プロローグ:その名はイナバ
この後、1話目も投稿します。
『面白い』と思って戴ける作品に仕上がっていれば嬉しいです。
とりあえず2章分くらい、毎日投稿します!
──ギィンッ! カンッ! キィーンッ!
剣が舞う、それは祝福された聖なる光を携え闇を切り裂く。
一方、その光に合わせて舞うように漆黒の剣もまた振るわれる。
一振り剣が舞う度に、闇夜が辺りを包み恐怖と絶望を振り撒いた。
「俺達は決して屈しない、世界の人々の想いがこの聖剣には込められているんだからっ。剣が折れない限り、俺の心が折れることもないっ!」
聖剣を構え言い放つ青年──勇者は自身の使命を全うすると、声を高らかにあげる。
そしてその声に、膝を着いていた彼の仲間たちも奮い立った。
だが現実は物語のように甘くは無い。
正義が必ず勝つ未来も無ければ、勇者が必ず勝つと約束されているわけでもない。
所詮は弱肉強食、勇者が弱ければ簡単に淘汰される。
そこに正義は無い、正義は常に勝者の傍にあるものだ。
物陰からぞろぞろと異形の者達が姿を現した。
漆黒の剣の持ち主──魔王の配下である。
魔王は「余興は終わりだ」とでも言うように、勇者に向かい手を振った。それに合わせ、配下たちが武器を片手に勇者達を包囲する。
「くそっ! 卑怯だぞ、魔王!!」
格上の存在と激闘を繰り広げた勇者は、既にボロボロであった。
頭からは血を流し、全身傷だらけで無事な所が無い。
鎧も一部破損している、仲間達も似たような状況だ。特に魔力を使い切った聖女の消耗が激しい。
「くそっ、こんなところで・・・」
勇者は何とか生還できる方法を模索する。
傷だらけの体を押して、負傷した仲間を庇いつつ、動けない聖女を担いでこの分厚い包囲網を突破する。
どう考えても不可能だ。
「諦めないっ、諦めてたまるか! でも・・・」
一度口にしてしまえば止まらない。勇者の心は、言葉とは裏腹に諦めの気持ちが侵食していた。
だらりと無意識に聖剣が下を向く。
人間は、どうにもならなくなると現実逃避の為か全く違うことを考える事がある。
この時、勇者の頭にあったのは故郷の妹のことであった。
「最後に貰った手紙には子供が出来たって・・・そろそろ生まれる頃だろうか。一度見てみたかった・・・」
長い間見ていない最愛の両親、涙を見せぬよう笑顔で自分を送り出してくれた妹、そしてまだ見ぬ家族。
会いたい。
だがそんな勇者達の目の前にいるのは異形の魔物達、その事が悔しくて堪らなかった。生きたかった。
しかし勇者の想いを踏み躙るかの様に、牛頭の化け物が彼に歩み寄る。
「ブフゥーッ、ブフゥーッ!」
生臭い息が顔にかかる。
筋骨隆々の身体に、手には棘のついた金棒。当たればひとたまりも無いだろう。
「ここまでか・・・」
覚悟を決めた勇者。
だがせめてもの抵抗をと、顔を上げ牛頭の化け物を睨みつけた。
身の丈は二メートルを超えているだろう、鼻息は荒く目は血走っている。
人の身体に牛の頭、その左右からは人の腕ほどの太さもある湾曲した鋭い角、そして頭の上には可愛らしい兎耳の少女が立っていた。
・・・・・・ん?
勇者はもう一度牛の頭に目を向けた。
牛の頭、鋭い角、女の子。
「・・・えっ?」
見間違いではなかった。
少女は鈴のような声で勇者に話しかけてきた。
「ポルテ村のジークさんって貴方ですか?」
「え・・・あ、あぁ、そうだ。ジークは俺だ」
久々に名前を呼ばれた勇者は戸惑いつつも少女に答えた。
「良かったー! いやね、せっかく着いたと思ったらめっちゃ人が居るじゃないですか? で、僕ジークさんの顔知らないからワンチャンこの牛の人がジークさん? って思ったりもして困ってたんですよね!」
「君はいったい・・・」
勇者が尋ねると、少女は胸を張ってこう答えた。
「僕はイナバ、郵便配達員ですよ! ポルテ村のジークさん宛に妹のジーナさんから速達のお手紙です♪」
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