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お迎え、ロマンチックですよね

「ミワ、疲れただろう? 今夜もCPで仕事なんだから、少し休んだ方が良いよ」

「ご主人様、ミワはとても疲れてしまいました。少し休ませていただきたいのですが、ひとりで寝るのは寂しいです」

 家に帰ってきても、まだメイドキャラを続けている。昨日行ったお父さんの墓参り以来、孤独感が増しているのだろうか? 私に甘えようとしているのだろう。

「ひとりで寝た方がゆっくり休めるでしょう?」

「でも、寂しいから……、ご主人様も一緒に寝ていただけませんか? お願いします」

 私はミワの寂しさを少しでも埋めてあげたかった。望み通りにする事にして、ミワと一緒にベッドに入った。

「嬉しいですぅ」

 ミワはそう良いながら私に抱き付いてきた。私もミワの身体を強く抱きしめた。ふたりの唇が触れ合った。

 ミワと私は抱き合ったまま眠りについた。


 夕方、目を覚ますと、ミワは出勤の準備を整えていた。

「おはよう」

 声をかけると、ミワは笑顔を私に向けた。

「そろそろ行かなくちゃならないの」

「筋肉痛になっていない?」

「今のところ大丈夫みたいですけれど、明日はわからないです。今日はお店には来ないのですか?」

「今日はやめておくよ。でも、店が終わる頃に迎えに行きたいと思っているんだ。行っても良いかな?」

 ミワの笑顔が目の前に迫ってきた。私の唇がミワの唇によってふさがれた。

「嬉しい! そう言うのに憧れていたんですよ! 彼が寒い中、コートの襟を立てて彼女の仕事が終わるのをお店の前の暗がりで待っているんです。道行く人達に気付かれない様に待っているの。仕事が終わった彼女は、お店の前で彼を探すんです。キョロキョロと辺りを見回すと、暗がりから彼が現れるんです。彼女は彼に抱きついて、キスをするの。でも、彼の唇も身体もとても冷たくて、それでも彼は平気な顔で『お疲れ様』なんて言うの。彼女は冷たくなった彼の手を両手で温めてあげるの。空にはきれいなお月さまと星達が、ふたりを祝福するように輝いているんです。素敵ですよね。ロマンチックですよね」

「ロマンチックに成るかどうか解らないけれど、店が終わる頃に迎えに行くよ」

「ありがとう。行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 もう一度キスをしてミワを送り出した。



 私はミワが出勤してから、夕飯の準備を始めた。ミワと一緒に食べたかったが、ミワの帰りはまだまだ先だ。とりあえずはひとりで夕食を済ませてから、一昨日買ってきた本を読んで時間を消費した。


 CPの閉店時間に合わせて家を出た。家からCPまでは歩いて十五分ほどかかる。私は暗い夜道を歩いてCPの前に到着した。

 時刻はあと五分で閉店時間になる。しかし、問題はCPがスナックと言う酔客相手の商売だと言う事だ。酔客がなかなか帰らなければ、店を閉めるわけにはいかないだろう。客に楽しく帰ってもらわない事には次が無くなるから仕方がない。

 案の定、閉店時間を過ぎているにも係わらず、店内からは酔客の歌声が聞こえている。


 ミワの構想では人目に付かない暗がりで待つ事になっていたが、CPは川沿いの道路に面している為に、人目に付かない暗がりが無い。そもそも、この時間になると、CPの周辺には人目自体が無かった。

 私はCPの斜め前のガードレールに腰掛けて閉店を待つ事にした。


 待つ時間はとても長く感じるものだ。私は喫茶店で彼女を待っていた若者の事を思い出していた。あの時、彼は二分毎に時計を確認していた。私も同じ様な行動をとってしまいそうだったが、そこは大人の貫禄を見せなくてはと思い、ゆっくりとした動作で煙草に火を点けた。

 煙草の煙を吐きながら夜空を見上げる。そこには満天の星が輝いて……いなかった。夜空はすっかり雲に覆われてしまっている。月すら姿を隠してしまっていた。

 ここでもミワの構想通りにはいかない様だ。ただひとつ、二月の冷たい風が私の唇と身体を冷え切らせて居る事だけはミワの構想の通りに成っている。


 私はスナックCPの扉を眺めながらミワの事を考えていた。今、あの扉の向こう側で、女子高生の制服を着たミワが酔客に笑顔を見せている。

 そんなミワをエロい想像をしながら見詰めている酔客。ミワを口説いているかも知れない。そんな光景が脳内を駆け廻る。

 自分以外の男にミワの制服姿や笑顔を見せたくないと思った。

「どこが大人の貫禄だよ! 女々しい奴だなぁ」

 声に出して自分にツッコミを入れた。いくつに成っても大人に成り切れない様だ。


 三十分くらい待った頃だった。スナックCPの扉が開いて、酔客が出て来た。その後ろからJK制服のミワと初音さんも見送りに出てくる。

 ミワは酔客を見送った後、周囲を見回している。私の姿を探しているのだろう。

 ガードレールに腰掛けている私を確認したミワは、JK制服のミニスカートを風に煽られながら私の前まで駆け寄って来た。

「ハジメさん、すぐに片付けて来るから……、もうちょっとだけ待っていてね」

 私が頷くと、ミワは小走りでCPの店内へと消えて行った。


 再びスナックCPの扉が開き、コート姿のミワが出て来た。

「お疲れ様でした。お先に失礼します」

 ミワは扉の向こう側に声をかけると、私の所まで走って来た。ミワの身体が私にぶつかる。私はミワの身体を抱き止めた。

「お待たせ! ハジメさん、いっぱい待っちゃったでしょう? 今日は最後までお客さんがいたから……」

「待ち人がミワなら、待つのもまた、楽しいよ」

 こんなところで余裕を見せている。さっきまでの虚しい思考はミワに知られたく無かった。

「ハジメさん、見て」

 そう言いながら、ミワは私の前に立って、コートの前を開いた。私の目は点になった。

 なんと、開かれたコートの中には、ミニスカートの制服を着た女子高生が居たのだ。

「早くハジメさんと帰りたかったから、制服のまま帰って来ちゃった」

 私は一瞬の絶句の後、出来る限りの平静を装って言った。

「この前みたいに、パトロール中の警官に見られたら、完全に父娘だと思われるね」

「今夜あの警官に会ったら、制服を見せながら、『妻です!』って言ってやるんだ!」

 ミワは私の腕にしっかりと自分の腕を絡めて、上機嫌で歩き始めた。

 夜中にパトロールをする真面目な警察官が非番である事を私は願った。


 私の願いが通じたのか、幸いにも夜中にパトロールをする真面目な警官に会う事なく帰宅する事ができた。

 何故か部屋に入っても、ミワは着替えようとしなかった。制服のまま、私が用意しておいた夜食を食べ、シャワーを浴びに浴室へ向かった。

 不思議な事に浴室から出て来たミワは、また制服を着ていた。

「ハジメさんと初めて会った日のラブホでミワ、制服を着ていなかったじゃないですかぁ。あの時のハジメさん、ちょっとガッカリしていたでしょう? だから、今日は寝るときまで制服を着ている事にしたの」

 ミワは嬉しそうにターンをした。スカートの裾がはね上がって、足が付け根の辺りまで見えてしまう。私は冷静を装うのに苦労していた。

「制服、シワになっちゃうよ」

 ミワは私の目を覗き込みながイタズラっぽく言った。

「ハジメさん。制服をしわくちゃにする様な事、しようとしているんですか? ミワはそんなことされたら……、そんなことされたら……、嬉しいですぅ」

 そう言いながら、笑顔のミワが抱き付いてきた。





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