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異世界の生き物図鑑  作者: 大きなお家
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トリモドキ

トリモドキ

 体長は十五センチから五メートル程だが、ほとんどの個体は一メートルに満たない。鳥に似た外殻を持つ生物で本体は外殻の中に潜む触手であり、一応虫に分類されているが誰も調べたくないので本当に虫なのかはわからない。主に森に生息している。

 トリモドキの擬態能力は非常に高く、体臭や質感なども本物の鳥と変わることはない。個体によって擬態する鳥は千差万別であるが、飛ぶことはできないので移動には触手を用いる。触手を使い、木から木へ飛び移る姿が目撃されているが、この光景は見る者に恐怖を与え、多くの人々にトラウマを残している。

 鳥に擬態した外殻を利用し、獲物の鳥が近付いてくるのを待ち、近くに来た瞬間外殻を開き本体の触手で獲物を外殻の中に引きずり込んで捕食する。トリモドキの外殻は前面部分が正中線に沿って前面が開くようになっているのだ。個体によっては派手な見た目の雄に擬態し、求愛行動のふりをしてメスを引き寄せるモノも存在する。

 トリモドキはその捕食風景の気持ち悪さから多くの人々に恐怖を与えている。そのせいかヒトモドキという魔獣になるという噂もあるが、ヒトモドキの存在は確認されていないため、信憑性はないと思われる。だが、それを恐れてトリモドキを発見すると倒そうとする人間が多い。





 

 オレの名はジョニー、鮮やかな青色の翼と小柄でキュートなボディが自慢のトリモドキだ。トリモドキってのは人間が名付けたみてぇだがオレはこのモドキってのが気に入らねぇ。何でこのオレが偽物扱いされなくちゃならねえんだ?

 別に鳥より上の扱いをしろと言ってる訳じゃねぇ。オレ達と奴らは対等な関係だ。傍から見りゃあ、オレ達が鳥を一方的に餌にしているように見えるかもしれねえがそんなことはねぇ。この森は弱肉強食、逆にオレ達が鳥に食われちまうことだってある。とくに、体の小せぇ奴の多いオレ達にとってでけぇ鳥は天敵みてぇなもんだ。

 中でもひでぇのはオオカラスの奴らだ。認めたくはねぇが奴らはオレ達のことが大好きらしい。食料的な意味でだ。

 オレ達は見た目は鳥でも飛ぶことはできねぇ。奴らはそれを利用して、オレ達を掴んで空高くから落としやがるんだ。本物の鳥ならその時点で助かるが、オレ達はどうしようもねぇ。しかもご丁寧に落とす場所は岩場を選びやがる。オレ達はクルミじゃねぇんだぞ!?

 オレ達だって必死に生きてるってのに人間どもはやれトリモドキだの、気持ち悪いだの、パカッと割れて怖いだのと言ってオレ達を馬鹿にしやがる。

 挙句の果てにはオレ達が魔獣になるとニンゲンモドキになるなんて迷信を信じてオレ達を殺そうとしやがるんだ。言っておくが、オレは今まで人間を食ったことはねぇぞ? 

 むしろ鳥と勘違いした人間に喰われそうになったことがあるくらいだ。オレともあろうもんが情けねぇことに人間の罠に捕まっちまったんだ。

 オレを罠にはめやがったのは騎士とかいう連中の一人だ。だがあの小僧は油断した。仲間に自慢しようとしたんだろうさ。オレを罠から外すと足を持って宙づりにしやがった。屈辱的な態勢だが、チャンス到来だ。

 その瞬間、オレは正体を晒した。鳥に似た外殻を開いて、触手で奴の顔を雁字搦めにしてやったのさ。オレの真の姿に恐怖した奴はそのまま白目をむいて失神した。へっ、ざまぁねえぜ。

 だがオレものんきにこの場にいることはできねぇ。奴の仲間がすぐに近寄ってきたからな。オレは急いでその場を離脱した。オレ達は飛ぶことはできねぇが、触手を使って素早く移動できるのさ。このときも奴らから華麗に逃げ切ってやったぜ。  

 



 ある日、オレはのんびりと獲物がやって来るのを待っていた。オレの狩りは仲間内でもスマートなことで有名だ。この甘いマスクでメスを引きよせ、油断したところを喰っちまうのさ。オレにかかりゃぁ獲物の方からこっちに近寄って来る。

 だが、俺にもかみさんとガキがいるからな。一人なら喰う分には困らねぇが家族を養わなきゃならねぇからがんばらねぇといけねぇ。 

 だってのに、かみさんはオレの狩りのやり方が気に入らねぇらしい。まあ、気持ちはわかるさ。種族は違っても同じ雌だ。オレにそんな気は欠片もねぇが浮気を心配してんだろうよ。へッ、もてる男は辛れぇぜ。

 お! そんなことを考えている内に今日も獲物がきやがったみてぇだ。灰色の翼の別嬪さんがオレに向かって流し眼を送ってくる。悪ぃな、オレにはもうかみさんがいるんだ。あんたの誘いには乗れねぇ。オレがもっと若けりゃぁ、別だったかもしれねぇがな……。

 オレは誘いに乗ったふりをして外殻を動かす。雌鳥には求愛のダンスに見える筈だ。案の定オレの舞に魅せられた雌鳥は嬉しそうにこちらに近寄ってくる。フッ、まったくオレは罪な男だぜ。

 雌鳥が近寄ってきた瞬間、オレは正体を現して襲いかかった。雌鳥はキョトンとした表情のままオレの外殻の中に収まった。そこでようやく騙されたことに気付いて暴れだそうとするがもう手遅れだ。オレは即座に触手で雌鳥の首を絞めてとどめを刺した。


「ひぃ!?」


 一仕事終えて一息吐いたときにその声は聞こえてきた。そちらを見ると四匹の人間のガキがいやがった。どうやら全員雌みてぇだ。小せぇガキが二匹いてその内のちょっとデカイ方のガキがオレを見て泣いている。

 オレは人間は嫌いだがあそこまで小せぇガキは別だ。自分のガキを思い出しちまう。すまねぇな嬢ちゃん、怖がらしちまったみてぇだがオレも家族を養うのに必死なんだ。許してくれや。

 すぐにこの場を離れてぇが、オレが移動する姿を見れば嬢ちゃんはさらに怯えちまうだろう。ふう、どうしたもんかね。

 だが、嬢ちゃんの後ろにいる奴と目があった瞬間、オレはそれどころじゃなくなっちまった。四匹の中で一番デケェ雌だ。……何て野郎だ、アイツはヤベェ。アイツにかかりゃぁこの前オレを罠にかけた騎士の小僧くらいは瞬殺されるだろうよ。武器すら必要ねぇ、アイアンクローで一発だ。それくれぇ、生き物としての格が違う。

 そして、オレはさらに気付いちまった。ヤベェのはアイツだけじゃねぇ。むしろ横にいる無表情なガキの方がヤベェ。内包している魔力が桁違いだ。この距離でも奴ならおれを殺せる。すまねぇ、キャサリン。オレはここまでみてぇだ。マイケルのことは頼んだぜ……。

 オレは死を覚悟した。連れの譲ちゃんを泣かしたオレをあいつらは許さねぇ筈だ。ただでさえ人間はオレ達のことを嫌っていやがる。簡単に殺せるオレを見逃す筈がねぇ。オレはせめて気持ちだけは負けねぇつもりで奴らを睨みつけた。

 だが、そんなオレに奴らは何もせずに去って行った。どうやら、泣いている嬢ちゃんの方を優先したらしい。敵よりも仲間が優先とは中々見上げた奴らじゃねぇか。……借りができちまったみてぇだな。

 オレは奴らが見えなくなると、すぐ家に帰った。安心したせいでかみさんとガキの顔を見たくなっちまったぜ。

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