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JK戦記(前編)  作者: 石屋さん
戦乱
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伸のアビラ砦攻略



 アビラ砦は、洞窟独特のしんと沈んだ湿気のある空気が普段よりもより重くどんよりとしていた。

 今朝ジェイ万人長が帝国に討たれ、それを聞いたテイス将軍が殿として彼を戦場に置いて来たことを悔やみ砦の奥に閉じこもってしまったからである。


 痺れ茸によって麻痺している兵士達は、砦の中で無造作に並べられていたが、陽が暮れた頃から一人また一人と起き上がる影が砦の中へ散って行った。


 城壁の上の見張り部隊の元へ同じ二十人の部隊が上がって来た。

「ご苦労様です、見張りの交代に参りました。」

「聞いておらんぞ」

「テイス将軍の命令で今晩は帝国の襲撃がありそうなので、三時間交代で見張りをしっかりやれとのことです。」

「そうか、では頼んだぞ。」

「お任せ下さい。」


 交代した兵の一人がたいまつを一つ切り落とし外側に投げ込んだ。外へのなんらかの合図のようである。


 王国軍の鎧を着てアビラ砦に潜入した帝国兵は全員短剣を装備していた、それが唯一の敵味方を区別する印なのである。


 雑魚寝している兵士の口を塞ぎ喉を短剣で斬る黒い影

 立小便している兵士の背中から短剣を突き刺す黒い影

 出合い頭に短剣で心臓を突き刺す黒い影


 アビラ砦の暗闇の中、帝国兵はバラバラになりそれぞれが短剣で王国兵を刺し始めると、あちらこちらからうめき声が響き渡りそこらじゅうに帝国兵の死体が転がっている。


「大丈夫か! 何があった?!」

「おい、死んでいるぞ!」

「こっちもやられてるぞ」

「帝国兵が紛れ込んでいる、気を付けろ」


 アビラ砦が騒然となると

 入り口の広場では

「帝国兵が奥の将軍の方へ向かったー」

「将軍をお守りするぞー奥へ向かえー」


 奥の方では

「帝国兵が広場で暴れているぞー」

「広場の帝国兵を鎮圧しろー」


 暗闇のなか、剣を握りしめた味方同士の兵達の塊がぶつかり合った。

 短剣を持った黒い影達もぶつかり合う兵士達に紛れ、気が付かれないように斬りつけると、怒号が飛び交い同じ王国軍同士でヒートアップしていった。


 アビラ砦内部が大混乱に陥ったころ、城門が開かれ帝国兵がなだれ込んで来た。


 解りやすい敵が来たことで、混乱した国王軍も秩序を取り戻し砦内部で壮絶な戦いが始まった。

 互いの最前線では盾を持った者同士が押し込み合い互角の戦いになっているが、城壁に陣取った帝国軍の弓兵に王国軍の後方は一方的に撃たれている。


 その戦いの最中、黒い三人の影が奥へ奥へと駆け抜けていった。


 その黒い影達は護衛兵に止められると

「テイス将軍に至急の伝令でございます。お通し願います。」

「うむ、状況が状況だ通ってよいが武器は預かるぞ」

 と護衛兵に言われると三人は、腰の短剣を差し出した。



「テイス将軍、至急の伝令があるとのことで一般兵を通してよろしいでしょうか?」

「通せ、形式的なことは良い何を伝えにきたのじゃ」


 三人はテイス将軍の前に跪き

「我々は帝国兵です。」

 その言葉を聞いた護衛兵が剣を振り上げると、テイス将軍は目で制した。

「そうだと思っておった、要件はなんだ?」

「シン副将軍のお言葉を代弁します。

 このアビラ砦内で、数万単位の兵の命を削り合うことは不毛と考えます。

 帝国軍の優勢が明らかな今、国王軍のアビラ砦から撤退を提案します。

 武器はもちろん物資も全て持ってここから撤退下さい。

 帝国兵にはテイス将軍からの戦闘中止命令が出された場合に、剣を収めるように事前に指示しております。

 以上です。」


 テイス将軍は髭を触りながら

「いまここには、兵士以外に商人や娼婦もおる……武装解除しろと言われれば反発したじゃろうが、その必要がないと言うならば、その話のってもいいじゃろ」

「ありがとうございます。」

「一つ聞いて良いか」

「はい」

「数カ月間、我が軍と野戦を繰り返したのは、国王軍の装備を手に入れる為であったのか?」

「……そのような指示でございました。」

「うむ、それで大部隊が入城する時を待って、砦内部に大量の兵を忍び込ませたということか……してやられたのー」



 テイス将軍の号令によりアビラ砦内での戦闘が中止されると、王国軍の兵士達は指示された通りに物資を持てるだけ持ち一人ずつ順番に砦を出て綺麗に整列した。


 最後に砦を出たテイス将軍は伸と握手し

「老いぼれは用無しのようじゃ、儂は戻ったら隠居を考えることにする。」

「いえいえテイス将軍の夜襲には手を焼きました。」

 伸は肘から下が無くなった左手を前に出し

「そして、私の左手はもう元には戻りません。」

「何を言っておる、左手一本でアビラ砦が手に入るなら儂はいつでもその代償は払うぞ」

 と、テイス将軍は笑ったが直後に真剣な顔つきで

「これで王国は厳しい戦いになる……貴殿のような優秀な指揮官が率いる帝国軍は脅威じゃ」


 そこへ一頭の早馬が慌てた様子でアビラ砦へと到着した。

 伸が兵士に

「どうした! 何事だ!」

「これはシン副将軍! 至急のご報告があります。」

 伸が一瞬テイス将軍の顔に目をやるが

「どうした。言って見ろ」

 早馬から降りた兵士は

「ジークベルト将軍が王国軍の白い悪魔に討たれ部隊はちりじりになって敗走しております。」

「……そうか……すまんがそのまま陛下の所へ行って報告を頼む」

「承知いたしました。」


 伸はうなだれた顔で

「テイス将軍……」

「なんじゃ」

「王国軍は、アビラ砦を囮にジークベルト将軍を討つことが目的だったのですか?」

 伸の問いかけにテイス将軍はニヤリと

「いや、ジークベルト将軍とお前の首を獲ることが白い悪魔の作戦だったと聞いておった。」

「そ、そうですか……」

「まぁこれで五分五分と行ったとこじゃの、戦はこれからじゃな」


 そう言ってテイス将軍は、伸に手を振りながら三万の兵を率いてアルマサン城塞都市へと戻って行った。




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