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異世界ウサキック物語  作者: 草食丸
2章:人助け、悪徳ギルドにウサキックの巻
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21羽:中々のんびり出来ないウサギさん

「全員魔法切り替えっ、水魔法に集中! 術のない者は、足止めに徹底しろっ」

「「「はっ!」」」



 ヘイル隊長さんの号令に、騎士さん達は流石の連携を見せる。

 魔法は基本的に男女関わりなく使えるけれど、それなりのレベルとなると女性の方に軍配が上がるらしく、男性騎士は盾、女性騎士が魔法とほぼ二極に分かれて隊列を組んでいた。


 それに続くのはギルマスの声で動く冒険者さん達。

 彼等は騎士さん達のような統率の取れた動きは見せないが、流石は魔獣魔物退治の専門家らしい動きを見せた。

 特に驚きなのが、弓手が矢を放った瞬間まるで爆発するように水が広範囲に広がる攻撃だ。後で聞いたのだが、鏃に火の魔石を付けて水を破裂させ威力を上げたらしい。いわゆる水蒸気爆発だ。

 こう言った知識を利用した攻撃も、冒険者さん達の武器なのだろう。


 そんな水魔法による怒涛の攻撃に晒されたベヒモスは、ただひたすら回避に徹している。

 どうやら僕の睨んだ通り、ベヒモスは水が苦手なようだ。


 この状況においてもまだ僕を狙っているらしいベヒモスは、攻撃を掻い潜り此方に接近しようとする。

 一体僕の何がベヒモスをそこまで執着させるのか全くわからないが、そんなことは当然折り込み済みである為、多方向に分かれている水魔法部隊の布陣は僕のいる場所が一番厚くなっている。


 そんな当の僕は何をしているかと言うと、水魔法が使えないのでベヒモスの動きを邪魔する任を担っている。

 なお子供達は特別任務で全員出払っていて、僕の傍にいるのは最も幼い2羽のみ。その2羽もすぐ傍にいるミラさんの護衛というか、車椅子を押す係りに就いている。



「おい、イナバ本当にこれで良いんだな?」

「何がです?」



 ディアスさんは疑いが晴れぬといった表情で、ベヒモスに視線をやる。



「本当に魔法を()()()()()()()()()()?」



 そう実はベヒモスが回避していることもあり、その魔法の殆どが当たっていない。

 魔法は的を外れ、ただ地面を濡らしているだけなのだ。



「全く問題ないです、このまま続けて下さい」

「・・・信じるぞ? 信じてるからな?」



 ディアスさんの言いたいことは分かる。

 僕が伝えた弱点もそうだけど、そもそもそんな事が出来るのか。ディアスさんの中ではまだ半信半疑なんだろうな。

 でも大丈夫、だってあの人が詠唱に入ったから。





 ◆◇◆◇





 鬱陶しい。

 ベヒモスはただひたすらに苛立ちを募らせていた。


 ベヒモスはあまり水に慣れていない。

 水に浸かる理由が無く、水分摂取をする必要も無い、精々雨に当たる程度だ。

 故にこれ程大量の水に濡れたことが無く、水というそれそのものに理由の無い苦手意識があるのだ。


 今も尚使い続けている魔法のせいで腹を空かせているベヒモスとしては、さっさとイナバを腹に入れてしまいたい。

 だが動く先々で水魔法による砲撃、そして何よりも大きく動こうとする度地面から生えてくる『土の柵』が動きを阻害してくる。

 鬱陶しいことこの上ない。


 本来ベヒモスは奥の手としてブレス攻撃を持っている。しかしまだ若い個体であるこのベヒモスは、直接攻撃しか持ち合わせていなかった。もしそれを使えていたなら・・・この戦い、ベヒモスの圧倒的勝利で終わっていただろう。


 今回ベヒモスにとって不運だったのは、まだブレス攻撃を使えなかったこと。

 イナバというイレギュラーが居たこと。

 そして、ウサギが地面を歩く敵に対し、めっぽう強かった事だろう。


 バシャバシャと毛を濡らすだけのヤル気の無い攻撃に痺れを切らしたベヒモスは、攻撃が当たるのも構わず突進する。





 ◆◇◆◇





「来たっ!」



 ベヒモスは明らかに苛立った様子で此方に駆けてきた。

 僕は咄嗟にさっき考えた《土の柵》を発動、しかしベヒモスはそれをジャンプして飛び越えて来る。

 そりゃそうするよね、見た目半分ゴリラだもん。寧ろ今迄そうしなかった事のほうが不思議だ。


 今の隊列を組む前なら対応出来なかっただろう、だけど今はそれも予想済みだっ!



「アルメリアさんっ!」

「はいっ!」



 僕の居る部隊の後方に控えていたアルメリアさんが、魔法杖を構えた。その先端には、月の輝きを持った魔法石が輝いている。

 これはディアスさんが保管していた最上級の魔法石に、僕がこれでもかというくらい魔力を詰め込んだ、世界に一つしか無い最強の魔法杖だ。


 その魔力量、実に50,000,000MP。王国に保管されている宝杖の100倍である。



精霊回路接続(コネクト)──水の精霊に乞い願う(お願いします)我に水の恩寵を(力を貸して下さい)──《ヤマタノオロチ》」



 アルメリアさんの背後に現れた八つ首の水龍から、ウォーターカッターの様なブレスがベヒモスに放たれた。

 ベヒモスは空中でそれを回避することが出来ず直撃。その威力は凄まじく、遂にベヒモスの纏っている鎧を突破した。



「ガアアアアアアッッッ!?」



 これには流石のベヒモスも苦悶の表情を見せる。

 しかしそれでもジワジワと傷が修復されているのだから、つくづく巫山戯た存在だと思う。


 魔力を出し切ったからだろう、背後でアルメリアさんが膝をつく音が聞こえた。

 本当にありがとう、そして次は僕たちの番だ!

 僕はアルメリアさんの作ってくれたチャンスを逃さなかった。




『みんな、準備は出来たねっ』

『『『ぷぅっ!』』』

『いくよっ、《大沼》!!』



 地面の下でずっと待機していた子供達が、僕に合わせ一斉に《沼》を発動させる。


 僕等が普段から使う土魔法《沼》。これは土の中にある水気を操作し、ドロッドロに液状化させる魔法だ。

 でも土の中に含まれる水分はそう多くない、大雨の降った日でも無ければ膝くらいまでを沈めるのが限界なんだ。でも今は違う、今は水魔法のお陰で一面水浸しだ。


 子供達は地面の下でずっとこの水気を土に吸わせる作業をしていた。それも足場が崩れないよう固める作業を並行してだ。みんなよく頑張ってくれた、後でいっぱいナデナデしてあげないと!

 そして、子供達200羽とそれを超える魔法が使える僕とで合作した底なし沼、その深さは500メートル。

 突然足元が変化したベヒモスは、あっという間に大沼に飲まれていった。


 ディアスは言っていた、『魔物は生物の形をした自然災害』だと。でも言い換えれば生物でもあるってことだ。

 それと水を嫌がる様子を見たとき、僕はピンときた。もしアレに生物らしさが残っているとしたら?

 猪は水を怖がらない、ならベヒモスの、ゴリラの弱点は? ──ゴリラは泳げない。

 ゴリラは全身筋肉で、水に浮かない体だから泳げないらしい。

 その考えを証明するように、沼に沈んだベヒモスが上がってくることは無かった。


 こうして何ヶ月もドスの街に影を落とし続けたベヒモスは、深い地面の下で静かに倒された。





 ◆◇◆◇





「我々を苦しめてきた魔物討伐を祝して、乾杯だ!」

『『『かんぱーいっ!』』』



 今ドスの街は、ディアスさんの音頭で開催された祝勝会でどんちゃん騒ぎになっている。

 何ヶ月も苦しめてきた化け物の脅威が漸く消え、みんなの喜びもひとしおなんだろう。


 僕はというと、ディアスさんにお誕生日席に連れて行かれそうになったので、端のほうに避難中だ。



「イナバ殿、お疲れ様です」

「お疲れっす、イナバちゃん!」

「イナバちゃん、おつかれだよー」

「「「「「「ヒャッハー!」」」」」」

「お疲れ様、まぁもう三日くらい経ってるけどね」



 そう、実は沼に沈みながらもベヒモスは驚異的な生命力を発揮し、あの日から三日間も生き続けていたのだ。もう何度言ったか分からないけど、本当に出鱈目な存在である。 


 そんなこんなでベヒモス討伐が確認された日含め、二日間の祝勝会となって今日がその二日目。つまり先程の「お疲れ」はベヒモス戦に対する「お疲れ」ではなく、戦いの功労者として先程まで揉みくちゃにされていた事に対する「お疲れ」なのだ。

 ベヒモスと戦うよりも疲れた気がする。


 さて、後日談という訳でもないけれど、あれから起こった顛末のアレコレを話しておこうと思う。


 まず街には全く被害が無かった。

 それどころか死傷者もなく、怪我人も全員治療済み。結果被害の全く無い大勝利となった。最早奇跡である。


 続いて騒動を引き起こした元治術ギルド長だけど、国家転覆罪及び防衛都市への侵略行為で極刑が決まった。

 ただ背後関係を調べる為に一度王都へ運ばれるらしく、今は前よりも厳重な牢屋の中である。

 王都ではそうではもう、撤退的に調べられるらしい・・・こわっ。


 倒した魔獣達に関しては、その後地面を掘り返して回収。その殆どがほぼ無傷で倒された事もあり、かなりの高額で買い取られることとなった。その時のアマンダさ『お姉ちゃん、ですっ♪』・・・アマンダお姉ちゃんのホクホク顔が、未だ頭に残っている。人間って、あそこまで嬉しそうな顔が出来るもんなんだな。

 特にベヒモスの無傷討伐は過去に例がなく、かなりの高額になったらしい。戦闘らしい戦闘をしなかったので報酬を一番最後に回して貰ったのに、金貨が山のように積まれた。



「まぁそのお陰で俺達の装備も新調出来ましたし、言うことはありませんね」

「と言っても武器はイナバちゃん製のままっすけどね、これ凄すぎるんすよ」

「私もお金払うから、イナバちゃんの鏃がほしぃーい! ねー、良いでしょー?」

「まぁ別に構わないけど、僕は専門家じゃないからね? ちゃんと武器屋さんと相談してね?」



 僕が作った物で怪我して欲しくないから、専門の人に作って貰って欲しいんだけど・・・まぁ自分が作った物で喜んでくれるのは悪い気分じゃない。

 僕は喜ぶマリアちゃんの姿を見て「仕方ないなと」苦笑するのだった。


 さて、先程から一名だけ会話に参加していない者が居ることにお気付きだろうか? そう我らが愛すべき小動物少女、アルメリアさんである。

 彼女は・・・何というか、今回の騒動における唯一の被害者と言うか何というか。喜びの声が上がる中で唯一悲しみで、机に伏せていた。



「アルメリアさん、元気出しなよ。そのうちまた良いのが見付かるって」



 僕の声に反応して、僅かに顔を上げる彼女。しかし顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。



「ぅ゙ええええん、こわれぢゃっだあああああっ!」

「のわっ!?」



 ガバっと抱き着いてくるアルメリアさん。

 普段なら大歓迎んだけどな、今はちょっと鼻水が・・・あ、ぁぁ。ぅん、もう好きなだけ僕の胸で泣くがいいさ。後で洗えば良いし。


 何故彼女がこれ程悲しんでいるかと言うと、実は戦いのあとアレが壊れてしまったのだ。例の、世界に一つだけの魔杖の事である。

 僕が魔力を込め過ぎたのか、アルメリアさんの魔法が強力過ぎたのか、ベヒモスが沼に沈んだ後「パーンッ!」とそれは豪快に木っ端微塵に漫画みたいに砕け散った。

 あの魔法石を渡した時、アルメリアさんは凄く凄く喜んでくれた。一人だけお礼が後回しになっていたし、アルメリアさんは魔法が大好きだからね。

 それだけに今回の事に対する絶望感が半端じゃなかった。



「グスン・・・せっかく、イナバさんが作ってくれたのに・・・うえええんっ」

「また何処かで魔宝石を探してくるから、元気出して」

「・・・ぐす。また、作ってくれ・・・ます?」



 ぐあっ、上目遣いのおねだり顔の破壊力ハンパねぇっ!? 当然断る理由など無く、快く了承した。


 街の人も仲良くなって、悪い奴らも居なくなった上、ベヒモスという不安材料も消えた。

 これで漸くのんびり出来るな・・・と、そうは問屋が卸さなかった。




 後日、ディアスさんから依頼が舞い込む。



「えっ、今なんて?」

「お前に、隣の防衛都市まで届けて貰いたいものがある」



 そう言って一枚の手紙を手渡された。

 えっ、この手紙を200羽全員で届けに行くの? どうして?


 どうもキナ臭い。

 悲しい事に、夢のウサギのんびりライフはまだまだ先のようだ。

 此処まで作品を読んで下さり、誠にありがとう御座います。

 このお話にて二章が終了。先刻お話していました通り、残念ながら目標達成(★50)とはなりませんでしたので、一旦物語を閉じさせて戴こうかと思います。

 評価・応援・感想を下さった皆様、私の努力が足りず申し訳ありません。


 作品はすぐに消すわけでは御座いませんので、また暇潰しにでもお楽しみ戴けたら幸いです。


 以上、ありがとう御座いました!

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