盗賊が来たぞー
集会場には、各集落の長達が揃っていた。
「ホベルト、あんな女子供の四人だけで、盗賊団から集落を守れるのか?」
「皆で戦いと言ってるだろう、ユイ様は国王軍で千人長までしておった人だ。我々を指揮し導いてくれるはずじゃ。」
「軍で出世したのは、上官に股開いただけなんじゃないのか?」
浅黒い顔をして若者が、卑屈な表情で言い放つと
「お前! ユイ様の前で同じことを言ったら、俺はお前を殺すぞ!」
とホベルトは、男の胸ぐらを掴み、壁に押し付けた。
興奮したホベルトは、周りの男達になだめられ言われるがまま席に座った。
「ホベルト、誤解せんで欲しい。盗賊団と戦うには覚悟がいるんじゃ、戦えば死んでしまう者も多数でるだろう。それで負けたりすれば、今よりもっと酷い目にあうんじゃ」
「……」
ホベルトは、黙って老人の話を聞いていると、周りの男達が騒ぎ出す
「そうだ! そうだ! 勝てないなら戦う意味がないんじゃ!」
「戦って死ぬのはいいが、無駄死にはしたくねー」
すると、ホベルトは、周りの男達を睨み付け
「じゃ、戦わず、毎年毎年、イモを持って行かれ、女は犯され、さらわれるのを黙って見ているつもりなのか?」
当然、集まった男達は、ホベルトの嫁が盗賊団にさらわれたことを知っている。
「そ、そ、そんなこと言ってねーだろ。女子供四人が来て勝てるのかって言ってんだ!」
「リナ様もヨナ様も、アルバド国を追われて軍に入り何度も修羅場を抜けて来たそうだ。今までに殺した兵士は、何十人だか解らないそうじゃ」
「わ、わしだって、二回、戦にさ、さ、さんかしたわ」
「わ、わしも」
「わしも」
「わしもじゃ」
ホベルトは、呆れた笑みを浮かべ
「荷物を運んでいただけじゃないのか? 誰か敵の首を捕った者はいるのか?」
「……」
「……」
「……」
「女子供と馬鹿にするが、この中に、あの方達にかなう者はいないぞ」
「ホベルト、そう言うことじゃなくてな、勝てるかどうかだと言っておるだろう」
「しかし……」「それじゃ……」「でもな……」
男達は、陽が昇るまで結論の出ない話を続けていた。
イタカレは、集会場の外で、その一部始終を聞いていたのである。 朝まで話し合っても何の結論も出せない者達に苛立ちを覚えたが、何か思いつき悪戯好きの少年の顔になっていた。
イタカレは、ふーっと思い切り深呼吸したあと
「盗賊だー、盗賊が来たぞー」
と、集落を走り回って大声で叫んだ。
集会場からは、数人の男達がお屋敷へと駆け登り扉を叩いた。
ドンドンドン! ドンドンドン! ドンドンドン!
「リナ様、ヨナ様、起きて下さい!」
「盗賊が集落に迫っております!」
「リナ様、ヨナ様、リナ様、ヨナ様、リナ様、ヨナ様……」
「助けてくださーい! リナ様」
お屋敷の扉が開くと、ヨナが目を擦りながら出てきた。
「ふぁーあ どうしたの?」
「盗賊が迫って来てます。お助け下さい。」
ヨナは背伸びをしながら
「何人がどこからきてるの?」
男達は顔を見合わせながら
「そ、それは……」
すると、ヨナの後ろから出てきた結衣が、地面を蹴り上げ、ひとっ飛びでお屋敷の屋根に上った。
集落の人々から、おおおおおおおおおおっと声があがる。
小高い丘の二階建ての屋根から、辺りを見渡した結衣は
「何も見えないよ? 土埃さえ上がってない。誰が何処で見たんですか?」
「……」
「申し訳ございません。誰かが盗賊が来たぞーっと叫んでいたものですから……何も確認もしておりませんでした……」
ホベルトがヨナの前に出て
「お騒がせしました。私どもはまだ話し合いが済んでおりませんので、集会場で話し合いを続けさせて貰います。」
と、深々と頭を下げる。
お屋敷の屋根から結衣が
「何かあったら、騒いでくれていいんですけど、何故皆さんは手ぶらなんですか? 鎌なり鍬なり手にして、敵に備えないと……戦う気がないの?」
結衣の言葉に、男達は下を向いたが、ホベルトは
「ユイ様、申し訳ございません。皆は盗賊が来ても、直ぐに戦おうなんて考えもしてないのです……」
ホベルト達が集会場へ戻ると、イタカレが待っていた。
「イタカレ様、どうしましたか?」
「おいら、一晩中あんたらの話を聞いていたんだ。」
男達はイタカレから目を背ける。
「女子供じゃ頼りにならんとか、言ってたけど、イザとなれば真っ先に助けを求めに行くなんて、勝手すぎやしないか?」
「イタカレ様、それは……」ホベルトの顔がひきつる。
「おいら達は、あんたらが戦うって言うから、渋々手伝いに来たんだぜ、あんたらが戦う気がないなら、直ぐに城塞都市へ帰るよ。」
ホベルトがイタカレに近寄り
「イタカレ様、解っております。皆で話し合い戦う覚悟が出来ましたら、お屋敷に出向いてリナ様達へお願いに参ります。少しお待ちください。」
ホベルトにそう言われると、イタカレは男達を掻き分け集会場を出たあと、振り返り
「おいらは、親に捨てられ街で盗みをして生きていたガキだった、でもユイに助けられ自分で生きていける力を貰ったんだ。あんたらも自分で生きて行けるようになれよ……」
結衣達が普段通りに朝練を終え、昼食を食べたあと、お茶を飲みながらのんびりしていると、二階からヨナが大きな足音をたてて降りて来た。
「な、なんか、凄い人が集まって来て、お屋敷が包囲されてるみたいになってる」
と、捲くし立てるように言うと同時に、扉がノックされた。
「ユイ様、リナ様、ヨナ様、イタカレ様、よろしいでしょうか?」
と、ホベルトの声が聞こえた。
お屋敷の扉を開けると、ホベルト達が跪いていた。
ホベルトが顔を上げて
「ユイ様、我らは戦う覚悟が出来ました。戦の経験がある者が百人ほど、弓を弾ける猟師が五十人、他は全くの素人ですが戦える者が三百人おります。」
「解りました。これから毎日訓練をしたいのですが、時間は取れますか?」
「はい、野良作業が終わったあとの夕刻からであれば、男衆は、訓練させて頂きます。」
ヨナが水を差すように
「お屋敷の武器庫は空っぽだったけど、武器はあるの?」
「武器庫の武器は、盗賊団に全部持っていかれましたが、各自武器は持っております。」
と、ホベルトが言うと、周りの男達が持っていた武器を高らかに掲げた。
結衣が農民が手に持っている武器を見ると、意外にも装飾が施されている立派な武器であった。
「何故、そんな立派な武器を持っているの?」
「ユイ様、近くで戦が起きた時、逃げ出した兵士や指揮官を闇討ちして、身ぐるみ剥がす事もあるのです。」
「なかなか酷い事してるのね。」
サナが侮蔑や笑みを浮かべながら言うと
「我ら農民が無力な善人だと思っているのですか? 生きて行く為には、弱った兵士を皆でなぶり殺すくらいはします。」
剣を強く握り締めるサナをなだめながら結衣が
「普段、偉そうにしている兵士を弱っている逃亡中に襲うとは……まぁ仕方がないでしょう。でも、そんな錆び付いた刃では人を斬れませんよ」
「ユイ様、集落の鍛冶屋が手を貸してくれると言っておりますので、手入れは間に合うと思います。」
「それならいいわ。皆で力を合わせて盗賊団と戦いましょう!」
と結衣が拳を揚げると
「「「おおおおおおおおおお」」」と農民達は雄叫びを上げた。




