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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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生身の体

「うっふっふ、さてさて、今度は…」


メルシュ博士の狂気に満ちた実験は続く。


四体目五体目の自らのクローンを降下させ、CLSに感染発症させたのち、博士はさらにおぞましいことを始めた。<コルネン>と名付けた自分のクローンだったCLS患者の頭を切開し、CLSウイルスが形成した白いコロニー様の器官を除去。代わりに生体部品で構成された<人工脳>とも言うべき装置を移植。CLSウイルスが形成した疑似神経節と繋ぎ合わせることに成功した。


これは、コラリスと同じ処置を施したものの死んだCLS患者を解剖して得たサンプルを使って、新たに開発したものであった。基礎的な研究は従来から行っており、シミュレーター上では人間の脳と置き換えることが成功していたものだった。それを、CLS患者に応用したのである。


CLSウイルスが形成する神経様の組織は人間のそれと非常に似通っていた為、それほど苦労はなかった。接合部を形成するナノマシンの設定の変更だけで対処できた。こうして、さらにコラリスらとも別の存在となったコルネンの人工脳を、現在の自身の<本体>とリンクさせたのだった。


「ははは、成功だ! 素晴らしい! 私は再び生身の体を得たぞ!!」


ベッドで寝かされていたコルネンが上体を起こし、自分の両手を見ながら歓喜の声を上げた。そう、メルシュ博士のクローンであり、CLSに感染発症し死亡した後、コラリスと同じ処置が施され健康な肉体を持つコルネンとなったそれは、結局、メルシュ博士自身になったのである。


と言っても、厳密にはコルネンの頭部に入っている人工脳だけでは人格や記憶すべての再現が出来ない為、ラブドールを用いたロボットの体の方と同じくインターフェースでしかなかったのだが。


「おお、やはりロボットの体とは微妙に感覚が違うな。こればかりは実際に経験してみないと分からんことだ。結局のところ、実践に勝る理論なしということだな」


この時、ロボットの体の方はどうしていたかと言うと、サスペンドの状態にあった。いきなり二つの体を同時に扱うというのはさすがに難しかったからだ。しかし博士は、両方の体を同時に使うことも目指しており、その為の訓練を自らに課していた。こうして複数の体を同時に使うことで、同時に別々の作業が行えるからだ。


なお、今回用意したもう一体のクローンの方は、CLSという病気そのものの経過を観察する為に、敢えて何もしないでそのままにされたのであった。一応、<コルゼン>という名前は与えられたが。


このように、メルシュ博士の狂気の実験はこれからも続く。それを止めようとする者は、もはやこの地には存在しないのだから。



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