1 豪華客船クルーズ
T県警刑事の香崎小春が、大学生の妹の夏子と旅行へ行きました。
さて、何が起こるのやら。
私は香崎小春。T県警の刑事だ。おかしな探偵が活躍した前回の笑撃の事件から二ヶ月と少しが過ぎ、もう冬が終わろうとする頃、私はまた犯罪事件に巻き込まれてしまった。私が事件を引き寄せるのか、事件が私を導くのか、高い頻度で事件に遭遇するこれはもう運命なのだろうと、私はそう思わざるをえなかった。犯罪を解決して社会の秩序を回復する、それは刑事の本分であり、その事自体に恨みなどは全く無い。だが、事件が起きるタイミングが良くないのだ。楽しい思い出をつくるための時間を犯罪捜査に費やすことになってしまった。その事件の詳細を、いつものように記しておく。
私は休暇を取り、妹の夏子と一緒にK県へ旅行に行った。前回の事件の余韻を悪い意味で引きずっていたので、それを払拭するために、豪華客船による瀬戸内海クルーズに申し込んだ。新幹線、ローカル列車、それにローカルバスを利用し、前日にK県に到着して一泊し、その翌日、 " 四国なると観光 " の豪華客船 " なると丸 " に乗る予定を立てていた。朝11時から翌朝10時までの23時間のクルーズだ。
メインはもちろんご当地グルメ。狸うどん、鯛めし、鰹のタタキ、地鶏の唐揚げ等々。心身共にリフレッシュするには、美味しいものを食べる他ないのだ。
私たちは乗船当日、早めに港に到着していた。制服でビシッと決めた " なると丸 " のクルーたちが乗船の準備をしているのが見えた。私は売店で買ったペットボトルの紅茶を飲みながら優雅にそれを眺めていた。乗船開始時刻10時30分になり、ついに、なると丸に乗り込むことに。
なると丸は大型客船で、甲板より上に五階建ての構造を持っている。一階はオープンデッキと個室の客室が18部屋、二階は個室の客室が14部屋、三階は相部屋形式の客室が20部屋、四階は中ホールと食堂大ホールと娯楽スペース、五階は中ホールと観覧室と操舵室がある。さらに地下一階には自販機ルーム、娯楽室、スタッフルームなどがあり、地下二階はクルー以外立入禁止となっており、スタッフルームやボイラー室等がある。乗客は皆、自分たちの部屋に出入りするための、カード型のルームキーを乗船時に受け取ることになっている。乗船時には身分証明書による本人確認が必要だ。
乗船用のタラップ手前でクルーたちから満面の笑みで出迎えを受けて、乗船手続きを済ませ、私たちは割り当てられた個室の112号室へ行き、すぐに荷物の整理整頓を始めた。
夏子がこの旅行について来たのには理由があった。昨年末に大学の同級生たちの間でネットの掲示板に書かれたことが少し話題になったことがあり、夏子はそのことがずっと気になっていたというからだ。
匿名:20XX/08/10
豪華客船クルーズで事件が起きる
匿名:20XX/08/21
ピッピが消えるの?
という内容の書き込みだった。匿名で、書かれた日時は前年の20XX年8月10日と21日。漠然としていて、いつ、どこで、どんなことが具体的に起きるのかは書かれていなかった。ネットの掲示板なんていくつもあるし、毎日国内で多くのクルーズが行われている。なので私は、考えすぎだと夏子に言った。でも、夏子は些細なことでも大事に繋がるかもしれないと反論してきた。
夏子はしきりに気にしていたし、私も夏子を見ていたら気になってきたので、この日私たちはもう一度その掲示板を検索してみた。そうしたら、なんと、新たな書き込みが増えていたのだ。
匿名:20XX/02/1X
ニシピッピが死ぬかもしれない
「お姉ちゃん、新しい書き込みがある。今朝投稿されたみたい」
「まさか、今朝新しいのが書き込まれるなんて……」
私は、掲示板にタイムリーな書き込みがあったことを若干不思議に思ったが、私たちの旅行に関係なんてあるはずがないとも思った。
「ねえ、夏子、ニシピッピって何だろうね?」
「ピッピは、彼ピッピのことだから……」
「夏子、彼ピッピって、彼氏のことよね」
「うん、そう」
「じゃあ、ニシピッピって……」
「……それは……何だろ?」
夏子は首を傾げていた。
「彼ピッピが、彼氏のことだから、ニシピッピは、ニシ氏? かな?」
「お姉ちゃん、それどういう意味?」
「例えば、 " にし " っていう人に、 " 氏 " をつけて、にし氏、とかね」
「なるほど。中学の担任だった西和夫先生なら、西氏になるわけね」
私は、 " ニシピッピ " という言葉から、ミーハーなギャルが使う軽薄な意味しか浮かんでこなかった。
私は夏子のことを陰謀論にハマってしまう典型的なネット民だと思っていた。しかし、この時すでに不穏な空気が漂い始めていることに私は全く気づいていなかった。
ニシピッピ、ですか。
なんじゃそりゃ。
何か意味があるんでしょうかね?




