サービス回かと問われれば、そうであるような、ないような。
「げ、解せぬ」
ベルはとても戸惑っている。
「どうして、どうしてこんなことに…」
戸惑う心とは裏腹に、いい香りがしてとても暖かくて心地よい。
「温度はちょうど良いか?」
後ろから声がして、風呂の扉が開く。
「は、はい!ちょうど良い温度になっております!」
「そうか」
と、意地の悪そうな声が上から降ってくる。
魔王だ。
顔があげられない。だって、ここはお風呂なんだものー!!
よく物語の中盤である温泉とか海へ行くご褒美回。
早すぎない?アニメとかではあの部分が見えないように
湯気がいい仕事してくれるけど、
現実、そんな濃くて空気読む湯気はねぇよぉ!
うわわわー。BLもので幾多の男の裸のあれやこれやを見てきたけど、
本物は前世の父のモノしか拝んだことないんだから無理だって!
あ、いや、資料と称して、画像とかいろいろ漁ったわ…
「そこに突っ立っているだけじゃ風呂の世話はできぬぞ?」
そうなのだ、時は少し前、魔王に落ちるお茶を回避したと思ったのに、
自分にかかったお茶が魔王様に滴り落ち、
お茶をかかるのを防いだ褒美と、かけた罰というよく分からない
とんでもない理由で魔王の朝湯(昼過ぎ)の世話を命じられたのだ。
サリクはなんだかとても不本意そうにしていたけど。
確かに俯いたままでは、何もできない。
風呂の世話なんて今までしたことないけれど。
ようはお背中を流す感じでおk?
顔を開けると、白い布を肩に軽く掛け、下着も履いている。
ふーーーー。すっぽんぽんじゃなくて良かったーーーー!
セフセフセーーーフ!!!
「お、お背中流しますね。」
風呂桶から湯を肩に少しずつかけていく。
こ、これはっ……!
白い布がお湯で透けてめちゃくちゃエッチじゃん。
健康的に適度に筋肉の付いたしなやかな少年の背中が見える。
鱗や傷も何もないように見える。
背中だけ見ると普通の少年だな。
「もういい」のセリフの代わりに左手をあげ、浴槽に入る。
魔王のお風呂って赤いバラの花びらでも浮かんでいるかと思ったけど、
普通の湯ですね。漫画の見過ぎですね!
「ふー」
と、風呂のへりに腕をのせて、目をつぶって顔をそらせてお湯を堪能している。
その姿は、およそ少年らしくはない。
実際、魔王は何歳なんだろう。魔物は見た目では年齢がわからないし、
しかも、魔王なのだ。見た目の中学生くらいの年齢ではないことは確かだ。
話しかけていいのかな?っていうか、
この後どうすればいいんだろう。
髪の毛とか洗ったほうがいいの?でも角を触った瞬間
激怒されたりする未来も見える。
前世の知識で知ってる。
角とか尻尾とか生えてる種族ってそこ触られるの弱いんでしょ?
「何をそんなに見ているんだ?」
「あ、いえ、見てないですっ」
ごめんなさい、めっちゃ見てました!
「お前も風呂に入りたいのか?」
そういって、魔王は腕を握ると、そのまま力を入れて手を引き、
湯の中に放り込んだ。
!!!?
虚を突かれて、顔から湯の中に突っ込む。
「ゴホッゴホッ……ま、魔王様!?」
魔王ははねたお湯をかぶって、少し長めの黒髪が水で滴っていて、
それをうっとおしそうに手でかき上げている。
少年なのにエロイ。
でも、大人の女性を腕一つで引っ張り入れるなんてかなり力が要るよね。
湯のお世話用のベルの服が水を吸って肌に張り付く。
薄い布が体のラインをなぞる。
ゲゲッ!今度はこっちがエロイことに……。
でも魔王はそんなことは意に介さず
「お前が入ってきたせいで湯がぬるくなったと思わないか?」
えーーー!?何この人!
この状況で一言目それ?
まぁ、確かにお湯がすでにぬるい。
前世でのお風呂ってやっぱり保温効果高かったんだなーって
しみじみ思うな。
「では、お湯を足しますのでお待ちください」
この世界の風呂はあまり熱い湯につかる風習がないかと思っていた。
でもここでは違うらしい。
準備しているときに他の下働き魔族に聞いてびっくりしたが、近くで温泉が湧くので、
そのお湯をいつでも使えるのだそうだ。
お湯を足しにお風呂から出ようとすると、
また手首を魔王につかまれる。
「お前、湯を取りに行かなくてもこの風呂の湯の温度を
あげられるのではないか?」
!
そういうことか。
戯れにしても回りくどい。
ラットのことを殺したときの私の熱の魔法のことを聞いたってことか。
「……できます。それが見たかったのですね。」
「話が早いじゃないか。」
ニヤリと笑って
握っていた腕を外して、再びリラックスした姿勢に戻った。
深呼吸を一つ。
ラットの時とは違う。
力任せに力を放出するわけにはいかない。
このお湯だけに力を使う。
全体でなくてもいい。一部だけを温めれば熱は移っていく。
魔法はイメージ。
火の魔法を習ったときに、前世の知識が逆に邪魔をしてしまった。
燃えるイメージを、と言われて、
燃えるためには基本的に酸素と可燃物。酸素はここにあるとして、
着火源に熱を加える。ん?着火源ってどこ?何?空中に火を出すって
一体どういうこと?ガス…?を作るの???
って頭がこんがらがって、前世で使い慣れている、
電子レンジに着想を得て、水分子を振動させて
摩擦熱を発生させることを思いついた。
今は火の魔法も使るが、
熱を加えるなら、こちらのほうがシンプルだ。
名づけるなら、電子レンジボンバー!?
だっさ()笑
目をつぶって、水を囲うように手を風呂の湯に入れる。
集中して、イメージをする。
本当は魔法を使うとき言葉も動作も必ずしも必要ではない。
でも、イメージをしやすくする為にそれらは使われる。
手の付近の水からコポコポと細かい空気が出る。
よし。もう少し。
熱が伝わりやすくなるために、力を加えながら
物理で手で風呂の湯をゆっくりとかき混ぜる。
「いかがですか?魔王様」
「ふむ。なるほどな。面白そうな能力ではないか。
いや、お前の考え方というべきか……」
独り言のように呟く。
その時風呂の扉の外側から声が聞こえる。
「そろそろ、うちの下働きを返してもらえませんかのう」
え?この声はケイリー?
「なんだ、ケイリーか、ずいぶんこの娘のことを気に入っているじゃないか」
「そこの娘を下働きに、といったのは魔王様の方では?」
「こんな奴が役に立つのか」
「こちらはなぜか人手も無くて猫の手も借りたいくらいじゃからのう。」
ん?何この空気。
料理長のケイリーさん?魔王様に気安すぎではないでしょうか?
なんかピリピリした空気を感じるような。
「ふん、お前、もう行ってもいいぞ、猫の手ぐらいにはなるだろう」
「え、あ、はい。」
ぐ……。猫の手?今のあり様では反論できないけど、
めっっっちゃ悔しい!
これでも王宮では器用で容姿端麗の才女と言わしめたこの私が
(おべっかを使っているのも分かっているが)
猫の手ぐらいですって!!?
そのうちギャフンと言わせてやるんだからね!プンプン!
ベルは悔しい気持ちをぐっと飲みこんで、お風呂場を後にするのだった。
すいません、遅くなりました。




