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JK戦記(前編)  作者: 石屋さん
戦乱
42/49

名も無き丘


 やや湿地がかった平野を北へ北へと進む、結衣達の目線の先に島のようにひとつ取り残されている丘陵が映る。

(ユイ、帝国の斥候が丘におるぞ)

(コンサ、どこ? 見えないわ)

(右の林の木の上から、こっちを覗くように見ておる)

(ん……解らないよ。ちょっと見て来る)


「ボルディ万人長! あの丘に人影らしきものが見えたので確認しに行ってきます。」

 と、結衣が大声で声を掛けながら、単独で馬を走らせる。


「ちょっ、ユイ姉、独りじゃあぶーねよ」

 イタカレとヨナが結衣に続いて馬を走らせた。


 結衣達が丘に辿り着くと、そこはもぬけの殻で、少し湯気が出ている馬糞が痕跡として残っているだけであったが、三頭の馬が土埃を上げながら平野を東へ駆けて行くのが見えた。


 暫くすると、ボルディ万人長が軍を引き連れて丘に到着し帝国斥候の状況を聞いてきたので結衣が説明した。

「私達が近づく前に、斥候はここを後にしたようで、東に向けて土埃が舞い上がっているのが見えましたので、帝国軍は東にいることは間違いないと思います。」

「では我が軍は、この丘に陣を組み帝国を迎え撃つとする。北から東に向けて斥候を走らせる。」


 ボルディ万人長の号令により、兵達は丘に陣を組み始め陽が暮れる頃には、簡易的な策で囲われた防御陣が完成していた。

 陽が昇り始める頃に、東へ向かっていた斥候が戻り、帝国軍は四万全てが歩兵、ゆっくりとこちらに向かっており、夕方には遭遇するとボルディ万人長に報告した。


「倍の兵にまともにぶつかっても返り討ちにあうだけだ、帝国の出方次第だが、持久戦になるかもしれん。」

 ガイア万人長は眉間にしわを寄せながら

「持久戦になれば、最前線の帝国軍が北方から戻ってくると、我が軍は挟み撃ちにされてしまう。」

「帝国がこの丘の陣に攻め込んでくれば、なんとかなるのだが……」


 軍議中に見張りの兵が天幕に入ってきた。

「報告します。帝国軍が視界に入りました。」


 丘の上から帝国軍を眺めていると、帝国軍は、綺麗なT字の陣形を整え、威嚇するように様々な色の軍旗を旗をなびかせた。



       □□□□

       □一万□

       □□□□


 □□□□  □□□□  □□□□

 □一万□  □一万□  □一万□

 □□□□  □□□□  □□□□


        ↓丘



 ボルディ万人長は腕を組みながら

「帝国軍は、相変わらずの混成軍であることは幸いだが……」

 ガイア万人長が半笑いを浮かべ

「駄目もとで挑発して攻めさせて見ようか?」

 結衣は、ガイヤ万人長の意見に大きく首を振り

「こういうときは、大将の首を捕るしかないんじゃないですか?」

「そう簡単に言うな、大将のジークベルトは後方部隊のど真ん中にいる、そこまで辿り着くことは難しい、その前に我が軍が全滅してしまう。」

「私に考えがあるの、ギャンブルだけど、もうやるしかないの聞いてくれますかボルディ万人長」

「ああ、聞くだけ聞いてやる……」


 結衣が軍議で作戦を話し始めた。



-----




 整然と陣形を整える四万の兵を、馬上から眺めているジークベルトは上機嫌に目を細める。

 丘の上には、赤い巨人ボルディと王国軍の白い悪魔を含む二万の兵が、自らの軍勢の前に震えあがっているのだ。


「ジークベルト将軍、陣形は整いました。いつでも王国軍に突撃出来ます。」

「何を言っておる。突撃などせぬ。」


 ジークベルトは馬を降り用意された椅子に腰かけると、軍師はひざまずき

「兵力は倍であります。王国軍の主力を殲滅するチャンスかと思いますが」

「功を焦るではない。勇敢な兵士と臆病な指揮官が最強の軍隊であると聞いたことはないか?」

「も、申し訳ございません。」

「王国軍は、我が軍が突撃することを待っておる。それが唯一の勝算であるからだ。」

「よろしければ、ジークベルト将軍のお考えをお聞かせください。」

「うむ。お前だけに話すのも勿体無い、各万人長を儂の天幕まで連れて来い。」

「承知いたしました。」



 目の前に、四人の万人長と軍師がひざまずくと、ジークベルトは、得意気な表情で話し始めた。


「この時点で我が軍の勝利は確定している。

 我が軍が丘に突撃せず、ここで陣を保っている場合に、王国軍が選択できることは三つしかない。


 一つは、我が軍に突撃してくること、その場合は、倍の戦力で迎え撃つだけであるので、我が軍の完勝だ。


 二つめは、丘の上で防衛体制で待っていること、その場合は、既に連絡を出した最前線部隊から援軍五万が到着しだい挟み撃ちにする。


 三つめは、撤退すること、その場合は、丘から下ったところで、追撃を開始する。まぁ全滅は難しいだろうが、半数以上の兵を討つことができ士気も下がるであろう。」


 四人の万人長が大きく頷くと、ジークベルトは声を張り上げ

「王国軍の監視を怠らず、兵は順番に休ませておけ、あと、王国軍の挑発には踊らされぬように徹底させるのだ」


 そこへ一人の兵士が天幕へ慌てて入って来た。

「なにごとだ!」

 兵士は一礼し跪くと

「軍議中失礼します。王国軍に動きがあるようなのでご報告に参りました。」


 天幕を出て、目を細め丘を凝視しているジークベルトに、軍師の男が

「王国軍は、何の勝算も無く我が軍に突撃してくるとは……自暴自棄となったのでしょうかね?」

「あの陣形は……、一点突破で儂の首を獲ろうってつもりだな。」


 王国軍は、騎兵隊を先頭に一直線に並び丘を下り帝国軍へと迫っていた。

「両翼は、中央へ寄り密集体制を取れ、王国は中央突破するつもりだぞ!」


「「「承知いたしました。」」」

 万人長達は、ジークベルトの指示を受け持ち場へと戻って行った。



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