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ドジっ子と痴女の称号を獲得しました

エレナが幸せなことは分かった。

もっと色々聞きたかったが、やっぱり色恋の話となると

恥ずかしがって話してくれない。


ただそれ以外の経緯は話してくれた。

エレナも魔王の花嫁とはならず、

私同様、捨て置かれたようだったが、

部屋は与えられていたようだ。


それに、エレナが嫁いだ時の魔王と、今の魔王は違う。

魔王の方も5年程前に急に代替わりをしている。

戦争も何もなく、ただ静かに。

力が全ての魔界ではそれは

不可解であり、代替わりを知る一部の人間がざわついていたが、

何もなければ良し、と、すぐに収まった。


今の魔王がどんな魔王なのか不明な点が多いが、

私は魔王に殺されずに済みそうだというのは分かった。

だってあの人は確かに私に言った。

『下働き』と。

それは、ここにいてもよいということだ。


花嫁よりも下働きの方が気持ちが楽。





どの世界に身を置こうと、人は労働しなくてはならない。

いやー。働くってタノシイナー。


バシンバシン。

布切れを振り回して天井の埃と蜘蛛の巣をはたく。


朝の厨房。

掃除は上からが基本。

でもはたきも柄の長い箒も無い。

仕方なく布切れの長さをうまく使う。


体調も回復し、晴れてベルは厨房の下働きとして働くこととなった。

朝早く起きて、持ってきていた服から一番動きやすい服を着て、

自室から厨房に出勤する。


布で口を覆って、早速掃除から始める。


ベルは、城の上部にある家政婦用らしい小窓のある小さな部屋を一つ貰った。


特に誰にも許可貰ってないけど。

部屋はたくさん空いているらしく、特に誰にも怒られてはいない。


部屋はガランとしていて、本当に何年も使ってない印象で、

掃除が大変だった。

水場も、ベルの荷物が置いてあった場所も遠い。

最低限の荷物だけ運び、人がギリギリ住める部屋にするだけで

一日かかってしまった。


少しだけケイリーが手伝ってくれた。

彼も忙しいようだったが、大きなものを運んでくれた、

体の小さい彼でも、ベルよりも軽々と荷物を扱った。

それに、移動時に他の魔族と会った時にも助かった。


今はやらなきゃいけないことがあるから頑張れる。

人は、未来に希望があるから生きていける。


あらかた蜘蛛の巣やほこりを取ると、

普段ケイリーが使うのだろう、高めの踏み台が置いてあるので、

それを利用して壁を丁寧に拭く。


それにしたって

きっつ。

腕がつりそう。


今まで姫としてのうのうと暮らしていたのにも関わらず、

なんとか体が動くのは若いからだろう。

若さって素晴らしい。


早い時間って誰も動いてないんだなー。

まぁ、魔族だものねー。夜型だよねー。

なんて思っていると、


「ほう、朝から掃除とは良い心がけじゃ。もう体の方は大丈夫なのか?」


ケイリーが水瓶を持って厨房に入ってきた。


「あ、ケイリー、おはようございます。早いですね。

体はもう大丈夫です。お休みをいただき、

ありがとうございました。」


「よいよい。ふむ。厨房が明るくなったような気がするのう」


「お気付きですか?天井や壁が煤や脂で汚れていたので、綺麗にしています。

まだ掃除の途中ですが、これから厨房を使うのですか?」


「あぁ、魔王様に茶を淹れるだけじゃ。すぐに終わる。」


「朝はお茶をお召し上がりになるのですね。お茶だけですか?」


朝といっても日が上がってからそこそこ時間が経っているが。


「いや、魔王様は茶と、干した果物を2、3つまむ。昼は皆、魚や肉を食べ、

日によっては夜食を出しておる。」


丁寧に説明しながら、スープの鍋を外して、

小さい小鍋に水を入れて沸かす。


飲料水は城内の井戸から直接汲むから清潔だと、エレナから教わっていた。

それ以外は雨水を濾過して貯めた水を使っているとのことだった。


アンステラの城では厨房の火は絶やさずにいたけれど、

魔王城ではいちいち火をつけるようだ。

火打金で不思議と簡単に薪に火が付く。


少しずつ違うところはあるが、食事の仕方は意外と

人間と近いのかもしれない。


人間も、富裕層と平民で食事はだいぶ違うが、

朝は水分と甘くて血糖値が上がるもの。昼の明るいうちに一番たくさん食べる。

一方夜は軽め。


この世界に転生してから、食生活を前世に近づけたかったが、

人の生活は一朝一夕で変えられるものではなかった。

気候風土、歴史、なるべくしてこの世界の今の生活がある。


ふわっとハーブティーの香りが鼻をくすぐる。

懐かしい香りだ。


アンステラでも良くハーブティーを飲んでいた。

前世ではもっぱらお酒かコーヒーを飲んでいたが、今ではこの香りが一番懐かしい。


コポコポと茶葉が鍋の中で踊る。


魔族は知性はあれど、衣食住は必要以上気に留めないイメージだったから、

ここでハーブティーの香りが楽しめると思わなかった。


でも。


ちらっとケイリーを見る。


ケイリーの着ているものは清潔だし、縫い方も綺麗。

顔中のピアスや装飾品はシンプルだがよく見ると細工が見事だった。

ドワーフ族は器用で、ドワーフ族産の装飾品や

革製品等は有名なのでうなずける。


そういえば、魔王の着ているものもしっかりとしたものだったな。


「さて、ベルよ、この茶を魔王様に届けてくれぬか?」


「…………!?」


理解するのに時間がかかった。


「わ、わたくしが魔王にお茶を!?」


「左様。リリは朝から起きられず、今まで朝はわしが部屋へ茶を届けていたが、

おぬしがいるならちょうど良い。

…それにリリがここに来られるのは、もうちょっと先になりそうじゃ。」


「え、わたくしが運んで大丈夫なのですか?」


なんとなく、気がひけるし、魔王に嫌われてるし。心の準備が…!


「何も悪いことがあるか。もともと厨房の女性の仕事じゃ。

茶を置いてくるだけで、何も難しいことはないよ。さぁ、茶が冷めぬうちに。

場所は分かるじゃろ?」


城内の主な場所はエレナに教わったから大丈夫。


「分かりました。これもお仕事……ですものね。」


ケイリーがにっこりと笑う。

うぅ、可愛い顔してゴリ押すなぁ。


ケイリーがトレーにお茶セットと干し果物をのせる。


よし、女は度胸!

トレーを持って魔王の部屋へ向かう。



長い廊下を歩く。

この城は全体的に暗い。


魔王の城だからそういうイメージはあったが、

高い塀と一体型の要塞のような城で、窓も小さく作られていて、

日が入りにくいのが原因だろう。

外はアンステラより暑い気候だが、肌寒さすらある。


昔見たアニメかゲームのイメージなのか、魔王城というと

罠とか、ガーゴイルとかのイメージがあるが、結構シンプルなものだった。


それにしてもリリちゃんはどうしたのだろう。

ラットに襲われてから一度も姿を見ていない。

病気だろうか?


その時ある可能性が浮かんでぞわりとした。


誰かに命じられて、私を密かに監視していたであろうリリちゃん。

でも私は好き勝手して外へ出た。

勝手に下働きと偽った。

これらの私の行動は許されるものだったのだろうか。


もしかしてどこかで罰を受けているのでは?

監禁されているのでは?


リリに指示をした魔族がどんな魔族なのかは知らない。

もしかしたら魔王ということもあり得る。


ドクン

ドクン


あ、駄目だ。やっぱり怖い。

初めにあった時の殺気がよみがえる。

お茶のカップがカチカチと震えて音を出す。


でも、このお茶をちゃんと届けないと。

魔王の寝室はもう目の前。


「待ってたぞ。ん?今日はケイリーじゃなくて、お前か」

立ち止まることも許さずに、寝室のよりもそこそこ手前から

声をかけられる。


あれは確か、黒狼族のクロウリー。

はじめの謁見の時に尻尾を振ってサリク・エイハの反対側にいた男だ。

すっげぇ敵意丸出しだけど。


可愛い顔してんだよなー。。。


「クロウリー様、おはようございます。」

「へぇ、俺の名前知ってんだ。お前、下働きになったんだってな。

もしルカ様に危害を加えようとしてみろ、一瞬で噛砕いてやるからな。」

威嚇したオオカミの様な顔を壁に手をついてぐっと顔を寄せる。


壁ドーーーン!!!


殺気はそれほどなさそうだが、まっすぐの敵意。

でも産まれて初めて壁ドンされて、逆に冷静になった。


こ、これが壁ドンか。ゴクリ。

なかなか迫力があるし、顔近い!


こうやって誰か他の殿方に迫ったりしないものか。


「クロウリー様、おやめくださいませ、お茶がこぼれます。」


「ふん、まぁいいだろう。俺が起こすとルカ様怒るんだよー!早く、早くルカ様起こして!」

そういって尻尾をブンブン揺らしながら、背中を押してドアまで急かせる。


えー。。すごいおバカさんっぽい。

おバカなワンコたん萌える。

っていうかこんな欲望駄々洩れワンコちゃんが側近中の側近で大丈夫なの!?


それに、クロウリーは本当は魔王様のこと名前で呼ぶのね。

初めにあったときは対外的に魔王様と呼んでいたのか。

おいしい。


ドアの目の前までくる。

一つ、深呼吸。

私は私の仕事をする。


ドアをノック

「魔王様、おはようございます。お茶をお持ちいたしました」


少し遅れて返事がある。

「あぁ、入っていい」


もう一つ深呼吸。

「失礼いたします」


少し重さのある両開きドア

開けると目に飛び込んでくるのは、装飾がふんだんにされた

豪華な部屋、鏡、簡単な応接セットに、

アール状の下がり壁の奥に、天蓋の付いた大きなベットがある。


まさに王様の部屋といった感じだが、

ゴテゴテギラギラはせずに意匠のこらした落ち着いた部屋は嫌いじゃない


魔王城についてから初めての部屋らしい部屋に、立ち尽くしていると、

「のろのろするな、早く茶を持ってこい」

部屋の主の不機嫌そうな声が聞こえてきた。


我に返って、あわてて茶を持っていこうとする。


すると、ベットの下にひいてあった絨毯の端に足がとられて-----

スローモーションで宙に浮かんで見える茶器と中に入ったお茶、

「あっ」

まずい!だめ!


そう思うと同時に、体が動く、

宙に浮かびまっすぐ魔王に向かって放物線を描いていた茶器を、

手に持っていたトレーで魔王様の体にぶつかるのを防ぐと

その勢いのままベットの上の魔王様に覆いかぶさる。

茶器からこぼれ出たお茶が体を濡らす。


「熱っ」


じわじわと布に茶がしみこんで暑さがまとわりつく。

かなり熱いけど火傷するほどじゃない。

多分ここに来るまでに時間がたってお茶がだいぶ冷えたのだろう。


っていうか、私はドジっ子か!!なぜこんな時にかぎって……


我に返って目の前を見ると、可愛い乳首。

ベッドの上に軽く上半身を起こして横たわる半裸の少年。

に、覆いかぶさる私。


「きゃぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



ブックマークをしてくれている方は神様かな?

ありがとうございます。

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