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29.ブレードリードラゴ

「にゅくしゅさん、起きて」


 俺に馬乗りになったツイッギーが荒い息をついた。


「え、ちょっと、なに。そんな大胆な……隣でタビーが寝てるのに」


「いいから、静かに聞いて。外見て外。すんごいのがいるんす」


 言われた通り恐る恐るテントから顔を出して外を見ると、頭上には月が上がっていた。


「月が綺麗ってこと? 確かに、いい天気だね」


「なにゆってんスか。なんか下れす。下!」


「え……」


 ツイッギーが俺の頭をぐりんと下に向ける。

 その先には何やら巨大な影が見えた。

 俺ははじめ、それを岩壁の一部だと思っていた。しかし、違う。


 黒く透き通った丸いものが二つ並んでいる。

 目だ。

 猫と違って夜中に光ったりしないから、気がつかなかった。


 巨大な目が俺たちを見つめている。

 目まではかなり距離があるように見えるのに、鼻先はもうテントから手を伸ばせば届きそうなほど近くにまで来ている。

 頭だけでも、遊覧船が眼前に迫っているぐらいの迫力がある。

 全身が見えたらいったいどういうことになるのか。


「りゅ、竜だ……」


 竜種。

 エタクリ的には【ジェノの十一眷属】最古の一体(オールドワン)の力を一部食らって己のものにした【ラヒド王】が生んだとされる配下の魔物だ。


 ラノベ的には『竜』は『龍』より下位の存在で、『龍』の字を冠するドラゴンのほうが古来から存在する絶対存在であるように書かれがちだ。

 または、『竜』は西洋竜もしくはまがい物、『龍』は東洋竜もしくはより神に近い存在などと描かれることも多い。

 だが、ちょっと考えればわかることだが、漢字は中国で生まれた文字なのでどっちも東洋竜を表す文字だし、さらに言えば『竜』の字のほうが歴史は古い。

 中国の古代王朝、金の時代のころの書物にすでに確認されている。


 よって、『竜』だからって下位の竜であるとかそんなことはない。

 正真正銘のやべーやつだ。


「どうすんスか? やばいっすょ。ずっと見られてんすけォ」


 ドラゴンなんて、ゲームならお約束の討伐対象。

 だが、実際に目の当たりにしてみたらお約束だなんて思えるはずない。

 こんなものどうあがいたって殺せるわけがないのだ。

 生身の人間が山に勝てるか? とか、そういう話だ。

 つまり、不可能だ。


「どうするって言ったって、こんなんどうしようも……」


「見てくらさい。あれ」


 ツイッギーの指さす闇の中に目を向けると、竜の額と思しきあたりから、光沢のある長い鎌状の部位がゆっくりと伸びてきていた。


「やっぱり。こいつ、ブレードリードラゴか……!」


 当然ながら、俺はこのモンスターを知っていた。

 エタクリに登場するボスの中でもかなり苦戦が必至となるであろうつもりで作ったドラゴンである。

 名前の文字数が10文字以上になると、横幅に合わせるように文字が潰れるので、泣く泣く一文字削られた可哀相なやつだ。

 そんな残念モンスターのはずが、発する威圧感は強烈だった。


 全身から鎌のような刃物が生えていて、その一撃は巨大な岩をも軽々と両断する。

 まだ、こちらに興味を示しているだけのようだが、やつがその気になれば一瞬で俺たちは輪切りになる。


「このテントの、魔物を寄せつけない効果っていつまれっスか?」


「あ、ああ、そうか。魔法陣つきの〈テント〉の中にいるから、攻撃してこないのか。バカだ、ブレードリードラゴの巣の中にテントをはっちゃったんだ」


 そりゃあ、こんな山の中に広い開けた場所があるわけだよ。

 あの巨体がすっぽり寝られるんだから当然だ。


「うちの矢全部、ドラゴンに撃ち尽くしてみまスか?」


「テントの中から? 魔法陣があるから攻撃してこない可能性もあるけど、下手に刺激して怒らせたら一瞬で消し炭だぞ……。テントは一応、日の出までは効果があったはずだから、それまでにどうにかして逃げる算段を立てるか、あいつが狩りにでも出て行ってくれるのを待ったほうが」


「それは無理っすょー。もうそろそろ夜が明けるし。日の出までって、太陽が頭出したときまれれすか? それとも全部出したときれすか?」


「そ、そこまでは分からないよ。どうしよう、どうしよう」


「一発撃ったら、運よく当たり所がよくて一撃で倒せたりとかはない……っすかねぇ」


 何でこの子ったら戦う気満々なの。

 確かに、ブレードリードラゴを倒してもらって、本拠地予定地への道を開いてもらうつもりでついて来てもらったんだけど。

 もっとしっかり準備を終えてから挑むつもりだったし、実際に遭遇したらここまでの迫力だなんて思ってもいなかった。


「……分かった。一発撃ってくれ」


「おけーれす! 一発撃って反対方向に駆けだすんで、その隙ににゅくしゅさんはおチビちゃんたちを連れて逃げて。契約通りしっかりお守りするんれ」


「いや、撃つと言ってもドラゴンにじゃない。あいつの背後の岩壁にだ。みんな一緒に逃げる」


「そんぐらいで逃げられたら苦労はなぃっすね」


「いいから、俺が合図したら撃って。俺に考えがあるんだ。俺はチビたちを起こしてくるね。オフィーリアは……ここにいたか」


 いつの間にか足元にいたオフィーリアが可哀そうなぐらい震えている。

 この震えっぷり、実家で飼っていた犬を思い出す。

 うちの犬は同じ日に産まれた兄弟の中ではいじめられっ子だったらしく、とても気弱で、子犬の頃は怖いことがあると本当にぶるぶる震えていた。

 粗相をして俺に怒られ、高い高いをされた時とか。

 犬は高いところ苦手なんだよね。


「大丈夫だよ。オフィーリア。さ、タビーを起こすの手伝ってくれ」


 しばらく抱きしめてやるが、なかなか震えは止まらない。

 オフィーリアを抱えながら愚図るタビーを揺さぶり、反対の手で抱え起こした。


「まずいれす! 太陽の頭がもう見えて来ました」


「ツイッギー! 矢でドラゴンの気を一瞬そらすんだ! その隙に、〈空飛ぶ四畳半〉で全速力で飛び出して逃げる!」


 あれほどの巨体だ。最高速度はかなりのものだろうが、体を浮き上がらせるための離陸に要する時間はそれなりにかかるのではないか。

 というか、かかってくれ。

 そこにしか生き残れる可能性はない。


「もう、太陽半分くらい出ちゃってますけど!」


 その言葉と同時、ドラゴンが巨大な口を開けた。

 俺は急いで〈空飛ぶ四畳半〉をテントの中に出し、みんなを乗せる。


「今だ!」


 瞬間、凄まじい張力を誇るバリスタの弦が低い音を奏でた。

 矢は朝陽を反射しながら、吸い込まれるようにしてドラゴンの背後へと消えていく。


 竜の背後で岩が崩れる音がして、ほんの一瞬、竜が視線を逸らした。

 その瞬間、俺たちを乗せた〈空飛ぶ四畳半〉はテントを吹き飛ばしてドラゴンの鼻先をかすめ飛んだ。

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