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30.紫封晶

「あ、危なかった……マッド研究者が魔改造してくれてて助かった……俺ですら知らないあんな機能があったとは」


 ブレードリードラゴの額から生えた巨大な鎌が俺たちを〈空飛ぶ四畳半〉ごと両断しようとしたその時、こたつの中から突如黒煙が巻き起こり、さらに急な機動で横へスライドするように動き、鎌の攻撃を回避。

 竜を文字通り煙に巻いた。


「そういや、これに乗っている間はモンスターとエンカウントしない設定だったもんな。この設定がこの世界でどこまで有効かは分からないから過信は禁物だけど、ひとまずは助かったか」


 俺たちはモンタルバートをさらに上へ、頂上に向かって逃げた。


「あのぉ。ここ、どこスかぁ?」


 ツイッギーがギザ歯をぽかんと見せながら、辺りを見回している。


 頂上は巨大なすり鉢状になっており、澄明な水が溜まったカルデラとなっている。

 すり鉢はほとんど断崖絶壁で、傾斜がきつすぎ、〈空飛ぶ四畳半〉で飛び出すのは難しそうだ。

 つまり、俺たちはドラゴンに道をふさがれ、退路を断たれた形になる。


「まぁ、いざとなったら〈芭蕉扇〉があるけどね。あまり使えるってことは知られたくないんだよなぁ。どうも、使えるの珍しいらしいし」


 綺麗な湖を見て、タビーがはしゃぐ。


「きれー! タビー、水あびしていい?」


「チィイ」


 俺が止める間もなく、タビーは服を脱いで湖に飛び込んでいた。

 いつも風呂に入れているので知っているが、背中のくびれあたりから尻尾にかけて柔らかい毛が生えている。


「奥の方は果てしなく深いから、近寄るんじゃないぞ! モンタルバートは火山じゃないし、ここのカルデラは噴火で出来たわけじゃないから爆発の心配はないけど。ツイッギー、二人が奥に行かないように見ていてくれ」


 この湖が俺の思う通りなら、ここは『ガートルード湖』と呼ばれる湖だろう。

 湖底にはある古代遺跡が埋まっている……ことになっている。

 その古代遺跡こそが、俺の探していたものだ。


「色々あったけど、到着したな。ここが目的地のようだ」


「えっ、何、のん気なことゆってんスか。あのドラゴンをどうにかしないと、ウチらここから出られないんすけォ!?」


 ツイッギーがすかさずつっこむ。


「もう、心配性だなぁ」


「え、うちがおかしいっすか!? 違うれしょー!?」


 いざという時には場所移動イベントで逃げることもできるから本当にもう大丈夫なんだけどね。

 ただ、場所移動イベントは……以前一度試しに作ったら、移動距離と一日に運べる人数に比例してポイントを大量に消費するって警告メッセージが出たんだよな。

 だから、早いとこワープ魔法を覚えるか、〈芭蕉扇〉でしのぎたい。


 エタクリのワープ魔法は厳密にはスキルじゃなくて、有名サイト様が配布していたフリーのスクリプト素材で作ったメニュー欄の選択項目なので、多分通常のスキル習得の方法では覚えられないだろう。


 ワープ魔法って、手軽にできるツクレールもあるのかも知れないけど、基本的に多くのツクレールでは他のスキルと違って実装が難しいんだよね。

 ただダメージを与えたり回復したりするスキルと違って、町に行ったことがあるかどうかのフラグも管理しなきゃならないし、町ごとの座標も指定しなきゃいけないから、仕様が特殊なのだ。

 

 エタクリの場合はあるイベントをこなすと、メニュー欄が、つよさ、そうび、どうぐ、わーぷ、みたいな感じになる。

 このスクリプトの機能をオンにするメソッド名を忘れてしまったから、覚えるには魔法都市ミーナマヤまで行ってイベントをこなすしかないはずだ。

 ということで、まだまだ〈芭蕉扇〉一択かな。


「確かに。ドラゴンは倒さないといけないっていうのには、俺も同意だ。ということで、役割分担といこう。ツイッギーはあのドラゴンを倒す。俺はここで古代遺跡を蘇らせる」


「は!? どうにかしないととは言いましたけど! 倒すて!? むりれすって、むりむりむり。あんなのうち一人で!?」


「へーきへーき。ツイッギーならできるって」


「いやいや、むりらから! さっきの道具でどうやって飛んで逃げるか話したいんれすってば。なんすか、古代遺跡って。なんのことすか。遺跡もなにも、湖しかないじゃないれすか、ここ」


「むっ。嘘だと思うなら麓の山小屋にいるお爺さんに聞いてみなよ。この山の頂上、ガートルード湖には古代遺跡が眠っているとされておるって教えてくれるはずだから」


 と、強気で言ったが、実はこの地下に古代遺跡なんてないはず。

 だってまだ、作ってないもんな。

 作ってあるのは道案内キャラのお爺さんのセリフだけ。


 アクターたちはここに古代遺跡の話を聞いて立ち寄り、ブレードリードラゴと遭遇して倒したのち、遺跡に辿り着く。

 そしてそこを本拠地と定める……という予定だったのだ。


 本当は、湖の底から古代遺跡がぐあーっとせりあがってくるシーンも作りたかったが仕方がない。

 すでにせりあがってた状態で作り始めるしかないだろう。


「ここの湖、水平線が見えるくらいでかいだろ。屈斜路カルデラぐらいの広さはあると思うんだよね。魚も豊富に獲れるだろうし、パンクラツを囲む穀倉地帯の3倍から4倍くらいはあるだろうから、一石一反300坪で計算しても湖の半分ぐらいが陸地になれば、パンクラツ周辺に住んでる3万人ぐらいは養えると思うんだ」


「えっと、どっか打ちました? 頭とか」


「打ってないし。失礼なやっちゃな。まぁ、というわけだから、俺はここの調査を始めたいから、ドラゴンのほうは任せる。……ほらこれ。飲んでおきな。1レベルごとに五つしか使えないし、間に別のを挟まないで同じ種類のを飲み続けると効果が薄れてくるけど」


 俺は『神の御手(アイテムストレージ)』から事前に用意しておいたアイテムを出した。

〈勇者の丸薬〉〈豪腕の丸薬〉×2〈鉄壁の丸薬〉〈巧手の丸薬〉である。

 それぞれHPと、筋力強靭器用をドーピングできるアイテムだ。

 最初と最後に〈豪腕の丸薬〉を飲めば、効果の減衰を最小限に抑えられるはず。


「なんか……、にゅくしゅさんと話してるとすごく疲れるんれすけど……。昨日、うちに修行をつけるって言ってたの、あれはどうなったんれすか?」


「もちろん、忘れてない。っていうか、まずは俺と修行をしてもらわないと、おそらくドラゴンには勝てないからね。別行動する前に、先に俺が修行をつけてあげる」


 俺は丸薬をツイッギーのほうに放ると、さらにもう一つアイテムを『神の御手』から取り出した。

 巨大な宝石が中央に一つ輝く、銀製のネックレスである。


「ほら、これ」


「ほああぁーーっ! きれいっすね、これ! 見してもらってもいいれすか?」


 ツイッギーはどでかい紫色の宝石に釘付けになった。

 内部にオーロラを秘めたように複雑にきらめく美しい石はきっとツイッギーにも似合うに違いない。


「いいもなにも、あげるよ。君のものだ」


「えっ、こんな高そうなもの!? いいんれすか?! 返せって言ったって返しませんよ!? って、うそうそ。もらえませんってば」


「いや、もらってもらわないと困る。ブレードリードラゴを倒すのに必須級のアイテムなんだから」


「へぇ。これ、なんかの魔法のアイテムなんですか? よく言いますよね、上位ランクの傭兵は強化の魔法が秘められたアクセサリーを持ってるって。うち、矢の補充でかつかつで、そんな高価なもの初めて見ました」


「魔法は入ってない。というかむしろ、何も魔法的処理もされていないサラの魔晶石として、最高純度の石――それが〈紫封晶〉なんだけどね。だからこそ、君にもらってほしい」


「魔法が入ってない? のに、ドラゴンを倒すのに必須のアイテムなんれすか? なんかちょっと意味わかんない……っすけど」


「ま、石には魔法はかかってなくても、石以外のペンダントトップには、あるスキルが装備可能になる魔法がかかっているのさ。とにかく受け取ってよ」


「うーん、なんかよく分からないけど、あのドラゴンを倒すまでということならお預かりします。ありがとごじゃます!」


 そう言って勢いよく頭を下げたツイッギーは、心なしか嬉しそうにネックレスを首にかけた。

 やっぱりこういうとこは女の子なのかも。


「じゃ、修行を始めようか。一刻も早くそのアイテムに秘められたスキルを装備してもらわないと。俺が今からスキルを君に打ち込んでいくから、一切避けず、防御もせずに、ただ技を“見切る”ことだけに集中して受け続けてくれ」


「あ~、なるほど。修行ってイメージ修行のことらったんすね。でも、せっかくだからうちもやり返したいすね~。どんな修行をつけてくれるのか楽しみだったんれ」


「だめだめ。やり返したりとかせず、ただただ耐えてくれ。そうじゃないと正確なイメージが出来ないはず」


「ズルいっす! やり返させてくらさい、にゅくしゅさん。手加減するんれ」


「だめだって」


 ツイッギーがむくれた。

 だが、今からツイッギーに覚えてもらおうと思っているスキルは、攻撃や防御などの全行動を捨てる代わりに、ある一つの行為に集中するスキルだ。

 ここから先は彼女にとってつらい修行になるかも知れないが、耐えてもらわなければならない。

 スキルのオンオフが、神殿かイメージ修行でしか出来ないというこの世界特有の設定のせいなので、文句ならば女神に言ってほしい。


「じゃ、行くぞ」


「ま、とはいっても、レベル1れすもんね。どんな技で来ても簡単に――」


 と、のほほんと構えるツイッギーに向かって、


「ふふ。焼け死んでも、恨んだりするなよ?」


 俺は口から、巨大な炎を吹いた。

異世界ツクレール、お楽しみいただけたでしょうか


公募に応募する原稿に集中するため、ここから先は不定期更新となります

中途半端なところで毎日更新が途絶えてしまって申し訳ないのですが、

今後も随時更新していくので気長にお待ちください

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