10th マクロス・ザ・ユニバース
「Deadly Rave」のライブは、テリーの釈放後に行われた。その会場である「ギガ・アミューズメント」にSMK音楽事務所の西山(兄)は足を運ぶ。連日の報道もあってか、いつもに増して観客が多い。
「……ったく、ビートルズの初来日じゃねえんだぞ」
当然だが、さすがにその頃は西山(兄)も生まれていない。だが、日本中を巻き込んだ大騒ぎだったことは伝え聞く。その前座はコントでお馴染みドリフターズだ。
ライブハウスのBGMが、SEの曲に切り替わる。藤原誠「ランナー」。超時空要塞マクロスのエンディング曲だ。歌詞、楽曲、センス、そして歌唱力、全てが神がかった名曲だ。
幕が上がる。
ギースが軽く歪ませたギターで、オーソドックスなマイナースケールを丁寧に奏でる。勢いを抑え、旋律を聞かせる楽曲か。
ビリーは包み込むような、ゆったりとしたドラム。そしてジョーのベースが……なんだ?
わかった。ベースが前へ引っ張っている。平坦なルート弾きとも、後ろへ寝かせるブルースとも違う、日本人には馴染み深い、この感覚は……
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あゝ 涙の全裸街道・独り旅《監獄慕情編》
作詞:テリー
作曲:ギース
(メロディは読者が自由に思い浮かべてください)
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♪街を駆け行く 全裸で独り
浮世の義理を 脱ぎ捨てて
シャバに未練 確かにあるさ
されど見せたい 男の道を
あゝ、すべて、すべて、晒して見せる~
前も隠さず 歩んだ先で
無言の背中 ご覧あれ
♪人に追われて 全裸で御用
両手に手錠を 掛けられて
シャバに法律 確かにあるさ
されど見せたい 男の証 (あかし)
あゝ、すべて、すべて、晒されていく~
顔も隠せず 実名報道
無言の両親 家で泣く
西山(兄)の目頭が熱くなる。感動したからではない。テリー以外のメンバーが不憫に思えたからだ。よくこんな歌詞で真面目に演奏できるな、と感心するが、同時に思い至ることがあった。
「……ビートルズと演歌って、近いんだよな」
極論である。暴論と言っていい。だが、どちらも楽曲の重心が前寄りで、日本人として聞きやすい。だから The Beatles は、この国で特別な存在なのかもしれない。ブルース直系のバンドとは、ノリの重心位置が違うのだ。
「……とはいえ演歌も、和製ブルースだがな」
◇◇◇
ライブが終わり、ステージに幕が引かれると、フロアに明るい照明がつく。誰もが帰ろうと振り向けば、そこにはマネージャーのユリが用意した物販コーナーがあった。
「一枚500円ですわ、皆様ご覧あれ。オーッホッホッホ!」
長机に山積みされた三曲入りのCD。しかも特典として、「Deadly Rave」全メンバーのサイン入り色紙、さらにはテリーのサイン入り起訴状&略式命令のコピーもついてくる。なおサインは全て直筆である。
ライブ自体がお祭りみたいなものなので、屋台のような物販は飛ぶように売れる。ファンの多くは既に配信や通販で楽曲を持っていたが、こういう時は、ついつい買ってしまう。特典も好評のようだ。
「『わいせつ物陳列罪』って、正式には『公然わいせつ罪』なんだ」
「アハハハ! 10万円の罰金刑だってさ!」
「被告人の名前が『アンドリアマナンテナ留吉』になってるけど、これどっちも名前で苗字が無いよね?」
ユリは上機嫌だ。もともと関西人気質が強く、商いが好きなのだ。売り手も買い手も得をする、そういう取引が楽しくて仕方ない。利益なんて二の次で、何かサービスをしたくなるが、CDと特典しか渡すものが無いので、ユリは手を叩き口上を述べる。
「結構毛だらけ、猫ミケだらけ、お尻を出すのはテリーだけ。さあさあ、お立合い、ここに取りいだしたるは三曲入りのミニアルバム。各メンバーをスタジオに閉じ込めますれば、タラーリタラーリと録音いたし。それでつくられたこのCD。さあ奥さん買うてや買うてや……」
上品な白いロリータドレスにそぐわないユリのダミ声。かつて聖エスカルゴ女学院で「ルイ・アームストロングを彷彿とさせる」と評されただけのことはある。同じく学院の講師でもあるジョーこと東先生は、眼鏡を押し上げ呟いた。
「なるほど。冒頭は『男はつらいよ』の寅さんをベースに、ガマの油売りの要素も加え、最後は明石・魚の棚商店街の魚屋で締める。見事なエンチャント (呪文詠唱) です」
ギースも静かに笑う。
自分たちが創った音源が、CDとなって物理的に誰かの手に渡る。それは思い出となり、今という一瞬をとらえた記録になるかもしれない。少なくともギースにとっては、永遠に飾る家族写真なのだから。




