盗賊
セイビア帝国アルバド国
収穫を終えた空っぽの畑を、秋風がさわさわと掃除するように渡っている平和な風景が土埃と共に地獄絵図と化した。
「ひゃーーほぉーーーう」
「うひひひひぃーー」
「へっへっへへー」
盗賊たちが集落へと乗り込み、集落の真ん中で一人の盗賊が大声を上げた。
「抵抗はするなよ。誰か一人でも抵抗したら、この集落に火を放ち皆殺しにする!」
村人達は、家の中で震えながらその声を聞いていた。
盗賊たちは家々に上がり込み、金目の物を物色する。
「どうせ金目の物なんてねーな。女はどこに隠したんだ?」
土足で家中を物色し倉庫を開けると、まだ幼さが残る少女が震えながら身を小さくしていた。
「へへへへへー、いたいた、おとなしくしてろよ。へっへっへへー」
「いやーーーーーーーーーーーーーーー!」
と言う、少女の絶叫が集落中に響き渡る。
それを聞いて駆け付けた一人の女が毅然とした態度で言った。
「その子はまだ初潮も来てないのよ。私が代わりになるわ!」
「ほう? 随分といい女じゃねーか。ひーっひっひっひー、お前も後で慰めてやるから待ってろ」
盗賊は女の言葉など気にせず、少女を抑えつけ始める……が
「いてーーーー」と、盗賊は体を丸めて苦しんでいる。女が股間を蹴り上げたのだ。
「マリア……なんてことを……」
「ホベルト……ごめん……」
盗賊達が集まって来た。
「抵抗したら、集落に火を付けて皆殺しにするって言ったはずだが」
ホベルトは地面に頭を付けながら
「申し訳ありません。もう抵抗はいたしません。金目の物は持って行って構いませんが、女共は……子供だけは……許して貰えませんか……」
盗賊が
「まぁ俺達も元農民だ。今日は許してやるが次はないぞ」
「あ、ありがとうございます。」
「ただ、その女は貰っていくからな。」
盗賊は、収穫したばかりのイモとマリアを連れ去って、村を後にした。
「マ、マリア……」
ホベルトは、うなだれて立ちつくすしか出来なかった。
セイビア王国で蜂起した農民解放軍の逃亡兵が、盗賊団となりアルバド国で略奪を行っているのである。
金目の物は全て奪われ、毎年収穫を終えた頃に食料を奪いにくるのである。これで三年連続なのだ。
アルバド国の女王を殺害し、その子供達を奴隷として売り払ったサルダーは、実権を握ると、非武装中立を周辺諸国へ宣言し、国境を接する三カ国には、毎年対価を払うことで侵略を食い止めていたが、騎士団のないこの国は、盗賊を退治する手段を失っていたのである。
そのサルダーも盗賊に貯め込んだ金品を奪われ、無慈悲に殺されてしまっていた。
板壁はどこも腐りかけ、いつ屋根が崩れ落ちても不思議でないじめじめと湿った薄暗い小屋に、集落の長達が集まっていた。
「このままでは、我らは生き地獄じゃ……」
「盗賊共も、味をしめて儂らが餓死せん程度残して、毎年収穫後を狙ってくるからタチが悪い」
「ホベルトの嫁はさらわれてしまったしな……」
「イモはまだしも、女共が不憫じゃ……」
「皆で、盗賊共と戦おうではないか!」
ホベルトは立ち上がり、鼓舞するように大声を上げるが、皆下を向いてしまう。
「盗賊団は、何百人もおるんじゃぞ……」
「……戦うのはいいが、どうやって戦うんだ? 鍬の替りに剣を振ってもいいが、戦い方を知らん」
「騎士団が一人もおらんからな……」
「傭兵を雇うのはどうじゃ?」
「傭兵もわしらと同じじゃ、誰かに指揮されんとまともに戦えんし、あまり数を雇うと逆に傭兵どもの餌食になるだけじゃ」
「サナ姫が戻って来てくれたら……」
「奴隷となって売られて行く時に、石を投げつけた者もいたんじゃ、今は王国で立派に暮らしていると聞く、戻ってくれる訳がないじゃろ」
ホベルトは皆を見回し
「サナ姫が戻って来てくれたら、皆戦ってくれるんだな?」
「……」
「……ああ、戦うよ。でも戻って来る訳がないだろ」
「俺がサナ姫を連れてくる」
と、ホベルトは言い放ち、勢いよ扉を開けて集会場を出た。




