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第4話 ヤヌスの門は未だ開かず(4)「勇者パーティーのメンバー集合率がイタリア人並に悪過ぎる件」

 ※前回までのあらすじ

 [オリンダひめ]

 *「よくきたな カイル!

  まっていたぞ▽


  ところで…▽


  ここは ふろば なのだが

  しっていたか?▽」


  はい

 いいえ

  ▷おとこのこ


 *「え…?▽


  そんなっ!

  ひどいっ!▽」


 ※注釈

 *コホルス

 ローマ軍団式歩兵大隊。

 大戦時、アリラハン王国軍は多数の一般市民を兵士として徴用する事となったが、あまりにも数が増え過ぎて既存の軍編成では対処しきれず混乱が生じた。

 そのため、見るに見かねた勇者がローマ軍の編成をそのまま転用したのが始まりである。

 戦後もそのままそのシステムは採用され続け、今に至る。


 *アズライト学院(架空)

 別名、魔法学院とも。

 アリラハン王国内にある学校で、この世界に於けるハーバードの様な存在。

 一定以上の魔法の素質のある有能な者はここに集まり、魔法を学んだり研究したり…と有意義な時間を過ごす。

 学院自体が多数の魔法使いを擁しており軍事的にも政治的にも非常に強大な力を持っている事、各国から国籍に関係無く人材が集まる事などから、アリラハン王国内に存在しながら一種の独立国家の様な様相を呈しており、実際に治外法権が適用される。

 大戦時には貴重な魔法使い供給源として大活躍した。

 戦場では「学院出身の魔法使いは一騎当千!」と崇められたという。

 リアナもここの卒業生である。


 *モンスター(架空)

 読者の皆様のご想像の通り、本作に於ける異世界(以下、人間界)では“モンスター”と呼ばれる生物が多数存在する。

 一部の例外こそあれども人間界に於いては、魔力を有する生物を「モンスター」、有さない生物を「動物」という風に定義している。ただし、その線引きは曖昧である。

 つまり、人間は誰しも程度の差こそあれ魔力を有するため、この世界の定義では人間は動物よりもモンスター側に区分される訳である。

 ただし、この世界の人間はモンスターと比べれば魔力保有量がごく少量である事や、自分達を動物ともモンスターとも違う「人間」という独立した存在として認識している(どこの世界でも人間が傲慢である事には違いない様だ)事から、自分達をモンスターの一種だなんて思ってはいない。

 また、魔界──人間界とは異なったもう一つの異世界である──の生物は同様にモンスターと呼ばれる事もあるが、人間界のものと区別するために特に「魔物」や「魔獣」、魔界に住む人間は「魔族」と呼称される事が多い。


 *フルトン回収

 風船で人を拉致る事。


 ※登場人物紹介

 *カイル・アリラハン・サッカーモンド

 本作主人公。

 本名、坂本 珂依。

 聞き間違えられてカイルとかサッカーモンドになった。

 異世界に転生し、アリラハン王国唯一の勇者として魔王を倒す。

 本作は魔王を倒したその後のお話である。

 アリラハンの名は王から授かった。

 自称21歳だが、それは転生前の話であり、精神年齢的にはもっと歳を食っているし、肉体年齢的にはもう少し若い。


 *ドイツ軍

 本作の真の主人公。勇者のラノベ主人公特有のチート能力に対抗出来るだけのチート主人公補正を有している。

 真の主人公なので、ただの主人公である勇者如きには絶対に負けない事が世界の理によって確定している。

 一時的に追いつめられる事もあるが、それは演出の都合上そう見えるだけであって、最終的には勝つので特に心配は要らない。

 また、第二次世界大戦で負けたのも、それは演出の都合上そう見えるだけであって、既に勝っているので特に心配は要らない。

 好きな軍隊はフランス軍。※ドイツ軍に毎回ボコられるが、何度も懲りずに挑んでくるモブキャラである事が世界の理により確定している。実はドイツ軍に片想いしている。

 嫌いな軍隊はソ連軍。※ドイツ軍が真の主人公である以上、本作に於けるラスボスである事が世界の理により確定している。実はダークサイドに堕ちた父親である事が最終話で判明する。

 そしてアメリカ軍。※ドイツ軍とは因縁のライバルだが、最後は協力して一緒にソ連軍を倒す事が世界の理により確定している。実は血を分けた兄。

 更にイギリス軍。※ドイツ軍をいじめてくる悪の女幹部だが、根は優しい。最終決戦でドイツ軍を庇って死ぬ事が世界の理により確定している。

 同盟軍はイタリア軍。※互いに気付いてはいないが実は両想い。つまり本作のメインヒロインである。しかし最後は闇堕ちしてドイツ軍と戦う事が世界の理により確定している。

 そして日本軍。※大好きなドイツ軍先輩のために役立とうと頑張る後輩キャラ。ずっとドイツ軍が好きだったが、途中から敵であるはずのアメリカ軍が好きになってしまい、照れ隠しでウッカリ真珠湾を攻撃する。最後まで自分の気持ちに正直になれずにいたが、ソ連軍に無理矢理NTRされそうになったところをアメリカ軍に助けてもらい、最終的に結婚する事が世界の理により確定している。


 *エイラ

 カイルとともに住む魔族の少女。ていうかぶっちゃけ魔王の娘。

 何やかんやあって今は勇者と一緒に住んでいる。

 その“何やかんや”に関してはまたいずれ。


 *リアナ・ディア

 元勇者パーティーの魔法使い。

 元々はボインなお姉さんだったがいつの間にか子供になっていた。

 エイラからは「ロリアナちゃん」と呼ばれて小馬鹿にされているが本人はそれが気に食わないご様子。


 *オリンダ

 アリラハン王国第一王女。

 ──だが、男だ。

 それを知っていて周りは敢えて「姫様」とか「姫」とか呼んでいる。

 ちなみにピッチピチの16歳。



「あー、ところで…その子は誰だ?リアナの娘か?」


 オリンダ姫こと、正真正銘の男であるオリンダはいつもの服装に着替え終え、ベッドの上であぐらをかいていた。

 昔は本当に女物のドレスを着て女装していた事さえあったそうだが、今では──多くの男の娘ファンが惜しむ中──普通の男物の服である。

 彼は今更だがリアナについて訊ねてきた。


「リアナはリアナよ」


 それに対してリアナはいつものセリフを返す。


「ロリアナちゃんはロリアナちゃんですよ」


 それに例の如くエイラが付け加える。


「このちびっ子はリアナだぞ」


 …と、一応私も言っておく。

 風呂場では一応使用人が近くにいたので敬語だったが、彼の私室に於いては最早言葉遣いなど気にしない。

 長い付き合いである、これくらいの事は問題無い。


 バックグラウンドでこれまた毎度お馴染みの「ロリアナ言うな!」という声を聞きつつ、私は事情をオリンダに説明する。

 まあ不明点が多過ぎるのだが。


「兎に角、(にわ)かには信じ難いが…あの子はリアナなのだな?」


「そうだな。そういう事になる。これでかつての勇者パーティーの二人が揃った訳だが?他のメンバーは?」


「一応居場所が掴める者にはカイルと同じ様に手紙を送ったのだが、今のところそなたらが最初のお客様だな。遅れてやって来るか、あるいは無視されるか…」


 まあ、うちのパーティー、面倒臭がりが多かったからな。


「だが勇者たる私、それに参謀兼火力担当のリアナがいれば大抵の事は問題あるまい。要件を言ってみろよ」


 わざわざかつての勇者パーティーの皆を呼び出すとなれば、それ相応の事情があるに違いない。

 しかし一方で、私とリアナが揃えば大抵の問題は直ぐに片付いてしまうというのも事実だった。


「うーん…まあ、そうだな。実はな、最近西部で賊が出現して付近の村々が襲われておるのだ」


「賊…?海賊か?」


 王国西部とは、要は海辺だ。

 それなりに商業も発展しているから、海賊が出没する事も珍しくはない。


 何処の国も常として海賊には手を焼いているものだが、その程度の事で勇者を呼び出すとも思えない。

 そもそも海賊がのさばっているのには理由があって、どれだけ退治しても後から後からいくらでも湧いてくるから退治したところでコスパが悪い、というのが最大の理由であり、1つの国家が本気で対処しようとすれば容易に片付くものなのである。

 実際、大抵の場合、小規模な海賊行為で済んでいるうちは目を瞑ってもらえるが、調子に乗ってやんちゃするようになると途端に討伐されてしまう。

 彼らは国家に()()()()()()()存在であると言って良い。


「いや、海賊ではない。報告によれば、謎のモンスターを使って村々を荒らすらしいな。野原にテントを張ったり穴を掘ったりして根城にしているらしいぞ」


 何だ、海賊ではないのか。

 野原に根城を構えるなんて変わった賊だが、海賊でも山賊でもないなら何と呼ぶべきだろう?野賊とか?野盗とか?

 …いや、普通に盗賊かな?


 しかし海賊ではないとすると余計に疑問が湧く。

 海上に逃げられてしまう海賊に比べて、盗賊はそうもいかないから比較的簡単に対処出来る。

 ますます私を呼ぶ必要性が無くなってしまう。


「モンスターを使役していると言ったって、それはあなた達も同じでしょう?別に珍しい事でもないし」


 リアナの言う通りであった。

 王国の正規軍だってモンスターは利用しているし、それはこの世界では珍しくも何ともない事だ。

 田舎のおっちゃんが軽トラを走らせる様な感覚でモンスターを利用している。

 比較的大人しくて育てやすいモンスターはこの世界に於いては謂わば、馬や牛の様な家畜に似た存在なのである。


「勿論私だって最初はそう思ったさ。被害が拡がる前に早めに対処しようと討伐部隊を派遣したのだ。正規軍から精鋭部隊を割いてな。抗魔大戦を生き抜いたベテランどもだぞ?」


「規模は?」


「事前の情報から敵は百人にも満たないと分かっていたからな。念のためにコホルス*を1個派遣した」


 コホルスは一個大隊に相当し、大体約500人ぐらい。

 精鋭部隊で練度も高いなら十分な戦力だと言えるだろう。

 多少大袈裟過ぎる様な気さえするぐらいの規模だ。


「で、その様子だと…やられて逃げ帰って来たのか?」


「否、逃げ帰る事さえ叶わなんだ。斥候に出ていた数人を除いて全員やられたそうだ」


 はあ…これまたビックリ。


「へえ…大した盗賊どもだな。只者ではないな」


「ああ、只者ではない。生き残りの者達の証言では、賊は魔法を使うらしい。それで精鋭部隊でも手も足も出ずに負けてしまった様だ。そしてこれは信じられない話だが…大地を抉る程の高威力の魔法を何度も何度も浴びせてきたのだと」


 大地を抉る程の高威力の魔法…?


「別に普通だろ?」


「普通だよねぇ?」


「普通ですね」


 私とリアナ、エイラの反応にオリンダは頭を抱える。


「あのなぁ…そなたらにとってはそうかもしれぬが、一般人にとってはとんでもない事なのだ!アズライト学院の生徒クラスの魔法使いがごろごろいるって事は!」


「そうなのか?」


「そうなのだっ!」


「そうなの?」


「そうなのっ!」


「そうなんですか?」


「そうなんですっ!」


 まあ、そこら辺は価値観の違いか。


「我々からすれば別に大した事ない様に思えるのだが…君達からすれば一大事なのだな」


「そういう事。一大事なのだよ」


 先の大戦で化け物じみた魔王軍とばかり戦っていたから感覚が麻痺していたが、そうか、そうだよなぁ。


「で、退治してこい、と?」


「そう、退治してこい。不可解な事も多いからな、尋問のために何人かは殺さず捕らえてきて欲しい。現地に今度は二個コホルスを派遣してある。彼らと協力して──まあ、協力など必要無いのだろうが、討伐してくれ給え」


 まるでおつかいだな、こりゃ。


「それと、実際にどれくらい実力があるのか測ってきてくれないか?敢えて直ぐには攻撃せずにどれほどのものか見極めてきて欲しい」


 うわぁ…これまた面倒な事を…

 わざと敵に攻撃させろ、とか…


 何人か生け捕りにして、更に敵の力量を測らねばならないとくれば、リアナのお手軽全体攻撃魔法が使えない。

 リアナの魔法はどれもいちいち攻撃範囲が広いから、結局私が相手する羽目になる。

 本当なら数秒で終わる戦闘をわざと長引かせねばならないとは…


「悪いな、生憎とスカウターは持っていない。実力とか測れない。無理。いや、無理ではないけど嫌だ」


「スカウター…?何だそれは?取り敢えず何でも良いから…頼む。な?勇者であるそなたにしか出来ない仕事なのだ。な?」


 ほら、こういう時だけ勇者勇者って…!


「ご主人様」


「ん?」


 エイラが金の首輪をぽんぽんと指で弾く。

 そしてニコリ。


「面倒なら、私にお任せ下さい。私なら適度に敵を痛めつけつつ生け捕りに出来ますよ?何なら全員。拷問だって得意ですから、その場で一人ずつ…ふふふふ…」


 うわぁ…少なくとも絶対にコイツにはやらせるべきでない事だけはよーく分かる…


「クソ…ああもう、分かった…私がやろう。峰打ちで何人か気絶させて捕虜にしてやるよ。百人には満たないんだろ?」


「頼んだぞ。捕虜は王城まで飛ばしてくれればこちらの方で勝手に回収しておく」


 ご機嫌なオリンダとは対照的に私は憂鬱だった。

 これじゃあまるでフルトン回収*だな。


「ああもう…面倒だなぁ…」


「そう言うな、ちゃんと報酬も用意してあるから」


 これで文句は無いだろう、とでも言わんばかりに彼は胸を張る。


「報酬?」


「妹に会わせてやる」


「要らねえ…」


 一応言っておくが、オリンダの妹は普通に女の子である。

 それだけは言っておく。


 こう見えて私は今や世界的に有名な存在。

 各国から引く手数多、縁談の申し込みは数え切れない程である。

 勇者としての圧倒的な力に加え、国際レベルで人気もあるのだから各国がこぞって私を引き込もうとあの手この手を使ってくる。


 元々私はアリラハン王国から擁立された勇者であるという事や今回の様にオリンダと親しい事もあり、比較的アリラハン王国寄りなのが現状だ。

 その状況を打開すべく、「うちの娘を貰ってくれませんか⁉︎」と何処もかしこも必死な訳である。

 まあモテモテなのである。下心丸見えで打算的過ぎてあまり嬉しくないが。


 そしてそれは少なからずアリラハン王国にも当てはまる事であった。

 オリンダやその父──現国王──は私を取り込もうと再三縁談を申し入れてきていた。

 その相手こそがオリンダの妹、アンティカ姫である。

 何度も言うが、本物の姫。本物の女の子である。


 何度も断っているのだが…アンティカ姫本人も何故か乗り気らしく、なかなかにしつこい。

 ちなみに、オリンダが16歳である事から分かるかと思うが、年齢は今のロリアナちゃんと同じくらいである。

 下手すれば(精神年齢的には)父と娘くらい離れてやがる。


 小学校の教室を覗いたら座っていそうなロリっ娘に婚約を迫られても困るのは当然の事で、オリンダの提示した報酬が報酬どころか罰ゲームに近いのも当然の事であった。


「おつかいの後はちびっ子のお守りか…豪華なディナーくらい招待してくれなきゃ割に合わんぞ」


「じゃあ豪華なディナーにも招待してあげよう。アンティカも同伴だけど」


 ははは…笑えるな…

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