爆発菓子
三日間連続で焼き討ちと、闇斬りをしたあと、結衣は部下達に一週間何もしないと伝えた。
反乱軍は、外出禁止や食糧庫の警備兵を増やすなど、緊張感を持って対応しているので、暫く何もしないことで、いつ襲われるのかと言う恐怖と緊張を与え
もう襲撃はないかもしれないと言う油断を与える時間、そして食料が段々と減って行く時間が必要だと考えたのである。
子供達が井戸へ水汲みに行っているとき、リナが結衣に話があると言ってきた。
「なに?」
「あのね、時期は百人長に任せるけど、そろそろ百人長がいることを住民と反乱軍に見せつけた方がいいと思うの」
「どうして?」
「私達、三姉妹のことは以前話したよね?」
「うん」
「人心は、印象で動く物なの、私達の時も、昨日まで笑顔で手を振っていた住民達が、贅沢して無駄使いばかりしていると、噂がでただけで、誰も目も合わせなくなったわ」
「そうなんだ……」
「百人長は、国王軍の白い悪魔として住民にも反乱軍にも知られた存在でしょ。噂に尾ひれが付いて大袈裟になってるけど、今はそれが良い方に向かうと思うの」
結衣が黙って頷くとリナは続けて
「住民には勇気を与え、反乱軍はいっそう恐怖を感じると思う」
結衣は
「うん。解った。タイミング考えて目立ってやるわ!」
井戸で水汲みをして来たダニエラが
「おねーちゃん、井戸の近くは、大人の男の人がいっぱいいるから、爆発菓子の屋台を出してもいいと思うんだけど?」
「そうね……住民のみんなも喜ぶでしょうから、出してみれば」
「わーい、じゃ明日から屋台だすね」
翌日、井戸の近くで爆発菓子の屋台を出すと、
ポンッポンッポンッ! ポンッポンッポンッ!
と言う独特の音と、香ばしい匂いが充満した。
近隣の家から窓を開けて
「お父さーん、爆発菓子買ってきてー」
「うちもよ、お父さん」「お父さん三皿買ってきてー」
と、家から出られない女性や子供達からリクエストが殺到していた。
ダニエラ達は、どんどん爆発菓子を作り売りさばいていると
「これが最後ですよ」っと
あっという間に売り切れてしまった。
「明日も屋台は出してくれるのかい?」
娘に頼まれて買いにきた男が聞くと
「はい、明日も同じ時間に出します。」
と、ダニエラは笑顔で答えた。
翌日、ダニエラ達が道具を持って井戸へ向かうと、物凄い人だかりが出来ていた。
ダニエラが、立っている男に声を掛ける。
「何かあったんですか?」
すると、男は
「何かって、皆お前たちが店を出すのを待ってるんだよ。早く準備してくれ」
「えー、こんなに材料ないですよー」
と、ダニエラが言うと
「いつもの固いトウモロコシの種持ってきたぞ!」
乾物屋の店主が袋を掲げると
「「「おおおおおおおおおおお」」」
と歓声があがった。
ダニエラ達が急いで準備をして、爆発菓子を売り始めると、千人程の男達が綺麗に並び、口々に「一人一皿にしようとルールまで決めていた。
そこへ農民解放軍の憲兵らしき集団がやってきた。
「何事だ! 怪しいことはするな」
「騒ぎは起こすんじゃないぞ!」
「お前たち、何を集まっているのだ!」
すると、並んでいた男が屋台を指さし
「屋台の菓子を買うのに並んでいるだけです。怪しい集まりじゃないですよ。」
「なに?」
と憲兵達が屋台の前に行くとダニエラが
「あっチャナさん! これ美味しいんですよ。おひとつどうですか? 銅貨一枚です!」
チャナもダニエラに気が付き
「ダニエラちゃんのお店だったのか、食べたいけど、私達、農民解放軍は、遠征にお金持って来てないから、今度でいいよ。」
ダニエラが笑顔で
「チャナさんには助けて貰ったので、一皿だけサービスしますよ」
しかし、誠実な性格のチャナは
「駄目ですよ。特別扱いしないで下さい。皆さん並んで待っているのに、無料で頂くことは出来ません。」
「そ、そうですか……お礼がしたかったのですが……」
と、ダニエラの顔が曇ると先頭に並んでいた男が、銅貨を一枚親指でチャナへと飛ばした。
「今日は、俺の奢りだ。一皿だけ食ってみろ。子供に悲しい顔させるなよ」
「ありがとう。それではお言葉に甘えさせて頂きます。」
と、チャナは爆発菓子を一皿貰い、部下達と一緒につまんでみた。
「美味しい」「こんな食感初めてだ」「香ばしい匂いがたまらないな」
「城塞都市にはこんな食べ物があったのか」
と、あっという間に平らげてしまう。
「それでは、見廻りに行ってまいります。皆さん騒ぎは起こさないようにお願いしますね。」
と、チャナ達の憲兵隊は住宅街の奥の方へ歩いて行った。
今度は、爆発菓子の匂いに誘われ招かれざる客がやって来た。
「ん~ん、いい匂いだな~」
五、六人のガラの悪い農民解放軍の兵士が、屋台を覗いた。
「少し、食わせてみろ」
と、一人が勝手に手を伸ばし、爆発菓子を一掴み口に入れた。
「う、うめーな。」
それを見た他の兵士達も
「俺にも食わせろ!」
と、屋台を囲んで爆発菓子に手を伸ばした。
「お前たち止めないか! みんな並んでいるんだ。それに金は払わないのか!」
並んでいた男が兵士を怒鳴り付けると
「いい度胸してんな~、死にてーのか? あんちゃん」
兵士が睨み付けるが、並んでいた男達も怯む事無く、屋台の前で揉み合が始まった。
ガチャーン!
と、音がして、真っ二つに割れた火鉢が転がり、鍋を持っていた男の子が尻もちを付いた。
「わーん、わーん」と熱い鍋で火傷した男の子が泣きじゃくり
「だ、だいじな火鉢が……」
割れた火鉢を見て少女が呆然と立ちつくしている。
「火鉢の弁償して下さい」
ダニエラが毅然とした態度で兵士の前に手を出すと
「なんだと! この小汚いガキが!」
と、兵士は拳を振り上げた。
後ろから、その拳を抑え
「子供に手を上げるとは、農民解放軍の恥さらしだ!」
「な、なんだ、てめぇー」
と、兵士が振り返ると、騒ぎを聞きつけて戻ってきたチャナであった。
「け、憲兵かい」
兵士は、腕を振り払い。
「お前ら、今日は気分が悪い、戻って飲み直すぞ」
と、子分を扱うようにして、他のガラの悪い兵を引き連れて戻っていった。
ダニエラがチャナに抱き着き
「チャナさん、ありがとう。本当はとても怖かったの」
チャナはダニエラの頭を撫でながら
「悪いのは農民解放軍だから、私にも責任がある。大事な商売道具を壊してしまって、本当に申し訳ない。」
チャナの目には涙が浮かんでいる。
「チャナさん、どうして泣いてるの?」
チャナは涙を拭きながら
「こんなはずじゃなかったんだ、私は、苦しんでいる農民をなんとかしようと……」
ダニエラの魔眼には、心の底から本心を話しているチャナの姿がしっかりと、映し出されていた。




