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JK戦記(前編)  作者: 石屋さん
運命
31/49

訓練しない者


 翌日から結衣は、アルバド国を見て周った。

 国と言っても、人が暮らせる平地は、山手線の内側と同じくらい、東京ドームで言えば約千個を越える程度でしかない。ただ山間部は、その十倍以上の面積があるのだ。


「ホベルトさん、人が暮らせる土地が少ないと言っても、全部を守り切るのは不可能ですよ。」

「ユイ様、そこまでは期待しておりません。盗賊団はお屋敷の隣にある食糧庫を奪いに来ますので、それを撃退して頂けば、奴らも懲りてくれるでしょう」

「お屋敷の周りだけであれば、皆さんで協力すれば守りきれますね。でも、それで諦めてくれればいいのですが……」

「今は多くは望みません。まず、盗賊団を痛い目に合わせて、割に合わないと思わせることが第一です!」


 結衣は一抹の不安を感じながらも、お屋敷周辺の防衛対策を考えることにした。


 イタカレは、集まった若い男達に戦闘訓練を始めていた。結衣から未経験者には、槍を教えてるように言われたので、案山子に藁をくくり付け刃のない棒で突くことから初めていた。


 サナは、猟師達に軍事的な弓の使い方を教えていた。猟とは違い、集団で面を攻撃する方法を教えている。

 ヨナは、山へ入り木を切り落とし、お屋敷の周囲を囲う柵を作る作業の指導を行っていた。


 盗賊団との戦いの準備は粛々と進められていた。



 訓練を始めて一週間がたった、毎日、農作業が終わった夕方に集まり陽が暮れるまで続けていた。

 イタカレは気になっていることがあった。

 毎日、遠目に訓練を見ている同じ年頃の男がいるのだ。何度か声を掛けてみたが、声を掛けるとどこかに逃げていってしまうのである。

 


 いつものように、訓練を眺めている若い男に後ろから近づき、イタカレは、声を掛けた。

「なんで一緒に訓練しねーんだ?」

 後ろから急に声を掛けられた若い男は、一瞬、びくっと肩を震わせ振り向いた。

「わ、わ、わたし……お、お、おれは……」

 動揺している若い男に、イタカレは畳み掛けるように

「みんなで、力を合わせて盗賊団と戦おうって決めたじゃないか! なんで一緒に戦おうとしないの? 自分だけ助かりたいの?」


「お、お、おれは……」と、唇を震わせながら、若い男は、突然と森の中へ駆け出していく。

「ま、まてよー」

 と、イタカレは追いかけて若い男の腕を掴むと、一緒に転んでしまい。覆いかぶさる形となった。


「ん! お、おまえ……」

 若い男は、上に覆いかぶさっているイタカレを払い、集落の方へ走っていった。

「女だったのか……」



 いやかれは、お屋敷の広間で夕食を食べながら、今日の出来事を結衣達へ話した。

「……だったんだよ。なんであんな恰好してんのかな?」

 サナが馬鹿にしたような顔で

「イタカレもまだまだ子供だね~」

「な、な、なんだよサナ姉」

「男は、ケダモノだからね。イタカレもそろそろ危ないかも!」

「だ、だ、だから何なんだよ!」


 思わせぶりなサナの表情に、説明する気がない事を察した結衣が

「盗賊に犯されないように、男の恰好してるんだよ。急に男臭くするのも難しいから、普段から男のふりをしてるのよ」


「そ、そういうこと……悪いことしたな……」

 ばつの悪そうな表情だったイタカレだが、何か浮かんだような顔で

「なんで、ユイ姉やサナ姉たヨナは、女の恰好で戦ってるんだ?」


「私は、物心ついた時には、合気道やってたし」

「私達は、王族だから、馬術、武術は子供の時からやってるから、普通じゃないの!」

「余計なことはいいから、明日、ちゃんと謝るのよ」




――翌日



 夕方になり、各集落から若い男達が集まりだすと、自然と訓練が始まっていた。当初は、イタカレに言われるまで何もせず、ぼーっとしていたのだが、今では、訓練場に入るなり各自思い思いに剣を振ったり、槍で突いたりと訓練を始めるようになっていた。


 ある程度人が集まった所で、イタカレが集団戦の訓練を始めると綺麗に整列しイタカレの号令で一斉に槍を突いた。

 今日もあのおとこ女が遠巻きに訓練を眺めているので、イタカレは、ゆっくりと近づいた。


 走って近づくと逃げてしまうおとこ女も、ゆっくりと近づくイタカレからは、逃げる事無く逆に歩み寄って来た。

 イタカレは頭を下げて

「昨日は、すまなかった。許してくれるなら一発殴ってくれ」

 と、目を瞑り直立不動で殴られるのを待った。


 すると、おこと女はクスクスを笑いながら

「怒ってなんてないですよ。」

 イタカレは目を開いて安堵の表情を浮かべながら

「良かった。俺はイタカレ、あんたの名前は?」

「シーノだよ。集落を守ってくれる人なんだから、感謝しかありません。」

「ありがとうシーノ、そう言われると嬉しい! でもなんで逃げてたの?」

「びっくりしたし、それに……わたし……臭いでしょ……」


 イタカレも鼻を突く刺激臭がするのは、気が付いていたが失礼だと思い口には出さなかった。

「うん……確かに……シーノは病気なの?」

「病気じゃないよ。わざと臭いがする茸を食べているの」

「どうしてそんなこと?」

「お父さんに言われたし、前に私のせいでホベルトさんの奥さんが盗賊団にさらわれてしまったから、男の人に嫌われることなら何でもする……」


 イタカレはホベルトさんの奥さんが盗賊団にさらわれた時の話を思い出した。

「ああ……あの時、盗賊団に襲われたのがシーノだったのか」

「うん。私を庇ってマリアさんが……」

 シーノは目に涙を浮かべながらうつむいてしまった。

 場の雰囲気を変えようとイタカレが


「シーノも一緒に訓練をしないか? 別に盗賊団と戦わなくてもいいから、自分で

自分を守れるようになりたいだろ?」

「いいの! わたしもヨナ姫のように強くなりたいの!」

「うん。一緒に訓練しよう!」


 シーノはこの日から一緒に訓練をすることになった。イタカレや他の男達も口には出さないがシーノは本当に臭かった。特に口臭は酷く、吐き気がするほどである。確かにここまでやれば、盗賊団の性欲も失せてしまうだろう。しかし、年頃の女の子にはとても辛い試練である。


 イタカレも一度その臭い茸を食べてみたが、体には良いらしいのだが、あまりにも臭くて、シーノの目の前で吐き出してしまった。

 シーノも悲しい顔をしていたが、自分も慣れるまで中々食べられなかったと、逆にイタカレを気遣った。




 収穫の時期が近づいて来たころ、訓練の集大成として演習が行われた。


 均等に四グループに分けて、守備隊一グループ対攻め側三グループで、柵で覆ったお屋敷の周囲を三倍の兵力で順番に攻めた。


 もちろん、弓や槍の刃は外してあるが、弓があったら死亡、槍で突かれたら死亡、水を顔に掛けられたらとして、何人が柵を越えて中に入れるかを競った。

 何度か繰り返し攻め側も守り側も創意工夫し、守り側の弱点、攻め側の嫌な事など対策が進んだ。

 この演習で骨を折るなどの怪我人が十数人出てしまったが、演習で得られた経験とそこから生まれた対策の成果は、確実にそれを上回っていた。


 演習を終え満足げな顔をしている集落の男達の前で、結衣は、演習の総括を行っていた。

「皆様、演習ご苦労様でした。今回の演習で解った弓やぐらの足元を覆う板が必要などの対策は至急対応をお願いします。」


「おう、明日には終わらせるわ」


「ありがとうございます。しかし、演習と本番は全く違います。水を味方に掛けてましたよね。あれば本番では、煮えたぎる油なんですよ。」


「はい。ちゃんと声を掛け合って油撒きます!」


「そうですね。あと一番違うのが、本番では双方とも火を使います。流石に演習ではやりませんでしたんで、その覚悟をしてください。」

「火か……」

「最後に、守備側がどれだけ有利なのか理解出来ましたね」

「「「はい!」」」

「それは自信を持って戦いましょう!」

「「「「「お、おおおおおおおおー」」」」」



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