話しちゃダメでしたか?
いつの間にか眠っていた様だ。ミワが部屋に入って来た気配で目が覚めた。
「お帰り」
「あっ、ただいま。起こしちゃった? ごめんなさい」
「いや、少しウトウトしていただけだから大丈夫だよ。今日は夕飯を作ったんだ。夜食に少し食べる?」
「食べる! 今日はお店であんまり食べて来なかったからお腹が空いているの」
私は、料理を電子レンジで温めてミワの前に並べた。
「ありがとう。何だかハジメさんが奥さんみたいですね。お昼も夜もご飯を作ってもらっちゃって……」
「ははは、確かに……。今日は暇だったんだ。だからと言って、毎日作ると思うなよ!」
「えー、奥さんは毎日ゴハンを作ってくれるんじゃないんですか? 作ってほしいなぁ」
おもいっきり甘えてくるミワが可愛かった。ミワの為なら何でも出来る気がした。夕飯を作ることも、生き続けることも……。
妻に対して同じ様な感情を持った事が有っただろうか? 妻は何でも出来る女だった。
家事全般も仕事もそつなくこなしていた。子供が生まれて子育てが加わっても、他を犠牲にする事無く器用にこなしていた。
強いて言えば、甘えることは苦手だったのかも知れない。妻が甘えている場面の記憶が無い。私が忘れてしまっただけなのか? それとも、甘えることが無かったのだろうか?
いや、そんなはずはない。特に若い頃には、手をつないだり、腕を組んだりして街を歩いた記憶も有る。かなりラブラブなカップルをしていたのだから、当然甘える事も有ったはずだ。
もしかしたら、私の方が一方的に甘えていただけなのかも知れないけれど……。
「ごちそうさまでした。お腹いっぱいになっちゃった。夜中にこんなに食べたら太っちゃうかもね」
「そうだね。太ったミワなんか見たくないからなぁ。もう夕飯作りはやめておこうかな」
「えー、ハジメさんの作るゴハン、美味しいから毎日食べたいよぉ。毎日作ってよぉ」
ミワはお腹を擦りながら言う。そんなミワが可愛くて、私は毎日夕飯を作ろうと決意していた。
風呂から出てきたミワは、バスタオルを巻いただけの格好で、紙袋の中身をガサガサと物色していた。帰宅した時に持っていた紙袋だ。
「ハジメさん、JK制服とメイド服のどっちが好き? CAとナースも有るよ」
私には何の事かわからなかった。
「えっ、なに?」
「お店で借りて来たの。ハジメさんはどれが好き?」
ミワはJK制服とメイド服を交互に身体の前にあてがっている。私としてはどれでも良かった。
制服に対して異常に想いの強い男もいるらしいが、私には女子高生の制服やナース服などをコレクションしている男の気が知れない。
制服は、中にその制服を着る娘が居て、はじめて魅力を持つ物だと思う。私は中身の無い制服になど、何の興味も持てなかった。
だから、服装よりも、中身がミワであることの方が重要なのだ。
「私にとって、ミワが着ているものならば何でも大好きだよ。たとえそれが着ぐるみだったとしてもね」
ミワがあきれた様な笑顔を見せながら言う。
「もう、真面目に答えて下さい! ママがね、彼氏とか旦那さんのいる娘はどれが男の人受けするか聞いて来てって言うの。ミワには今まで関係無かったけれど、今はハジメさんがいるでしょう。だから、持って来たの」
そう言うことか。状況は理解した。でもそれは、店の人に私とミワが同棲を始めた事を話したと言う事に成るのだろう。そんな事を簡単に話して良いものなのだろうか?
普通の恋人同士ならまだしも、ミワと私の歳の差は三十を超えているのだ。たとえ店の人達でも簡単に認められる様な事ではないだろう。
「私の事を店の人達に話したの?」
「話しちゃダメでしたか?」
「ダメじゃ無いけど、そんな事を話してしまって良いのかなと思って……」
「良いんですよ。ママも彼氏とか出来たら教えてって言っていたし……。それに依って、どのお客さんに付くかとか、お客さんへの対応とかを考えているんだって」
「そうなのか? スナック経営も大変なんだね」
「そうみたいよ。それで、どのコスチュームが好きですか?」
「うーん、ミワにはJK制服が似合うんだけどなぁ。この前店で見ているからなぁ。メイド服が良いかなぁ。CAはなんか違う気がするし、ナース服はちょっとエロ過ぎないか? ナース姿のミワを他の客が見ると思うと、なんだか嫌な気がするなぁ」
「じゃあ、ハジメさんだけの為にナース服着てみるね」
ミワは着替えの為に寝室に消えて行った。『ハジメさんだけの為』などと言われて年甲斐も無くときめいている自分が情けなくもあり、誇らしいくもあった。
ミワが寝室から出てきた。薄いピンク色のナース服のミワにエロさは全くと言って良いほど無かった。
看護服にしては少し開き過ぎた胸元も、短すぎるスカートから伸びる足も、ミワの清純さをアピールする為に有るようだった。まるで看護学校を出たばかりの、初々しい看護師の様でもあった。
「ミワが着るとあまりエロい感じにならないんだな。清楚な感じで、すごく可愛いよ。でも、それを、初音さんだっけ? 彼女が着たらすごいだろうなぁ」
ナース服を着た初音さんを想像してしまった。はちきれそうな胸をナース服が必死で押さえ込もうとする。スカートの裾からは、触れるものを全て弾き返してしまいそうな太ももが……。
「どうせミワには色気が有りませんよーだ! ハジメさんは初音さんみたいな色っぽい人が好きなんですね!」
ミワの怒った様な声で我に返った。
しまった! もしかしたらニヤケ顔に成っていたのかも知れない。何とかミワの機嫌を取らなくてはと思った。
「そんなこと無いよ。私はミワが好きだ!」
慌てた私は反射的にそう叫んでいた。
「ミワもハジメさんが大好き!」
ミワはそう言って抱きついて来た。私もナース姿のミワを抱きしめた。ふたりはそのままベッドに倒れ込んで行った。
ミワのメイド服姿も見たかったが、それは又の機会が有るだろう。




