41 思考の輪舞曲
37回目のMALICIOUS GAME。
転送されたヤトは、ゲームが始まるまでのカウントダウンを目の前に思考していた。
KJは悪なのか?クラウはどうだった?クラウの言い分は分からなくもない。
戦った者の想いなどは、想いを向けられた側にとっては知らないことだ。
しかし、折角戦ったのに「死んでしまってバカでしたね」では彼らが不憫だ。
けど、人とはそういうものだ。
どんな想いを向けられても、そんなものは向けた側のかってでしかない。
どちらの側も悪くない。
だが、なら"悪"とはなんだろうか?人を殺すから悪というなら、自衛で人を殺したら悪なのか?
もし、それが悪とするなら基準はどこにある?
こんな思考を何度繰り返してきたのか。自問自答で得られる回答は最善か否か。
回答なんて人の数、迷いの数だけあるだろう。
ヤトはそんなことを考えながら視界の数字が0になるのを待った。
彼にとってこの思考は何千回としてきたことだ。
答えのない式に永遠向き合う数学者。
人によっては愚かと思うかもしれない。が、それを避けれらない人間もいるのだ。
視界に広がった戦闘フィールドは見たこともない街中だった。
「ここは…どこだ――」
街並みはシトリーに似ているがどこかが違う。
そして、白いエフェクトを放って対戦相手が転移してくる。
男の姿。作りこんだアバターに不敵な笑み。
「始まったね…これがBCOかー」
仕草からおそらくは子ども。ヤトと同じくらいかそれよりも若い。
しかし、外見は大人に見える。
「ねーねー、ここであんたを倒したら…現実でも死ぬって本当?」
「……」
「あーそうだったそうだった。あんたより、僕の方が詳しいんだよね~それに関しては――」
ヤトは、語るに任せてそのプレイヤーに返答もしないで聞いている。
「ねー聞いてる?…ラグっちゃってんの~?まーいいや"本当に人が殺せる"なんてリアルなゲームもあったもんだね」
その言葉にヤトは反応した。
「…お前日本人なのか?」
「だったら何?」
「VRCDを知っているか?」
「VRCD?何それ~」
ヤトは右手を突き出してブツブツと呟いた。
そして黒く光る剣がその姿を現す。
「え~何それ~変な剣~。レアなアイテムなのかな~"俺TUEEEEEE"ってやつ?」
その言葉にヤトは語る。
「この剣は斬るだけで相手をログアウトさせることができる」
「…何それ――チートじゃん!あんたチーターかよ!」
「相手をログアウトさせると同時に日本のVRCDのシステムが起動して斬った相手のIPアドレスから住所を特定する」
「……は?住所を特定?」
「特定した住所をVRCDは警察庁サイバー犯罪対策課に提供して犯罪者として取り締まる」
「え?じゃ…それに斬られたら僕の家に警察が来るの?」
「そういうことだ」
「やばいやばいよ~………なんてね~!今僕がいるのはネカフェ~!この後すぐに逃げれば住所なんて分かるわけないよ」
「……知らないらしいから教えておいてやろう。ネットカフェを利用して接続したとしても、HMCからお前の住所を割り出して警察が向かうだろうさ」
「……嘘、やばいじゃん」
男は慌てて右手を下に振る。しかし、思惑と違いそれは現れない。
「くそ!左か!」
もう一度左手を振った男は今度こそと笑みを浮かべた。
「よし、このままログアウト――」
そこに男の求める物はなかった。
「あ…これ~どうしよう…でもま~警察に捕まっても"少年法"で護られるからいいか」
頭を抱えてしゃがみ込むと男はそう言う。
「確かにVR犯罪に少年法は適応される。だが、罰則で携帯端末、HMCの所持を禁じられて、成人後に再逮捕されれば刑罰は免れない」
「わ~マジか~ま~しかたないよね~」
「後は警察にでも話をするんだな――」
ヤトは黒い剣を男に向ける。
「ところで、罪状って何かな?殺人未遂?VR法違反?」
「……さーな」
罪状をヤトに聞いたところで彼がそれを決めている訳ではない。
黒い剣に貫かれる寸前に男は、「あ~でも黙秘してればなんとかなりそうなきがするな~」と笑っていた。
アバターが倒れてその上にログアウトの文字が浮かぶ。
黒い剣が消えて、戦いに勝利したヤトは立ち尽くす。
自身の頬に伝うものに気が付き、それを手に取る。
「………泣いているのか――」
VRで涙は我慢できない。悲しいとそれをシステムが表現するのがこの世界での常識。
ヤトが涙を流したのは、初恋のAIが壊された時と、次に恋をした相手助けた時だけ。どちらもリアルでだ。
VRの中で彼が泣いたのはこの瞬間が初めて。
「どうして泣いているんだ…」
しかし、何故自分が泣いているのかそれが理解できなかった。
彼がそれを理解できるまでにはまだしばらく時間を要する。
そうして戦いを終えたヤト。その戦いをジョーカーが見ていたとは思いもしない。
そして、彼は再び元いた場所へと強制的に転移させられるのだった。




