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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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研究者達

メルシュ博士の行いを肯定できる人間は少ないだろう。むしろそれが望ましいとも言える。あれを手放しで肯定できてしまうのは、逆に危険なことだろうから。


博士自身、それでいいと考えていた。いずれリヴィアターネ人達が明確な人間性を獲得して、人間としての倫理観や価値観を確立して、自分の行いを強く非難してくれるのならそれはそれで楽しみであった。それが行き過ぎて極端な自己否定に走り、町が壊滅することになったとしても、それさえも実験の結果として受け止めるだけだろう。アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士という人物はそういう人間だった。


彼女は決して善ではなく、また正義でもない。自らを正義と称する趣味もない。彼女はどこまでも己の興味に忠実なだけであった。


そんな彼女の陰で、他の研究者達はどうしているのだろうか?


<アリスマリアの閃き号>は現在、リヴィアターネにてCLSの研究を行っている他の研究者の通信を傍受している。だがその内容を確認してみても、何も進展している様子もない。ワクチンの開発に目途が立ったという情報もない。だが他の研究者も、CLSウイルスには人為的な手が加えられており、かつてリヴィアターネに存在した文明によって生み出された生物兵器の可能性を指摘していた。


また、ロボット達が備える通信機能によって疑似的に構成されたネットワークにより、メルシュ博士が人道に反した実験を行っているという情報も、他の研究者達にも伝わっていた。が、それを強く問題視する研究者もいない。


『メルシュ博士なら仕方ない』


というのが、大方の認識だったからだ。当然、他の研究者を通じて総合政府にも博士の行いが伝わったが、政府の方も見て見ぬふりであった。むしろ、博士の無茶な研究によってCLSウイルスについての解明が進むことを期待する空気さえあった。


メルシュ博士は研究結果の殆どを秘匿することなくリリアテレサを通じて誰でも閲覧できるようにし、その一歩も二歩も先を行く内容で他の研究者達を驚愕させた。博士以外の研究者による<CLSウイルス=生物兵器説>は、その多くが博士が公開した内容を検証して補足したものでしかない。それ故、中にはリヴィアターネでの研究を諦め、降下させた設備やロボットごと放棄する研究者さえ現れ始めた。


何しろ、どれほど研究を重ねてもメルシュ博士が発表したものを追認するもの以上にならず、しかも、CLSウイルスがいかに高度に操作されたものか、ワクチンの開発すら視野に入れて生み出されたものかを思い知らされる結果にしかならなかったのである。


ただしこれは、他の研究者達がメルシュ博士に劣ることを示すものではない。科学者としては皆、優秀な者達だ。確かに社会に貢献もしている。単に<発想の違い>でしかないだろう。人として正しい倫理観を持った人間にはできない発想を、着眼点を、メルシュ博士は持っているというだけでしかなく、それが今のリヴィアターネでは確実に効果を発揮するというだけだ。


こうしてますます、この惑星での博士の存在は大きくなっていったのだった。



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