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42 ヤトの選択


 ヤトがもう一度始まりし街の傍に転移すると、そこにはBJとマリシャが待機していた。


「ヤト坊!」


 BJはすぐに駆け寄ってヤトの両肩を掴む。


「…大丈夫か?」


「ああ、問題ない…待っていたのか?」


「当たり前だろ。あんなことがあった後だからな…心配したぜ」


「そうか、すまない」


「ん?ヤト…何かあったのか?」


「…別に――なんでもない」


 BJの後ろに立っていたマリシャも心配そうな顔をして声をかける。


「カイトちゃんは危ないから、先にホームへ返したわ」


「…正しい判断だ。この辺でもまれにLv40のモンスターが沸くこともあるからな…」


「ヤト?本当に大丈夫なの…」


 手をヤトの顔へと伸ばすマリシャ。

 その腕を掴んだヤトは、「大丈夫、問題ない」と言って始まりし街へ歩き出す。


 そんな彼の背中をBJとマリシャは心配そうに見つめた。



 カイトのホーム前で2人と別れ、心配して待っていたカイトに出迎えられるヤト。

 "大丈夫?"と尋ねられれば、"大丈夫だ"と答える彼にカイトは違和感を覚えた。


 ヤトと分かれたBJは始まりし街のファミリアのギルド本部へと帰る。

 マリシャもその後に続く。

 2人は互いに椅子に座って溜め息を吐き、その日のことを思い出す。


「…オーダーの奴らの憤りは分かるけどな……だからって人が人を裁くのは違うだろ――」


「――私は…分からないわ。彼らの憤りは当然だって思うし、人が人を裁くのは決して間違いじゃないと思う」

 マリシャの言葉にBJは頭を掻く。


「なら、人が人を殺してもいいってのか?」

 首を振ったマリシャは、「違うわBJ」と否定して言う。

 

「人が人を裁くのは普通なの。でも、今回はその方法が強引だっただけ」


「方法?ならどうすればよかったんだ?どうなったら今回の件を防げたんだ?」


「…どうして今回みたいなことが起こったのか。その原因を考えてみて――」


「原因…それは、あの捕まっていた連中があんなこと言わなければ、こんなことにはなってなかっただろうな」


「そして、彼らがあんなことを言ったのはどうして?」

 マリシャの問いにBJは足を揺らす。


「あいつらがあんなことを言った理由?それはBCOから生還できる安堵からかもな」


「そう、つまりは彼らがこのBCOに囚われていなければ今回こんなことは起こらなかった。本をただせば、そういうことになるのよ」


「そもそもBCOに囚われていなければ今回の件は起こらなかったってか……。でも、それは"たられば"の問題だろ」

 腕をくんだBJはイライラしているのが一目で分かる。


「BCOに囚われなけ"れば"。攻略組みが死んでなかっ"たら"―――」


「そんなのもう起こっちまってることに目を背けているだけじゃねーか。BCOに囚われたからこうなったじゃ納得できねー!」


「それは…BJが強いからだよ」

 マリシャの言葉にBJは、「わりー。別にマリシャに怒鳴ったわけじゃねーんだ」と謝った。


「いいの。分かってるわ」

 そう言ったマリシャにBJは少し見とれて頬を赤く染める。が、すぐに立ち上がり拳を上に上げた。


「ダー!悩むのはなしだ!俺は今やるべきことをやる!がんばってるヤトだけに全てを背負わせやしねー!間違ったこと言うやつには頭殴って説教だ!!」

 BJのその言葉にマリシャは笑顔を浮かべて、「体罰はいかがなものかと思いますが?ギルマス」と言う。


「愛のパンチだよ!殴って分からない奴にはキスしてやる!」


「フフ、それじゃーセクハラになるわよ」


「なら、一緒にスクランブル交差点で通行人に挨拶させてやる!」


「BCOを出れたらね~。多分、通行人の邪魔だって怒られちゃうだろうけどね」

 マリシャが笑顔で笑っているのを確認したBJは、「どうだ、これから夕飯ゆうめしでも。奢るぜ」と言う。


「そうね、BJの奢りで皆で夕飯ゆうはんにしましょうか」

 その言葉で戸の開いた部屋の外からファミリアのギルドメンバーが現れた。


「…オツイチ――お前らもいたのかよ」


「BJさんの奢りだ~」「ゴチで~す」「俺、ビゼンの牛串が食いたいです!」


 男たちがそう言うとBJは自身の胸を弱弱しく叩いて、「男BJに二言はね~」と言うと肩をガクっと落とした。



 BJとマリシャがファミリアのメンバー全員で夕飯を食べていた頃。

 ヤトとカイトは夕飯の準備をしていた。

 薄手のシャツを腕捲りして、ヤトは食器棚の前でウロウロしている。


「ヤト、淵が青いお皿取って――」


「この大きいのでいいか?」


「ううん、違うよ~それじゃ鯛の尾頭付きの刺身が載せられちゃうよ~」


「ああ、こっちのか」


「ありがとー」


 カイトは手際よく料理用アイテムを使って、調理したおかずを盛る。


「はーい!なんだか分からないお魚の煮付け完成!よくわからない副菜と汁物も後は入れれば全部完成だよ」

 エプロン姿の彼女はそれを外そうと腕を後ろに持っていく。


「………カイトは――いいお嫁さんになるな」

 突然ヤトがそう呟くとカイトは顔を真っ赤にして両手を振る。


「なななな何をい、言っているのかな!いいお嫁さんなんて柄じゃないよ~」


「いいや、向いているよ…普通に家庭を持って、いい旦那さんや沢山の子どもに恵まれて、幸せな家庭を築ける…」


「ヤト?どうしたの?……何か変だよ――」


「いや、折角作ったご飯をロストしたら勿体ない。早く食べよう」


「う、うん…」


 様子のおかしいヤトにカイトは心配を懐く。

 食事中も普通に会話してカイトの作った夕飯を全て平らげたヤト。

 食器を片付けると彼はカイトに、「話がある」と言って寝室に呼び出した。


「寝室で話って…緊張するな~」

 カイトは独り言でそう言うと、意を決して部屋に入った。


 部屋に入るとヤトが目を閉じて正座で床に座っていた。

 咳払いしたカイトはヤトの目の前に正座する。


「…………」


「…………」


「……ヤト?」


「…………」


 しばらく沈黙していたヤトは、目を開いてカイトに話し出す。

 カイトは密かにソワソワして話を聞く準備をした。


「これはカイトだけに話すことだけど…」


「…この前の話?」


「いや、この前の話はアレで終わりだ。今日話すのはMALICIOUS(マリシアス) GAME(ゲーム)の報酬に関してだ」


「それって、帰還させる人のこと?」

 頷いたヤトは言う。


「帰還する人を子ども、非戦闘員、女性プレイヤー、非テスター、テスターの順に"30分間の選択時間を与えて自分で選べる"ようにしたいんだ」


「…この世界に残るのか、帰るのかを個人に任せるってこと?でも、それって返りたがらない人なんているのかな」


「俺は残るつもりだ。BJも多分残るだろうな。マリシャやナナだってその選択をする可能性が高い」


「じゃ、ボクも残るよ――」

 ヤトはカイトの言葉に首を横に振る。


「約束しただろ?カイトは帰るって…」


「ずるいよ…あんな約束させて!皆は残るなんて――」


 目を潤ませるカイトがヤトとした約束は分からない。しかし、彼女がその約束を守ることをヤトは知っていた。

 知っていたからこそ、ヤトはカイトを強く抱きしめて言う。


「きっと、皆が帰ることができる。カイトは先に帰って待っていて欲しいんだ…俺やBJやマリシャやナナ。他のプレイヤーが帰るのを――」

 カイトはヤトの体を強く抱きしめて、顔を胸に埋める。


「ずるいよ。ヤトはボクが断れないって知ってたからあんな約束させたんだ。ずるい、ずるいよ――」


 とうとう泣き出したカイトにヤトは、「すまない」と何度も繰り返し囁いて頭を撫でた。


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