第18話 「解決編」
のぞみ銀行本店に行くその日の朝、柚木三鷹は自社オフィスで秋葉宗一が迎えに来るのを待っていた。
ここ数日は目の回るような忙しさだった。新しい会社の設立、YUZUNOKIの業務の分類、社内への説明と調整――一誠が積極的に手伝ってくれてはいるが、流石に疲れが溜まっていた。そしてその忙しさがまだまだ続いていくことに少しうんざりしていた。特に、元々部下ではないYUZUNOKIの社員達への説明と説得は、気が重かった。
自分の会社のオフィスに顔を出せたのも久々だった。そのオフィスに出社した三鷹を見て、小鳥遊舞花が「確認して欲しいことが沢山たまってます」とすぐに詰め寄ってきた。三鷹は、小鳥遊の意見を聞きながら幾つかの事案に指示を出して一息ついた時、自分の気持ちが軽くなっていることに気付いた。
(タッキーとの会話は、こんなにも気が軽いものだったのか)
これから会社が大きくなっていくことで、彼女との距離が遠くなっていくことが少し残念だった。だが、始めた以上はもう戻れない。これからは今までのように気楽に経営はできない。やるしかない――そう決意した朝だった。
しばらくして小鳥遊が「秋葉さんが来られました」と秋葉を連れてきた。約束の時間、五分前だった。これから秋葉と一緒にのぞみ銀行本店へ向かうのだ。三鷹は出かける準備をして、ふぅっとため息を吐いた。その様子を見て秋葉は言った。
「珍しく緊張してるんですか?」
「今日は勝負の日だからな」
「今日は勝負の日じゃありませんよ。気楽で大丈夫です」
「勝負の日じゃない?じゃぁ何の日なんだ?」
秋葉は少し考えて答えた。
「そうですね……言うなれば……今日は”解決編”です。さ、行きましょう」
そうして秋葉に促されオフィスを出て行こうとする三鷹の背中に、小鳥遊が手をあげて大きな声をかけた。
「社長!お土産はメゾン・ド・フィナーレのモンブランで!」
自分の仕事じゃないもん感たっぷりの小鳥遊の言葉を聞いて、三鷹は苦笑し、秋葉はふふっと小さく笑った。