偵察
翌日、農民達も警戒し柵を直し、新たな罠も仕込むなど、万全の準備をしていたが、盗賊団の襲撃はなく、陽は沈み、闇がたちこめた。
イタカレは、結衣が瀕死の盗賊を次々と殺して周る姿が目に焼き付いてしまい眠ることができず、気分転換に外へ出ると夜の黒々とした空気に押し潰されそうな圧迫感を感じながら、何も見えるはずがない見張り塔に昇った。
すると、漆黒の闇の中に蝋燭の火のように、ゆらゆらと炎が揺れている。南と西の二カ所から火の手が上がっているのだ。イタカレは、とっさに、鐘をガンガンと鳴らし叫んだ。
「敵襲だーーー、南の集落と西の集落が焼き討ちされてるぞーー」
鐘の音で起きたヨナが直ぐに見張り塔に昇って来た。
「イタカレ、どこなの? どこが焼き討ちされてるの?」
イタカレが南と西の集落を指刺すと、ヨナは
「……どちらも、ここから遠い集落ね。今から行っても着く頃には陽が昇ってるわ」
お屋敷の屋根から見ていた結衣が、イタカレとヨナに手振りで下に降りるように促しているので二人は見張り塔から降りた。
「二人は直ぐに軍を編成して、イタカレは遠征隊を二百人、残りは全員ここの守備隊としてヨナが編成してください。遠征隊には私も同行します。」
「「はい!」」
イタカレは、弓兵となる猟師を二十人、他は体力のある若い者順に遠征隊に入れ、五人毎の小隊を作り、ヨナは半減した兵で守備隊の配置を行った。
イタカレと結衣は遠征隊編成後に、直ぐに南の集落へと向かったが、着いたのは陽が昇ってからであった。
集落の焼け跡から吹きつけてくるザラザラした異様な風が、遠征隊を包み込むと、誰しもが足早に進み始めた。
集落に着くと一人の男が、焼き討ちされた家の前で膝を落としうなだれてしまう、ただ幸いにも住民は全員お屋敷の近くに避難しているので無事であった。
とりあえず、焼け跡から鍋や鍬など、まだ使えそうな物を皆で探しお屋敷へと向かった。
結衣はコンサと念話をする。
(盗賊の居場所解る?)
(解っておる)
(どの辺? 近いの?)
(王国との国境の山脈じゃ、朝出れば夜には着く位だな)
(そっか、ありがと、頼りになるわ)
(結衣、盗賊の住処を襲うつもりか?)
(うん、それしか方法がない)
(農民じゃ無理じゃぞ)
(……とりあえず、偵察してみるわ)
(そうか、どんどんと深入りして行くんじゃな)
(しょうがないね)
「イタカレ、私ちょっと盗賊団の住処を偵察してくるから、部隊をお屋敷までお願いしますね。」
「え!? 何急に、俺も付いて行くよ。」
「駄目! イタカレは部隊を無事にお屋敷に届けて下さい。」
「一人じゃ危ないでしょ」
「偵察するだけだから大丈夫よ。明日には戻るから」
と、結衣は部隊から離れ、国境の山脈へ向かった駆けて行った。
「もう……、白い悪魔さんは、盗賊団を皆殺しにしたいだけじゃないのか……」
山は頂上で、次の山に連なっていた。そしてそれから、また次の山が、ちょうど、数珠のように遠くへ続いていた。
その絶景に結衣は、「うわ~綺麗ね。でも何処までいくの?」
(次の山を越えた谷のあたりじゃ、しかし、そろそろ陽も暮れるぞ)
(休んでる暇はないわ、朝までには着かないと)
陽が暮れると、深い森は、夜の漆黒を抱え込んでいる。奥に足を進めると、暗い空気が身体を囲んできた。足を踏み出すたびに、自分の身体が黒く染まり、さらに足を出すと、影に舐められる感じがした。
(やっぱり、夜の森の独り歩きは、キモいわ)
(もう少しで着く、それに陽も昇ってくるころじゃ)
コンサは、漆黒の闇の中、結衣の頭上を旋回しながら飛んでいた。
満天の星空の縁が、ほんのわずか白んできたように見えると、山の端から朝日が昇ると、一目で自然ではない事が解る地形が結衣の目に入る。
「あれが盗賊団のアジトのようね。」
滝の流れる絶壁を背にして、柵は無いが水を張った深い堀で囲まれた中に、いくつもの小屋が並んでいる。
(なかなか本格的な物を作ってるのね)
(元々の地形を利用したんじゃろ)
(これじゃ、農民達で攻め落とすことは出来ないわね)
(それでどうするんじゃ?)
(戻って、皆と相談する)
集落に戻った結衣は、盗賊団のアジトについてホベルトに相談すると、ホベルトから意外なことが告げられた。
「盗賊団のアジトが解ったのなら、帝国軍へ報告すれば対応してくれますよ」
「えっ!? そうなの? 帝国軍は何もしてくれないんじゃ……」
「自分達のことは自分達で守る必要がありますが、盗賊団のアジトがわかれば、帝国軍も動いてくれます。」
「そうなんだ! 良かった」
「明日、一緒に隣のビファ国に駐屯している国境警備隊に相談しに行きましょう」
「どれくらいで着くの?」
「歩きなので、二日ほどかかりますね。」
「その間に、盗賊団が襲撃にくるでしょうね……」
「でも、場所を知ってるのはユイ様だけですので、ユイ様には同行して頂く必要があります。」
「じゃ私が一人で国境警備隊の所まで行きます。ここの戦力は一人でも多い方がいい」
「しかし、失礼な言い方になりますが、ユイ様だと、何処の馬の骨かも解らない者の言う事を素直に聞いて貰えるとは思えません。」
「……うーん」
結衣は困った顔で考え込んでいると
「私が一緒に行くよ」
と、シーノが結衣に語り掛けて来た。
「シーノちゃんが? 大丈夫なの?」
「うん。前に巡回に来た時に、ご飯とか用意したから覚えて貰えてるはずよ」
「そうだ。シーノが兵士一人一人に給仕してくれたから、覚えている兵士もいるでしょ」
「ありがとう、じゃシーノちゃんと二人で国境警備隊の所まで行く事にします。ここの守りは頼みますよ」
「ユイ様、国境警備隊の隊長は、変わり者ですが、稀有の才を持っておられる若者との噂です。」
「変わり者ですか……」
「ええ、農民解放軍の戦いで連戦連勝でしたが、一度の失敗で、ジークベルト将軍の嫉妬から、本国に呼び戻され、それを聞いた帝国内の大国から将軍待遇の誘いを全部蹴って、今は国境警備隊をしているお方です。」
「出世に興味がない人なのね。」
傍に居たヨナが怪しげな笑みを浮かべながら
「それって、ユイ姉と同じじゃん。気が合うかもねー、ユイ姉もそろそろ男の一人や二人くらいいたって……」
結衣はガツンと拳でヨナの頭を叩きながらシーノに笑顔で
「じゃ明日の朝出発するから、シーノちゃんも準備しておいてね」




