アビラ砦攻城戦2
「ユイ千人長、いつ着くんですか~ こんな荷物を引いた馬のペースで進んでたら戦終わっちゃうんじゃないの?」
退屈なヨナが結衣に悪態を吐く
「戦が終わってるならいいじゃない。でも、退屈なのも苦痛よね。」
サナは落ち着いた様子で
「今日のお昼過ぎには着くと思いますので、辛抱しましょう。」
アビラ砦へと続く草原はうんざりするほど広かった。単調な景色はどれだけ馬を走らせても、とても前に進んでいるようには思えなかった。距離感がまるでつかめない。
後ろには、山のように荷物を積み上げた荷車を、黙って汗をかきながらひっぱっている馬が付いて来ている。
ひゅうーひゅうーひゅうーひゅうー
草原を洗うようにして、吹いて来た風に、微かな死臭が混じっていた。
結衣とサナが目を合わせ
「そろそろ着くようね……」と、お互いに呟いた。
暫く進むと国王直属部隊の本陣が目に入った。無数の天幕が並び、あちこちから給仕の煙が昇り、ビアガーデンのように草原のテーブルでエールを飲んでいる姿が見える。草原に突如現れた街のようになっていた。
よく見ると、兵達はお互いに薬草を塗りあったり、獣のように身を丸め自己再生に努めている者、身を抱え震えている者、木陰で異常な汗をかいている者などがおり、ここが戦場であると気が付く
結衣は、物資の搬入をサナに任せると、丘の上のバルデス将軍の元へと向かった。
結衣の姿を見ると、バルデス将軍の方から寄って来た。
「物資補給ご苦労であった。感謝する」
「戦況はいかかでしょうか?」
「予想より時間が掛かっておるが、確実に敵を消耗させておるので、あとは時間の問題じゃな」
「何か問題が起きているのですか?」
「いや、我が軍は他国へ攻め入ることがないので、攻城戦の経験が少ないのじゃ、それで時間が掛かっておるが、これも良い経験になるであろう」
「そうですか……、こちらの書簡をテイス将軍からお預かりしました。」
と、結衣は書簡をバルデス将軍へ手渡した。
バルデス将軍は書簡に目を通すと
「お主を攻城戦へ参加させろとのことだ。陽が暮れるまで、本陣からアビラ砦の戦況を見ているがいい。」
「お心遣いいただきありがとうございます。」
と、結衣は深々と礼をしたあと、丘の上から戦況を眺めた。
(ユイ、砦の中は、落ち着いておるぞ。最前線の兵は順番に交代して、弓矢を運ぶ者、油を沸かす者、負傷者を手当てする者、と分業されているな)
コンサが空から砦の様子を結衣に伝える。
(焦りとか悲壮感とか感じる?)
(疲れはあるようだが、淡々とこなしているような感じだな、どうせ本気で攻めて来ないと、くくっておる)
結衣は日中は丘の上から、陽が落ちてからは、砦の傍まで近づいて、その戦をつぶさに観察し、数時間仮眠を取り翌朝の軍議へ参加した。
軍議が始まると、バルデス将軍が結衣に問うた。
「ユイ千人長、熱心に戦を見ていたようだが、お主の目にはどう見えたのじゃ? 気を遣わずありのままを話して見ろ」
「はい、バルデス将軍の狙い通り、休むことなく攻め続けることで、敵は徐々に弱って行き、いずれ砦は落ちるでしょう。ただ……」
結衣は少し語尾を濁らせた。
「ただ? なんだ、何を思う所があれば話してみせろ」
バルデス将軍は少し不機嫌な表情を浮かべ言った。
「……では、砦を落とす気がないのが兵にも伝わり士気が下がっており、これでは時間が掛かり、兵の被害が増えて行くのが気掛かりです。」
すると、ボルディ万人長が立ち上がり怒鳴り声を上げた。
「口を慎め! 千人長如きが将軍の作戦にケチを付けて良いと思っておるのか! 調子に乗るな!」
「ボルディ落ち着け!」と、バルデス将軍がなだめ
「儂も、士気の低下と、兵士の被害は気になっておった。ユイお前に何か良い案はあるのか?」
「……、……、……」
ボルディ万人長に怒鳴られて萎縮してしまった結衣は言葉に出来ない。
バルデス将軍は、そんな結衣の姿を見て
「アルマサン城塞都市をたった数十人の部下で、落としたお主の実績は、儂も英雄に値する物だと思っておる。儂には出来んことじゃ、儂はテイス将軍の下で永く戦ってきた、テイス将軍はまさしく戦の天才じゃった。そのテイス将軍が稀に見る戦の天才とお前を称している。」
バルデス将軍が周りの万人長達を見渡すが、その表情に疑いの念が感じられた。
「儂がアルマサン城塞都市奪還の為に、王都を出たとき、この中に、ユイ千人長と同じことをしようと考えた者はおったか?」
万人長達は、下を見るしか出来ない。
「ユイ千人長、儂にもお主の力見せてくれないか?」
結衣は顔を上げて
「それでは、本日夜襲で砦を落としに行きたいと思います。」
やっと口を開いた結衣にバルデス将軍は目を細め
「お主の部隊だけで落とす気か?」
「いえ、ボルディ万人長の部隊を主力として、私の部隊と、ガイア万人長の部隊で攻めさせて頂きたい」
「ほう、どのような作戦なのか?」
「はい、…………………」
結衣は一日中見ていた戦況から、敵の動きと、国王軍の能力から判断し、人選を行い。作戦を丁寧に説明した。
結衣の作戦を聞いたボルディ万人長は
「別に目新しい作戦ではない。そんなこと今でもやっておる。俺達が何も考えないで戦っていると……」
「いや、ちょっと待って」
ガイア万人長がボルディ万人長の話を遮るように
「俺は賛成する。今の戦いだと、兵の士気があがらん! ユイ千人長の作戦なら、隊長クラスが先頭に立って戦うことになるから士気もあがるだろう」
「うーん」
バルデス将軍は考え込む
「……やる価値はあるが、リスクが大きい。儂には砦よりも優秀な戦士の方が大切なんじゃ」
ガイア万人長はまんざらではない表情で
「でも、今の作戦は、その優秀な戦士が宝の持ち腐れですよ。将軍」
「うむ……」
結衣が
「バルデス将軍、現状では敵に焦りも混乱もありません。この作戦で砦が落ちないなら、あとは将軍の作戦通り消耗戦に戻れば良いと思います。一度だけやらせて下さい。」




