えない。

むしろ、布団の中のほうが近く聞こえた。


その夜は、ほとんど眠れなかった。


––


朝になると、納屋はいつも通りだった。

戸は閉まっていて、何も変わっていない。


私は裏を通るとき、納屋のほうを見ないようにした。


––


その夜も、同じ音がした。

……ずる。

……かさ。

昨日と同じだった。


耳をふさぎたくなったけれど、できなかった。

音が消えたら、それがどこかへ来る気がした。


––


次の日、私は祖父に言った。

「夜、納屋うるさい」


祖父は少しだけ納屋のほうを見てから、

「早く寝ないと大きくならないぞ」

と言った。


それだけだった。


その言い方で、前の夜だけじゃないんだと思った。

ずっと前から、同じ音がしていたのかもしれない。

私が寝ていたから、知らなかっただけで。


––


夕方、私は一人で裏へ回った。

行きたくはなかったが、昼のうちに確かめておけば、夜に少しはましになる気がした。


納屋は西日で縁だけが明るく、その中は暗いままだった。


途中で何度も足が止まった。

戻ろうかと思った。

でも、戻っても夜は来る。


私は息を整えて、ゆっくり近づいた。


戸の前に立つ。

すぐそこなのに、手が伸びない。


しばらくして、やっと指先で戸に触れた。

冷たかった。


少しだけ引く。


隙間ができる。


中は暗かった。

昼に見たときと同じで、農具や袋がぼんやり見えるだけだった。


それでも、奥のほうだけ、光が届いていないように暗かった。

何も見えないのに、そこだけ目が離せない。


私はすぐに戸を閉めた。


––


その夜、また音がした。

……ずる。

……かさ。


私は布団の中で目を閉じていた。

音が続く。


昨日より長く感じる。


私は布団から出て、縁側まで行った。

庭は暗く、納屋は黒い形のままだった。


音は止まらない。


私は納屋のほうへ近づいた。

足が震える。


戸の前に立つ。

すぐ向こうで、音が続いている。


私は目をつぶって、戸を引いた。


中は真っ暗だった。

昼とは違って、奥がはっきり見えた。


そこに、人がいた。


動いていなかった。

ただ、こちらを見ていた。


私はすぐに戸を閉めた。

その瞬間、音が止まった。


––


私は走って部屋に戻った。

布団にもぐって、頭までかぶる。


その夜も、ほとんど眠れなかった。


––


それから、納屋のほうを見ることはなくなった。

昼でも、目を向けないようにした。


祖父は何も言わない。

納屋も、昼はただそこにあるだけだった。


夏が終わって帰る日、私は裏を通った。

納屋の前を、いつもより少し早く歩いた。


最後まで、もう一度見ようとは思わなかった。


––


大人になった今でも、あの納屋のことを思い出すことがある。

どうしてあそこに人がいたのか、考えるたびに、あのときよりも嫌な感じがする。


あのとき見た人影は、見間違いではなかった。

あの納屋の中には、間違いなく、人がいた。

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