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45 待つ者の不安


 いつもなら5分と経たずに帰ってくるヤトが帰ってこないため、ソワソワとし始めるカイト。

 サーバーが違うために、フレンドの項目もログアウトの文字になっていて現状を確認する術はない。

 マリシアスゲームのウインドウを開くと、帰ってきていないのはヤトのみとなっている。


「…遅い。遅いな…」


 ジッとしていられないカイト。

 すると、ホームの呼び鈴が鳴り出す。

 慌てて扉の前に立つと、開かれたウインドウにはマリシャが映っていた。


 入室の許可を出すとマリシャがホームに転移してくる。

 転移して第一声は、「ヤトは?」だった。


「それがまだ戻ってこないんだ…いつもならもう戻ってきている頃なのに」


「…そう。BJも心配して見回りを後回しにしてここに来ようとしてたから、1人で私が見てくるって急いで来たんだけど」


「どうしようマリシャ――」


「大丈夫。ヤトはちゃんと帰ってくるわ」


 マリシャはカイトの手を握ってそう言う。

 しかし、マリシャの手もカイトが驚くほどに冷たくなっていた。


 VRでの体温の低下は、気温よりも感情から再現されることが多く。一番体温が低くなるのが"不安"である。

 マリシャも不安なのだと知ったカイトは深呼吸して手をギュッと握った。


「ヤトは必ず帰ってくる!」


「そう、帰ってくるわ」


 そして2人でヤトの帰りを待つ。

 マリシャが来てから数分後にヤトが転移して現れると二人の顔を見て、「どうした?」といつものように眉を顰めた。

 そんなヤトを見てカイトとマリシャは大きく安堵する。



 その後、帰るのが遅くなった理由をヤトから聞いた2人は再び不安を露にする。


「まさか、ジョーカーがヤトのところに直接現れるなんて…」


「むしろ今までヤトに気が付かなかったのが運がよかったってことね」


 2人に挟まれてソファーに座るヤトは、"狭いな"と思いながら黙っている。

 しばらくすると、再びホームの呼び鈴が鳴り響く。

 カイトが扉に近づきウインドウを操作すると転移してきたのはBJだった。


「お!帰ってきたか!心配させやがって!」


「なんだよBJ。"心配"って、ちょっと遅くなっただけだろ」


「いつも数分で帰ってくる奴が20分以上帰ってこなかったらそりゃ焦るぜ!ったく…とにかくよかった~」

 BJはそう言うとその場に座り込んだ。


「しっかし、ヤト坊をそこまでてこずらせたのはどんな野郎だったんだ?」


「ジョーカーだよ」


「へ~ジョーカー!……ジョーカーね――。………!って!あのピエロ野郎か!…よくかって帰ったな~そりゃ」

 立ち上がったBJが、「で、ヤロー何しやがったんだ?」とヤトに聞く。


「物干し竿で100人のプレイヤーと戦わされた」


「…なんだそりゃ?」


「まー大したことにはならなかったってことだ。だが、今後途轍もない事を仕掛けられないとも限らないけどな」


 そう言ったヤトに、「ボクは心配だよ」とカイトが言い。マリシャも口に出さないが不安げにヤトを見つめる。

 それを見るBJは頭を掻いて、「なんにせよ、無事帰ってきてよかったぜ!」と笑顔を浮かべた。



 図らずもBJとマリシャが2人して尋ねてきたために、ヤトは例の報酬の話をする。


「ところで…このゲームの報酬についてなんだが――」


 その言葉に、「どうしたんだ?何か問題が起きたのか?」とBJは眉を顰める。

 ヤトがジョーカーと会ったばかりだったために、BJは色々と嫌な予感をめぐらした。


「いや、そういうわけじゃなく。報酬に関しての順番は変わらないんだが、"30分間の選択時間"を与えて"自分で選べる"ようにしたいんだ…」


「30分……それは子どもらにも自分で選ばせるのか?」


「ああ。1人1人自分で選択する機会があってもいいと思うんだ」


「それは――確かにそうかもしれねー。だがなヤト坊…俺は、子どもたちには帰ってからでも、"迷ったり悩んだり"ってのは遅くないと思うんだ」


「……"遅くない"――か」

 ヤトはその言葉に目を瞑る。

 若いから人生の先が長い。それが当然と思えないのはヤトがリアリストだからか。それとも、ネガティブ思考だからか。


「俺は、子どもといえど"先が長いから"なんて簡単には言えない。子どもだから"悩みがない"とか、子どもだから"時間"があるとか、"子どもだから"ってだけで判断する。それは、子どもにとってプラスになるとは限らないと俺は思う」


 ヤトには、どうしても"子ども"という枠に人を当てはめたり、言葉で人にレッテルを貼るが好きになれないのだ。

 BJは無精ひげを擦りながら少し沈黙する。

 そして、ヤトの目を見て「それでいいんだな」と言うBJ。ヤトが頷くと、「よし!分かった!」と言って"だが"と続ける。


「30分じゃなくて、明日、子どもには言って伝えておくぞ。そうじゃないと俺は納得できねー」


「…分かった」


 BJとヤトが話し終えると、マリシャが「でも」と言う。


「それって…報酬に信憑性が欠けてるよね。デスゲームを仕掛けるような相手だし…」


「………」


「……」


 沈黙するヤトとBJ。

 マリシャの言うことは的を射ていた。

 報酬が確実なものだと決め付けるには早い。しかも、時間の選択があるのかも分からない。


「ど、どっちにしてもその可能性はなくはない。だろ?BJ――」


「…そ、そうだな。可能性はなくはないな…」


 顔を合わせたヤトとBJは互いの意見をフォローしあう。

 少し微妙な空気になった後、この話は終了した。


 そして、警戒していたMALICIOUS(マリシアス) GAME(ゲーム)の難易度も、午後からは以前と同じ1対1に戻りジョーカーも現れなかった。

 だからと言って安心できるわけではない。

 ヤトに再びジョーカーの魔の手が伸びるかもしれないとカイトは心配するのだった。


 そのカイトの心配は、すでに動き始めたジョーカーの第二幕によって現実のものとなる。

 ジョーカーは、ヤトの刺客となる者たちに"依頼"を出していた。

 高額の報酬に釣られてやってくるその者たちとは、FDVRMMOのプロプレイヤーたち。


 その中の1人は、かつてYATOというプレイヤーネームに屈辱を味わわせられた男。

 アメリカのVRMMOプロプレイヤーのクラーク。

 彼は"C"という通り名を持ち、世界で2番目にVRMMOで賞金額を稼いだ男だ。


 5月半ば。再現された雨が降る中、ヤトは再びジョーカーの待つフィールドへと強制転移させられる。

 

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