表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

第5話 「浮かれる男」

 柚木二晴は浮かれていた。


 いつもの二晴なら、マーケティング事業部内をぶらぶらと歩きまわって「進捗はどうなってる?」と声をかけたり、パソコンの前に座って大して意味のない資料作りを指示メールでばら撒いたりする程度だった。


 だが、ここ数日は違った。本社内の各部署に顔を出すだけでなく、ここ数日に至っては「現場を見てくる」と言って毎日のように支店巡りに出かけていった。


 今まで広告を作る為の会議だと言って店長や各店のバイヤーを本社へ呼び寄せることはあっても、自ら現場に足を運んだことなど滅多になかった。そんな彼が、今さら何の目的で各店舗を巡っているのか――と言った空気が部内に広がっていた。しかしその理由はすぐに判明した。


 二晴お気に入りのクリエターの女性が、周り同僚たちに「なんで店舗まわってんのか訊いてみてよ」とつつかれ、「店舗を廻って何か新しいことでも考えているんですか?」と訊いてみたのだ。二晴は事も無げに答えた。


 「親父がいなくなった後、会社のことを背負う身としては現場のことをよく知っておかないといけないだろ」


 二晴のその言葉が伝わると、事業部内の社員達に衝撃が走った。


 「え?どういうこと?みえはるさんが社長になんの?え?一誠さんは?」

 「いやいや、あり得ないでしょ。またみえはるさんの暴走でしょ」

 「もしかして、こないだ三鷹さんが本社に来てたけど、なんか関係ある?」


 驚いた社員達はすぐさま情報収集に走った。すると驚くほど簡単に情報が集まった。なぜなら、当の本人が、他部署で自慢気に自ら語っていたからだ。


 集まった話をまとめると、こういうことだった。まず、社長の誠司が近く社長交代を考えていること。これは既に既定路線とされており、誠司が癌の手術を受けたという話も社内では広まっていたため、社員たちにはむしろ納得のいく話だった。


 次に相続に伴い三十五億円の資金が必要になるという話。そして誠司は、その資金を三人の息子たちにそれぞれ自ら調達させ、その上で「できた者に跡を継がせる」と言っているらしい、ということだった。この点については、金額の大きさに驚く者もいたが、同時に「あの社長らしいよね」という声もあり、概ね受け入れられてた。


 だが、驚きだったのは次の一点だった。二晴が、その資金調達の目途をつけたというのである。しかもその調達先は、あの大手都市銀行の「のぞみ銀行」。そして金利は0.45%という低金利だという。


 二晴は浮かれを突き抜けて高揚していた。

 

 (見たか。いや、見せてやる。これが俺の実力だ。この金利では一誠兄も借り入れることなどできないだろう)


 普段から運転が荒い方だったが、この日はよりアクセルを踏む足に力が入った。各店舗をまわっているのは、ただの視察ではなかった。店長やバイヤー達にそれとなくこの話を流し、誰か実力者で、誰か一番の社長候補なのかを印象づける為だった。


 そういった行為により、一誠や誠司、さらに三鷹に情報が伝わることも画策していた。事前に情報を流すことで、一誠や三鷹を狼狽させ、さらには父・誠司に見直させる気になっていた。

 そして二晴がそこまで強気になった理由が、もう一つあった。冬川が持ってきた好条件の融資を持ってきた際、


 「もし必要でしたら、運転資金としてもう十五億ほど出せるよう準備しております」


 まるで貴方の御用は何でもお聞きしますというような口調で、彼女はさらりと言ったのだ。一誠兄が三十五億円を用意できたとしても、金利は1%程度、低くともせいぜい0.8%が限界でしょう。と、冬川が言っていた。


 三十五億円の金利の勝負になった時、それだけでも俺が有利だが――そこで駄目押しに十五億追加で調達すると言ったら――その時の誠司や一誠の顔を想像すると思わず笑みがこぼれていた。これで親父も俺のことを認めざるを得まい。一誠兄も白旗をあげるだろう。


 三鷹のことは考えもしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ