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9th ユリとギースのバラード


ユリ・ギース(二人で一礼)


「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」


パシャ。パシャ。パシャ。(カメラの音)


「このたびは、『Deadly Rave』のボーカリスト、テリーの不適切な行動により、被害に遭われた皆様、地域住民の皆様をはじめ、多くの方々に多大なるご迷惑とご心配をお掛けしましたことを、心より深くお詫び申し上げます」


(二人で深く一礼)


パシャ。パシャ。パシャ。(カメラの音)


ギース


「現在、テリーは警察の捜査に全面的に協力しております」


ユリ


「現時点でお答えできる範囲には限りがございますが、質疑応答に移らせていただきます。前列の方」


信長新聞


「信長新聞の二階堂です。まず一点、お伺いします。ボーカリストは普段から全裸だったと聞いていますが、事実ですか」


ギース


「そのような事実はございません。公序良俗に反することは行わないよう、常日頃から言い聞かせています」


信長新聞


「それはつまり、常日頃から公序良俗に反する行動を取っていた、という意味ですよね」


ギース


「回答を差し控えさせていただきます。では、その後ろの方」


パシャ。パシャ。パシャ。(カメラの音)


三国新聞


「三国新聞の呂布です。先ほどのお話に関連してですが、ライブでも全裸となり、客席に飛び込んだとの証言もあります。これはバンド側の指示によるものですか?」


ギース


「前提が異なります。まず事実関係を整理させてください。確かにステージでボーカルの衣装が脱げてしまうことはありました。これは事実です。ですが、あくまで不幸な事故であり、意図したものではありません。ましてバンドの指示など、絶対にありえません」


三国新聞


「ですが、ボーカリストが街を全裸で徘徊していたという証言も複数上がっています。あなた、ご存知でしたよね? 宣伝だったのではありませんか」


ギース


「そのような認識ではございません。次の方」


アトリエニュース


「アトリエニュースのライザです。そちらの女性の方にお伺いします。自称17才とのことですが、近所のコンビニで『むぎ焼酎 いいちこ 20度』1800ml を購入していたとの目撃情報があります。事実ですか?」


ユリ


「そのような事実はございません」


アトリエニュース


「事実ではないと?」


ユリ


「左様でございます」


アトリエニュース


「証言は複数上がっていますよ?」


ユリ (テーブルを激しく叩く)


「アホ抜かせ!ウチが『いいちこ 20度』なんて買うか! 『25度』一択や!」


パシャ。パシャ。パシャ。(カメラの音)


アトリエニュース


「し、失礼しました」


ユリ


「どうせやったら、もっと度数の高い焼酎売らんかい!……あらいやだ、オホホホホ」


アトリエニュース


「あの、確認ですが、年齢をお伺いしてもよろしいですか」


ユリ


「長年17才を続けさせていただいております。はい、右隣の方」


アンジェリーク通信


「アンジェリーク通信のオスカーです。長年17才を続けているとはどういう意味ですか」


ユリ


「はい、その後ろの方」


アンジェリーク通信


「説明責任を果たせ! 逃げるな!」


ストロベリー光栄


「ストロベリー光栄の渋沢です。あなたは電気ウナギの……」


ユリ


「おい、こいつをつまみ出せ」


 会場は騒然となり、会見は打ち切られた。


◇◇◇


 クオリティの高さだけで生き残れるほど、クリエイターの世界は甘くない。それは音楽も同じで、埋もれてしまった優秀な楽曲や音源は、星の数ほど存在する。


 だからといって、話題になれば売れるわけでもない。騒ぎに便乗した作品の多くは、話題だけを残して消えていく。作品として記憶されることは、ほとんどない。


 だが、それでも。


 クリエイターは生き残りをかけ命を懸ける。せめて傷跡だけでも残そうと、岸壁に尖った作品を突き立て、険しい山を登ろうとする。


 今は大企業となったあの会社も、創業当時は表立って扱いにくいジャンルへ挑戦していたのかもしれない。その是非はともかく、挑戦しなければ何も始まらない。


 とはいえ、話題が作品を知ってもらうきっかけになることは、ある。


 全国で放送された謝罪会見により「Deadly Rave」の存在は知られるようになり、制作されたCDや配信は驚異的なセールスを記録した。だがその売り上げは、一連の騒動に対する謝罪を込めて全額寄付された。


 とはいえメンバーの手元には、素晴らしい出来の音源と、忘れることのできない思い出が残されたのである。ギースも、ビリーも、ジョーも、ユリも、そしていまだ拘留中のテリーも、誰もが満足したレコーディングだった。


 そして幾日か過ぎた。


注釈︰謝罪会見に登場する新聞社や記者名には元ネタがあります。特に最後は、某ゲーム会社の黎明期に詳しい方なら気付くかもしれません。

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