現代編4
(11.02.20~14.04.29)
書き直し:15.12.23
「その後気が付いた時にはメルシリア家に居たのです。ハーリッド様からお話を伺うと、あの後、アルヴィナルへ来て、私を見つけて下さったとか。
私からお話できることは以上です」
部屋に居る皆は口を開くことができず、黙ったままだった。
しばらくしてその沈黙を破ったのは、サーレテスだった。
「もし君が望むのであれば、アルヴィナルの権限を君に返そう。
君が消えてしまい、メルシリアも我々に報告していなかったから、一応保留と言う形で権限や財産は置いてあるんだよ」
「どうして俺の父はウィアディリーに報告しなかったのでしょう?」
疑問に思いロウディットは質問をする。ウェイトはそんな彼を黙ったまま見ていた。
「さてそれは私にもわからない。けれどもそれで罰を与えることは一応しないつもりだから」
そう笑顔で返す。
「サーレテス様」
フィルは立ち上がり、床に膝をついた。
「私フィルチェイナ・アルヴィナルは今まで貴族としての責務を放棄して参りました。
ですのでアルヴィナルの名前の返還を求めることはできません。
しかし私個人として、この今の問題を無視することはできません。勝手ながら捜査に加えさせていただきたいのです」
サーレテスは少し困った様な表情で言う。
「フィルチェイナが満足しないのならそれでいいよ。協力も傭兵のフィルとして歓迎しよう」
「けれども父上、相手の動きがわからなければこちらも動きようがないのでは?」
「ただ何をしようとしているのはわかっているよ。なぁウェイト」
「何故俺にふる」
うんざりする様子でウェイトが答える。
「だって私と君がこの中で状況をわかっているんじゃないな?一目でウィーアリーの家紋について気が付いた様だし」
そして二人は睨み合ってウェイトがため息をついた。実際にはウェイトが睨み、サーレテスが微笑んでいたのだが。
「あいつ等は五大貴族と皇帝に恨みを持っている。皇帝の恨みの方が大きそうだがな。
だからまず狙われるのは五大貴族の当主達。そして次に皇帝だ。
しかし五大貴族もそこまですぐにやられるとは考えにくいのだが。
もしかしたら異端者を募って行動をしているのかもしれない。狙うとしたら創立祭じゃないのか?」
「それなんだよねぇ。てっきり私は今年は無くなると思っていたんだけど」
「父上、そんな失礼なことを言わないで下さい」
「けれども今皇帝は床に伏せって、遂に息子に託したばっかりなんだよ」
「そうだったんですか?」
ウィアディリーの二人とウェイト以外の人物が驚いて声をあげる。
「少し前までは五大貴族にも皇帝の入れ替わりを説明していたんだけどね。けれども少し不穏な動きをする人も居るから黙ったままだったんだ。申し訳ないね」
「その、不穏な動きをする人物はここには居ない、と?」
フィルは声を潜めて言うと、彼は笑う。
「まぁそう言うことになるね」
「どうして俺まで」
ロウディットが弱々しい声で言うと、サーレテスは向き合う。
「メルシリアは昔から信頼のおける貴族でね。けれども今の当主、ハーリッドは別人の様に変わられてしまった」
彼の言葉にロウディットは黙ったままだった。
「君も気が付いていたんだろう?けれども自分の父親のどこが変わったかわからない」
「性格も、ですし、それに雰囲気と言うか、多分親父は…」
ロウディットは言葉に詰まった。そして俯く。
これを言ってしまえばメルシリアはどうなってしまうのか、不安で仕方なかったからだ。
誰かに言いたいことは何度もあった。しかしこのことはテリーナにも言っていない。
しばらくロウディットは黙ったままだった。その間口を開く人物は居ない。
彼は口に力を入れ、そして決心する様に顔を上げた。
「親父は、ツオバーが使えない状態です」
「その根拠は?」
ウェイトがすかさず立ち上がって質問してきた。ロウディットはためらいなく言う。彼等は向かい合う形で話を続ける。
「ツオバーの気配がしないから」
「少し話がずれるが、お前はフィルの中に居る俺の存在さえわかっていた様子だったな」
突然話を逸らされ、戸惑いながらも話す。
「フィルがまだメルシリアに居た時からなんとなくだけど何か違う気配を感じたから」
「ドッペル・デュールを知らなかったのに?」
ウェイトの言葉にロウディットの目線が動く。
「それは、説明できないけど、感覚で何となくもう一人居るって感じたんだ」
「説明できないけど?」
「感覚と言うか、言葉に表せれないんだけど」
「お前はツオバーしか使えないはずなのに?」
「ツオバーでもここまでなら誰だってできるだろ?」
「ヒューウェイ、今の話をどう思う?」
ウェイトは振り返ってヒューウェイに聞く。
「少なくとも俺はそんな能力は持っていない」
「ノルワール、ソーサリーのお前はどう思う?」
「彼の能力は極めてソーサリーに近いと思います」
「けれどロウディットはツオバーだ。そして」
ウェイトは一拍置いた。
これを言ってしまえばきっと彼の生き方に関わってくるだろう。
本当に俺はこいつの運命を決めてしまっていいのだろうか。これを言ってしまったらあいつの様に人生が狂ってしまうのではないか。そう不安に感じていた。
しかし彼がウィーアリーに狙われている原因はここにあったのだ。
「お前はツオバーもソーサリーも両方使える」
ロウディットは彼の言葉が理解できず、自然と笑いが出てくるが、それは酷く歪んでいた。
「ど、どういうことだよ」
「しかも両方一般人と同じ様に使えるぐらい。そしてテリーナよりも能力は上だ」
「何を言ってるんだよウェイト。冗談も大概にしろって」
「冗談で言うなら笑えないな。確かに昔はツオバーの方が使えていたはずだ。しかし段々とソーサリーも使える様になっていったんだろう?
今は両方の能力が同じ力を持っているのを感じるんだよ」
そしてウェイトは目を伏せる。
「お前は百六十年前の英雄と同じ道を歩まなくてはいけない」
部屋に沈黙が降りる。
しかしサーレテスがいきなり手を強く叩いた。部屋の中で大きく響き、ロウディットは驚いた様に肩を震わせた。
「ウェイト。その言い方は失礼だ。ロウディット君にも、そして英雄にも。
君は君らしく生きたらいい。しかしこの事実を彼が言ってくれたのは、ウィーアリーが君を狙っている理由を知っていて欲しかったんだ。
理由を知っているのといないとでは大きな差だからね。
ウェイトは長く生きてきて、君が心配で不安をあおる様なことを言ってしまっただけなんだ。彼を許してあげてくれるかな?」
ウェイトは唾が悪そうに再び席に着く。
「いえ、とんでもない…」
「君が求めるなら、我々は君を全力で守ろう」
ロウディットは戸惑った表情でサーレテスを見ていた。
「次に相手が来るとしたら、明日の創立祭だろうね。中止をしようにももう遅いし、人も大量に来るだろうし。
貴族の中の問題なんて一般市民からしてみれば関係ないし。
兵士を増やして、厳重態勢にするしか方法は今の所無いって感じかな。ノルワールもその一員に入って欲しいしね。
だから自然とヒューウェイが君を守ることになる」
「いや、いいです」
ロウディットがきっぱりと言う。
「もちろんヒューウェイが居てくれたらすごく心強いし、居て欲しいけど、そこまで気を遣っていただかなくていいです。俺はフィルも、ウェイトも、ヒューウェイも、テリーナも居るから」
彼は真っ直ぐサーレテスを見ていた。そしてサーレテスは満足する様な表情で頷く。
「そうか。そう言ってくれると嬉しいよ。ヒューウェイも信頼してくれているって証拠だね
お前がそんな人を持ててよかったよ」
ヒューウェイは目線を逸らす。
少し沈黙があった後、サーレテスは立ち上がった。
「では我々はここまでで失礼するよ。明日の創立祭があるからね」
そう言ってノルワールを連れて部屋から出て行ってしまった。
ふとフィルがウェイトの座っている方向へと目を移すと、彼は眠っていた。いつの間に眠っていたのだろう?
「ウェイトでも眠ることがあるんだ…」
独り言の様に呟くと、彼の体は一瞬で消えた。
フィルは胸に手を当て、目を瞑った。
「おかえり、ウェイト」
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「嬉しそうですね父上」
横で並んで歩いているノルワールが話しかける。
「そうだね。ヒューウェイも嬉しそうだった」
「あの子はもう少し自分が思っていることを表面的に出せばいいのですが」
昔から弟はどこか我慢している様に感じていた。
「なかなかヴィルカーンとノルワールについて行けなくて、歯がゆいんだろう。そんなことないのにな」
ヴィルカーンとはノルワールとヒューウェイの兄のことだ。
「兄上も昔はあんな感じでしたけれど」
「あの歳であそこまでのツオバーが使えたら、正直十分だよ。ウェイトの時だって、混乱しながらも冷静に判断していた様だったし。
ロウディット君の方が大分慌ててたよね」
そして彼の能力をツオバーであるのにも関わらず気が付いたのも彼だ。
「なのに、
俺が居ながら役に立てず、申し訳ありませんでした。
だからね。あれはあの状況になれば役に立てないものだよ」
「責任感が強すぎるのでしょう」
「いや、それよりも完璧主義なのだろうな。私と一緒で」
「え?父上が?」
父親が自分の話をするのが珍しく、驚いた声を出してしまう。
「うーん完璧主義と言ったら何かが違うと思うが…ヒューウェイは私に似ているな」
彼はいつも一人で居た。
その姿が自分と重なる。
「ヴィルカーンですら、友を作っていた。歳を重ねるにつれて友達が変わっていっていたけれど。けどヒューウェイは友を作らなかっただろう?あえて」
「あえて?」
「内気とか、そんなんじゃない。人に話しかける勇気が無かったとかでもない。彼はあえて友を作らなかった。
ヒューウェイは一人で居ることを選んでいたんだ」
「選んでいた?」
「ノルワールだって友は居るだろう?
周りがウィアディリーと言う名前を怖がっては居なかっただろう?むしろ寄ってかかられたはずだ」
「まぁ、そうですね」
「ヴィルカーンも、ノルワールも友を選ぶ選択肢は多かったはずだ。まぁヒューウェイは末っ子だから選択肢はそこまで多くなかったかもしれないけど、でも普通の人よりも多かったはずだ。
私も少し学校へ赴いたことがあって、遠くからヒューウェイを、もちろん君達もね、見たことがあった。
ヒューウェイも普通に人と話せる。話せるのに、友と遊んでいる所を見たことがなかった。
それを理由に外に出かけているのを見たことが無かった。それは何故か。
訓練をしていたからだよ。自分のツオバーをね」
「そうでしたね」
「そこも私と一緒だ。
ヴィルカーンの能力は高かったけれど、ヒューウェイよりかは訓練をしていなかった。
普通に友と遊び、交流を深めていた。
少し心配になるよね」
ふとサーレテスの表情が無くなった。彼は遠くを見て、何かを忌々しく見ている様な、そんな気がした。
「父上?」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと感情的になりすぎたね。
さて、明日が遂に創立祭だ。君とヴィルカーンは皇帝の近くで援護を。
我々も後から皇帝に謁見をするが、その前に皇帝の所へ行ってくれ」
「わかりました」
「そう言えば」
ノルワールが足を速めた所で彼女を止める。
「テリーナ君は?」
「おそらくメルシリアの屋敷に居るはずですが」
「そうか」
そう言ってサーレテスは考える仕草をし立ち止まった。しかしすぐに歩き始めたのだった。
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次の日から創立祭が開催された。誰も皇帝が変わったことに気が付かずに。
いつもならウィアディリーの屋敷から祭りを見ていたのだが、今回は変更された。サーレテスの提案だった。
皇帝ももちろんその提案に賛成し、違う場所に居る。
彼の話によると、彼の弟であるナーザイナが襲い掛かってきたとか。唯一の兄弟なのに悲しいことだと皇帝は思う。
祭りは様々な屋台が開かれ、花火は上がり、市民は楽しそうだった。市民がこうして楽しんでいるのを見るのが自分の幸せなのだと。悲劇は繰り返されるべきじゃない、そう父は言っていた。そしてサーレテスも。
戦争時代の皇帝はどうやらそうは思っていなかった様だが。
国民の虐殺を命じ、そして無理な戦争を持ちかけていたのだ。それを支えていたのは今の五大貴族だと、そう教えられた。その時代に戻ってはいけない。
その中でもヘルト・メルシリアは皇帝を止めた英雄だった。彼はツオバー、ソーサリー両方を使いこなしていた。
もちろん皇帝を止めるだけではなく、戦争の道具としても使われたとか。
彼はその時何を思っていたのだろう。その時代に生まれ、戦争に繰り出され、何を思っていたのだろう。
市民を不幸にさせないために、これから自分がこの国をまとめなくてはいけないのだ。
若い皇帝は握り拳を作って「よし」と小声で言う。
「気合が入っておりますね」
後ろから声がした。振り返るとそこにはウィアディリー家の当主夫妻が立っていた。
彼が振り返ると二人は深々と頭を下げる。その様子を見て、思わず本音が漏れてしまう。
「なんだか落ち着かないですね」
今まで自分の師匠として前に立ってくれていた人物がこうして頭を下げている。
彼の中でサーレテスは一番尊敬している人物だった。彼は一見漂々としており、何を考えているのかわからない人物だと言われ、厭われていた。けれどもそうは思わない。この国を深く愛し、深く考えているそんな方なのだ。
けれどもそれを表に出さないためそんな噂が立ってしまうのだ。少し困った人物である。
「それでもあなたは皇帝になられたのですから、慣れて頂かないと」
サーレテスは顔を上げ、真顔で話す。
皇帝になった彼は名前を棄てた。それがこの国の、皇帝の規則だからだ。
これから彼は今まで呼ばれていた名前で呼ばれるのではなく、「皇帝」と呼ばれる。まだそれにも慣れていない。一度呼ばれても反応することができないのだ。
「それに皇帝になったとしても、我々の関係は崩れないでしょう?」
真顔だった彼の表情が少し和らいだ。
ウィアディリー家と皇帝の一族は深い関わりがある。
もちろん彼の子供とも認識があり、ヴィルカーンとは友人だと思っている。そして皇帝はサーレテスから様々なことを教わり、教師的な存在でもあった。
「そうですね。おれ…いや私がしっかりしなければならないのですから」
若い皇帝は二十歳になったばかりの青年である。そんな青年が満面の笑みを浮かべる。
それを見てサーレテスは不安も何も感じなかった。若く皇帝になられたお人だが心配はいらない、と思った。
「そんなに力を入れすぎると空回りしてしまいますよ」
それを聞いた皇帝は複雑な顔をする。その様子を見ていたサーレテスの妻は苦笑する。
「あなたいじめては可哀そうですわ」
彼女はそう言って「失礼します」と言い、皇帝の肩に手を乗せた。真っ直ぐ彼女は皇帝の目を見た。
「大丈夫です。あなたはとても真っ直ぐで人の気持ちも考えられる。優しい皇帝になってくださいます。
ただ、真っ直ぐ見過ぎて周りの注意も怠らない様にくださいませ」
「ふ、夫人!」
皇帝は照れた様に言うと、彼女はクスクスと声をあげて笑った。そして「では」と言ってその場から去って行ってしまった。
サーレテスは少し申し訳なさそうに口を開く。
「気を遣わせてしまったかな?」
「あの方はいつもあなたのことを見ておられますからね。ただでさえ最近体の調子が良くないだとか」
「昔はまだ大丈夫だったんだけどね。最近はどうも体が言うことを聞いてくれなくて」
皇帝は自分の父親と姿を重ねてしまい、複雑そうな顔をした。
「そこまで悪くなっているのですか?」
そんな皇帝とは対称に、彼はへらへらと笑っている。
きっとナーザイナのことも気にかけているのだろう。
突然彼はウィアディリーから出て行ってしまった。その時、彼の兄であるサーレテスは必死に探した。けれども見つけることができなかった。
その時今と同じ笑顔で「仕方がないね」と言っていたのを覚えている。仕方がないことなんてないはずなのに。できればもっと捜索に時間をかけたかったはずなのに。彼は途中で探すのを止めた。
再び自分達の前に現れるのがわかっていたのだろうか?
唯一の兄弟なのに、彼が一番辛い思いをしているのだろう。
皇帝は握り拳に力を込めた。
そしてサーレテスは祭りで賑わっている様子を見ながら昔のことを思い出していた。
「お前は友と遊んでいる所を見たことがない」
苦笑いをしながら父親に言われる。
「一人じゃつまらないだろう?」
「いえ、一人の方が落ち着くので…」
父親から目線を逸らしながら、サーレテスは低い声で答える。
「まぁお前がいいのなら文句は言わんが…ただ一つだけ伝えておきたいことはある」
「なんでしょう?」
「決して私の様には生きてはならないよ」
「この前も仰っていましたね」
「どうしてか、お前達双子は俺に似てしまって、将来が心配なんだよ」
「父上みたく、ウィアディリーの当主を努めますよ」
その答えに小さくため息をつく。
「そんな真面目に育てた覚えはないんだけどなぁ」
その呟きにふふんと鼻を鳴らして得意げに話す。
「母上に似たのですよ」
そう言って父親の部屋から出て行った。
ドアの横には暗い顔をした自分と同じ顔をした人物が立っており、少し驚く。
「なんでそんな所で立っているんだ?」
彼は何か言いたそうにしては口を閉じ、黙りこくってしまった。
最近ナーザイナの様子がおかしい。
部屋が隣だからわかるのだが、夜にうなされている様なのだ。
「寝不足か?」
問いかけると彼は肩を震わせ「いや」と否定する。
毎晩の様にうなされているのを知っている。それで寝不足じゃない訳ないじゃないかと、心の中で呟く。
だから直球にこう聞いた。
「毎晩うなされているくせに」
「いや、あれは、関係ないよ…」
「どんな夢を見ているんだ?話したら見なくなるかもしれないぞ?」
「それは…」
どうせ夢なのだ。現実に起こる訳がない。
「兄さんは、信じないよ…」
「信じる信じないも夢の話だろ?」
「いや、まぁ、そうだね…」
「ここで話すのもなんだ。俺の部屋に来いよ。おいしい紅茶でも淹れてやるよ」
指で自分の部屋を指し、歩き始めた。
紅茶をナーザイナに淹れ、しばらくして彼は落ち着いた様子だった。
先程はとても怯えていた様に感じた。夢のせいだけではなさそうにも見える。
「さっきはどうした?」
そう聞くとナーザイナの顔が曇った。
「まぁ無理に話さなくてもいいよ。無理に話すことはないからね」
「夢を見るんだ」
小さな声でけれどもはっきりとした口調で話し始める。
「夢に出てくるのは自分じゃないけど、俺の知らない人が、俺なんだ」
「お前が他人になっていると言うことか?」
彼は頷く。
「そいつはウィーアリー家なんだ」
「名前だけしか残っていない一族だな」
「最初この夢を見た時、普通にそいつは、俺はウィーアリーの責務をこなしていたんだ。こなしていく内に、戦争に繰り出されて行く。
夢の世界では貴族が多かった。けれども戦争で死んでいった。俺はどうすることもできなかった。
できないから自分の力の無さを嘆いていた。けれど何もできなかった。
国が壊れていくのがわかったよ。だって皇帝が虐殺を命じていたからね」
「誰の?」
「異端者の。
他の貴族もうんざりしていた。けど皇帝に逆らったら自分が殺されるんだ。殺されない為に皇帝に従う。それしか生きる方法が無かった。
だから俺は…」
そこでナーザイナは歯をカチカチ言わせていた。彼は震えていた。
「逃げるしかなかったんだ」
「逃げる?」
「誰かの手を引っ張って、逃げるしかなかった。今まで自分が一番信頼していた人物から裏切られ、俺は誰も信じることができなかった。
皆敵に見えた。恐ろしかった。
だから俺は、兄を、殺すしかなかった。
俺は殺すしかなかった。だから全力で襲い掛かった。そのはずなのに、兄は死ななかった。
あんな顔をして、俺を殺したんだ。
毎晩毎晩そんな夢を見る。見たくなくても、考えたくなくても、夢を見て、今だって…」
彼は最後前言うことなく、カタカタと震えている。
「まぁ一つ言えることがあるな」
サーレテスは指を一本立てて言う。その指を追う様にナーザイナの目が動く。
「お前は俺を殺していないだろ?」
「それは…」
「俺はお前を殺したりはしないよ。必ずお前を守ってやるよ。それが俺の役目だ。
そしてお前の役目は」
サーレテスは彼の頭に手を乗せて、撫でる。
「元気になることだよ。
今のお前の顔は酷いものだぞ?真似してやろうか?」
「いいよ。見たくないし」
「その夢に心当たりはあるのか?」
その質問に彼は首を横に振る。
「少し請け負ってる仕事がきついのかもな。今俺は暇だから少し仕事くれよ」
ナーザイナにはそれが嘘だと分かった。彼は自分以上に仕事を請け負っているはずなのに、彼は笑っている。
「俺仕事ないと死んでしまう質でさ」
その後、彼はウィアディリーを去ってしまった。
その時には何故彼がウィアディリーを去ったのか、わかっていた。だから探さなかった。探しても自分では解決できないとわかっていたからだ。
「必ずお前を守ってやるよ。か」
サーレテスは小さな声で呟く。皇帝にも聞こえない声で。
「俺は…」
人は変わる。良い意味でも悪い意味でも。何かを知ってしまえば変わってしまうのだ。
自分だってそうだ。あの時は何も知らなかった。知らなかったからあんな無責任なことを言えたんだ。
人は変わってしまう。
「今でもあの約束を果たすことができるのかな…」
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「今年はすごい人だな」
ロウディットは周りを見ながら感嘆の声をあげる。
その様子を見てヒューウェイはため息をつく。
敵がいつ襲いかかって来るかもわからないのに、創立際には出ろだなんて。
「馬鹿なのか?」
「なんで馬鹿にされたの?俺」
「確かに人数が多い様に感じますね。昔はここまで参加していましたっけ?」
とフィルが。
「いえ去年、一昨年もこんなには参加していなかったかと」
とテリーナが返事をする。
一方ヒューウェイは「ふぅん」と言って周りを見ていた。
「もしかして参加したことなかった、とか?」
覗き込む様にロウディットに顔を見られて目線を逸らす。
「俺はいつも他の任務へ行っていたからな。兄上達は護衛と言う形で参加していたと思うけど」
「ふぅん」
まだロウディットは任務と言う形で外へ出たことが無い。全てハーリッドが一人でやってしまうからだ。
それが年下の青年が一人で任務をこなしていることに、少し嫉妬をしていた。
しかし彼は自覚をしていなかったのだが。
それよりもロウディットは違うことに気が向いていたのだ。
それはフィルの中に居るウェイトも感じていた。
「異端者が多すぎる」
ポツリとフィルが言った。正しくはウェイトが言っていたのだが。
「まさか」
迂闊だった。
昨日屋敷に戻り、明日は創立祭だから避難しようと言った。メルシリアの屋敷ですら危険が及ぶ可能性があったからだ。
しかしハーリッドは許さなかった。
『創立祭は、この国ができて感謝する祭りだ。それをメルシリアが放棄することなど、許さない』
しかしそれに反論した。ウェイトはフィルの体から出ず、フィルの口で言っていた。
『けれど、ロウディット様が再び狙われるかもしれないですよ。我々だけで、対処できるとは到底思わないのですが』
『メルシリアの名前を軽んじすぎているな。お前は今まで貴族に居なかったからそんな戯言が言えるのだ。
創立際は絶対参加しなければならない』
『けれど』
『それ以上口答えするなら、ロウディットの護衛を止めるか?』
そこまで言われてしまっては何も言い返すことができなかった。
言っていることが矛盾していると、そう思った。
昨日のことを思い出して、そしてウェイトは理解した。
必ずロウディットは創立際に参加させなくはならない。
それは何を意味するのか。
そう、それしか答えは無い。
一瞬ハーリッドの昨日の顔が頭によぎる。
「逃げろ!ロウディット!」
フィルの体から出てきて、ウェイトは叫んだ。一瞬テリーナが驚いた顔をした。
「罠だったんだ!」
が、遅かった。横に立っていた人物が、ウェイトを羽交い絞めにした。そしてフィルも、ヒューウェイも。
そしてロウディットの手首を強く握った人物が居た。
その主を見て、ロウディットは絶句するしかなかった。
「おや、じ?」
「こんな所に居たのか、ロウディット」
そう言って彼は微笑む。しかしその表情は酷くぎこちないものでロウディットの本能は叫んでいた。
逃げろ!
やばい!
逃げろ!
殺されてしまう!
そいつは
「親父じゃ、ない………?」
一瞬、彼の表情が曇った様な気がした。
「逃げろ!お前だけでも逃げろ!」
ウェイトの叫び声でロウディットは我に返る。
そうだ、逃げないと
そう思って手を振り解こうとするが、ハーリッドの力は強く、振り解くことができなかった。
突然地面が盛り上がり、その場に居る人よりも目線が高くなった。そして無理矢理手を大きく掲げのだ。
「英雄の復活だ!」
誰かが叫んだ。叫ぶと同時に周りに歓声が上がった。周りを見てみると、両手を組み合わせて祈っている人物が居たり、我を忘れて大声を上げている人など、様々だった。
ロウディットは訳が分からず動揺していると、その人混みの中で見覚えのある人物が見えた。
その相手を見て、更に動揺する。
彼女は、自分にとって苦い思い出であったからだ。
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異端者は入学すらできない。
けれども入試にツオバーとソーサリーの能力テストなど無かった。異端者が入学を希望する訳がないだろうと、皆思っていたからだ。
だからそれは起こった。
彼女がクラスの委員会を任されており、大量の書類を手一杯に持っていた。
それを見かけたロウディットは「手伝おうか?」と声をかけると彼女は笑顔でそれを預ける。
「女の子一人にやらせるなんて、酷いな」
「まぁ私は力がある方だから行ける!って思ったんだけどね。甘かったようだ」
そして彼女はロウディットの横顔を見る。
「まさかメルシリア家の方に助けてもらえるだなんて思ってもなかったよ」
「あれ?一緒のクラスだっけ?」
その失礼な言い方に彼女は笑う。
「一緒一緒。まぁ君、前の席に座っているくせにずっと肘をついてぼーっとしてたもんな」
そう指摘され、少し顔が赤くなる。
「興味ないんだなって思ったから覚えてる」
「そ、そんなことは…」
ない、こともない。
だってどうせ自分が五大貴族だから疎まれるのはわかっている。それにどうせ自分の悩みを誰にもわかってはもらないのだから
「まぁどうせ時間が経てばみんな他人のことなんて興味を無くすよ」
「興味を、なくす?」
「そうそう。人間は自分のことしか興味が無いんだ。
よく言うだろ?他人から見られていると感じていても、それはただの勘違いだって。
人が最も興味があるのは、自分のことだけ。自分の悩みだけ。自分の幸せだけ。だろ?」
「言われてみればそうかもなぁ」
「まぁそれが悪だとは私は思わないけどね。それが人間の本能だから仕方がない。
けど、君からはそう感じなかったんだ。自分にすら興味が無い印象を感じた」
ロウディットは「自分だって…」と小声で言うが、相手には聞こえていなかったらしく、聞き返された。
「いや、何にもないよ」
二人は目的地まで着くと、彼女は笑顔で礼を言う。
「そう言えば、名前聞いてもいい?」
「ああ、もちろん。私の名前はシュヴェア。ただのシュヴェアだよ」
市民は下の名前を殆ど持たない。
「わかったシュヴェア」
「もう一度君の名前を教えて欲しいな」
「俺の名前は、ロウディット・メルシリアだよ」
その時ロウディットはわかっていた。もう彼の能力はツオバー、ソーサリー、異端者を見極める能力を持つまでに発揮していた。
だから彼はわかっていたのだ。彼女の正体を
けれども、彼等は仲良くなっていく。恋人と言う関係ではなく、ただ友として一緒に居て居心地がよかったのだ。
友として数か月一緒に過ごしていた。
しかし突然それは起こった。
何故皆に知られてしまったのだろう。
シュヴェアは思った。学校は能力を使う授業など、なかった。それを知っていて彼女は学校へ入学したのだ。
そしてソーサリー者はツオバーか、ソーサリーしか見分ける能力しかないと、思っていた。
一瞬、肩がぶつかっただけだった。迂闊だった。
「うわぁ!」
そう叫んで相手は尻餅をついた。何事かと思ったが、シュヴェアは手を差し出したのだが、
「触るな!」
と手を弾かれてしまった。
その相手の目つきで彼女は、まさか、と思った。
相手の目は自分が能力が使えない異端者であることをうち明かした時の、その時の目と一緒だったからだ。
ああ、しまった。そう思ったのだが、直ぐに事態が悪化していく。
「異端者!異端者が居るぞ!」
そう叫んだ。相手はそう叫んでしまったのだ。
退学とか、この学校から追い出されてしまうとか、そんなことは考えていなかった。ただ失望しかなかった。
ああ、いつものことか。
と目を伏せる。どうせこれから生徒が集まり、先生が来て、校長室へと連れて行かれるのだ。
そして言い渡されるのは
『退学して欲しい』
と言う言葉だ
いつも通りだ。いつも通りなんだけど、どうしてここまで何かが引っ掛かるのだろう?
そうふと疑問に思った。彼を見るまでは。
野次馬の中に彼は居た。目が合った。そして何が起こったのかと、シュヴェアを心配する様な目つきで近づいてくる。
その姿を見て、思い出す。
今までは友など作って来なかった。どうせ卒業したら別れ別れになってしまうのだ。それ以前に作ってもこうして明かされてしまっては、退学させられてしまう。
しかし彼とは気が合った。話してても楽しかった。勉強もシュヴェアはできる方で、彼も同じ様に知識を持っていた。
さすがは五大貴族。そう心の中で思っていた。
彼には異端者だってことを、知られたくなかった。
来るな、近づくな、ダメだ。そう強く思ってても彼はシュヴェアの目の前に立った。
「どうしたんだ?」
あなたを心配している、そう訴えてきそうな目を、ロウディットはしていた。
その真っ直ぐな目から離すことができなかった。
「い、いや、何も」
「お、おいメルシリア!近づくな…異端者だぞ…こいつ…!」
先程ぶつかったソーサリー者が震える声で言う。ロウディットはそんな彼を一瞥して、シュヴェアを見た。
目が合わせられなかった。
ロウディットだって、今まで嘘をついて入学したことを失望しているのだろう。
消えてしまいたかった。
「おい!追い出せよ!」
「私達に危害を与える気だわ」
「私達も能力を使えなくなったらどうするのよ!」
「出て行け!」
「出て行け!」
「俺達の前から消えろ!」
「異端者!」
「異端者のくせに、こんな所に居やがって!」
「消えろ!」
「目の前に現れるな!」
そして先程の彼とは違う、人物がロウディットの肩を掴んだ。
「メルシリア、離れろよ」
その手が、パシンと弾かれた。
「黙れよ」
低い、けれどもはっきりとした、周りに響く声で、そう言った。
野次が静かになった。
「おい、危害を与えるって言った奴出てこいよ」
しん、と廊下が静かになる。
シュヴェアは顔を上げた。ただ自分に背中を向けているロウディットの背中だけが見えた。
その背中は何か恐ろしい気配を感じる。
自分を庇ってくれているんだ、そんな安心感など、全くなかった。
殺気が、漂っている。
「あと、能力が使えなくなったらどうする、と言った奴も」
彼はそう言うが、誰も動かなかった。動揺しながらもそこに立っているだけだった。
「シュヴェアはお前達に危害を与えてきたか?
シュヴェアはお前達の能力を低下させる能力でも持っているのか?」
痺れを切らしたのか、ロウディットは質問を投げかける。それについて答える人物など、居ない。
「答えろよ!論理的に!俺にもわかる様に!」
彼が叫んで、その場にいる全員が恐縮したのがわかった。だから「落ち着けよ」と言うしかなかった。
しかし彼は止まらなかった。
「能力が低いのは自分達が自分の能力を高めるのを怠っているせいだろ!それを全て他人のせいにして、恥ずかしいとは思わないのか!
お前達は常識にとらわれ過ぎて、いつも自分の価値観と言う物を見つけようともしない!ただ無駄に日々を過ごしているだけだ!ただ遊んでさえいればそれでいいのだろう!
何の為にここに居る?自分達とは違う人物を蔑む為だけにここに居るのか!」
その時、教師が現れた。
「何を騒いでいる?異端者が居ると聞いたのだが」
その言葉にロウディットは教師を睨みつけた。
まともにその目を見たら怯んでいたかもしれない。しかし教師は彼の目を見ていなかった。ただ業務として、シュヴェアを連れて行こうとした。
それを止めようとするが、他の教師に体を掴まれ動けなかった。
「待てよ!シュヴェアは何もしてない!待てよ!」
そう廊下にロウディットの叫び声しか、聞こえなかった。
そして数日後、シュヴェアは学校を去ることになった。自主退学と言う形で。
ロウディットは最後に見たのは教師に連れられる、シュヴェアの背中だけだった。
最後の別れの挨拶も言わなかったのだった。
そんな彼女が自分の目線の下で、自分を見ている彼女を見つけた。
そして、小さく口を動かした。
「シュヴェア」




