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指揮官も倒し、雑魚も十数人倒し、膠着状態のまま睨み合う事数十分。敵は動かないし、こっちも攻められないし、町から応援は来ないし、なんか千日手みたいな雰囲気だ。
個人的には戦わないで済むならそれに越したことはないんだけど、かといってずっと睨み合ってても楽しくもなんともない。さっさと終わってほしい……。
なんて思っていると、突然スローの感覚が訪れる。敵は誰一人としてこちらに踏み込んでいないのに、だ。となれば、弓矢で狙われてるということだ。確かに、『二号業務』の制限としては一人ずつ戦うといった内容だから、誰とも戦ってなければ弓矢は通る。まぁそれも一人分だけだけど。
「まったく、スロー様様だな」
ゆっくりした世界で小声で呟く。
スローが無ければ不意打ちで受けてただろうが、スローのおかげで狙われてると知れる。とはいえ楽観視はできない。弓で狙ってから射るのに、それほど時間はかからない。誰が狙ってきているかを見て確認したいところだが、まずは今いるところから身体を動かさなければ、次の瞬間には矢が刺さっていてもおかしくはない。
身体を正面に対して横向きにしつつ、敵集団に対して平行移動をする。念のために顔を守るように誘導灯を掲げてだ。避けた先に飛んでくるとかも無くはないだろうからな。
そうして動いていると、本来は鋭いはずの風切り音が、間延びした音として耳に届いた。それとともに、目の前を矢が通過していく。
「今の角度的に方向は……アイツか」
大まかな角度さえ分かってしまえば場所の特定は容易い。敵全員から一瞬で探し出せと言われたら厳しいが、範囲が絞り込めるなら話は別。他の連中が諦めムードで弓も構えていない中、一人だけ構えているのだ。雑な間違い探しのようなもんだ。
特定できたところで避けるくらいしかできないけどな。遠距離で反撃する手段が無いし、こっちから攻めていったら敵のど真ん中に行くことになる。場所的に『二号業務』が発動せず、スローでも捌きようのないほどの密度で攻撃を受ければそれでおしまいだ。相手も遅くなるけど、俺も遅くなるからな。
つまり……え、状況が変わるまでこのゆっくりした世界で延々と矢を避け続けるミニゲームするの?
噓でしょ??
「矢が通ったぞ! 狙え!!」
スローで間延びした音声が届く。今ので矢が通るようになったと勘違いしてやがるな。でも今の状況だとそれはまずい。例え最終的に他の矢が届かなくても、途中まで紛れ込むだけで回避難易度が急上昇する。スローのおかげで、来ると分かってて、発射点も判明しているなら、目で見て避けることもできる。なんなら誘導灯で打ち落としてもいい。
だが目で追えない状況……他の矢に紛れて見失いやすい状況では、目で追うなんて実質不可能だ。他の矢が無くなって認識できたときには避けられるタイミングではないだろう。
そして敵も百発百中の腕とはいかないはずだ。毎回狙いがキッチリしてるなら、射られたタイミングで横にズレればいいだけだが、バラつきがあるならそれも不可能。そうなれば、あとはもう当てられないことを願って逃げ続けるか、被弾面積を小さくして当たらないことを祈るかしかない。
どうするか、と視線を巡らせると、さっき倒した指揮官が目についた。いい盾があったじゃん。
「はいはい、ストーップ。おたくらの指揮官、まだ生きてるぞー? 痺れてるだけで外傷はほぼ無しだ。お前ら、それを殺すのか?」
倒れている指揮官をヨイショと持ち上げ、敵に正面を向けるように持ってその陰に隠れる。それが加害行為判定なのかスローは解除されたが、この状況ではスローがあってもなくても変わらないだろう。
「くっ、卑怯な……!」
さすがに指揮官を射る真似はできないのか、弓を下ろす敵兵達。これでスロー世界で矢を避け続けるクソゲーをせずに済んだ。グッジョブ俺。
またこのまましばらく膠着状態かな、と思ったが、町の方から微かに音が聞こえてきた。最初は気のせいかとも思ったが、音はだんだんハッキリと聞こえてくる。この状況で町から物音となれば考えられるのは一つだろう。
「ケント! 無事か!」
聞き覚えのある声だ。確か防衛隊長の……。
後ろを振り返ると、隊長のヴァルを筆頭に、防衛隊の面々が勢ぞろい。ほぼ全員連れてきたな。これで数の上ではこちらが多くなった。これならいくらでもやりようはある。
「いい所に来たな、ヴァル! 指揮官は生け捕り済み、あとは雑魚だけだ!」
「なんだと!? 君が町を出ていってからそんなに経ってないのに、なんでそんな状況になっているんだ!?」
なんでと言われても、スキルの結果だとしか。
それより、大声で喋っていると敵にも丸聞こえだから、手招きをして近くへと来させる。ここからは作戦のお話だ。
「あとで詳しく教えてやるよ。それより、俺はここを動けない。雑魚どもは俺を警戒して攻めてこない。残敵の対処を頼んでもいいか?」
「残敵と言うにはいささか多いが……嫌だとは言えんな」
「少なくとも、俺がここを動かない限りは、奴らがタルヴィークに近付く事はない。安心して追い散らすなり、皆殺しなりしてくれ」
「やはりこの謎の関所みたいなものは君のスキルか。わかった、任せてくれ」
話が早いのはいいことだ。詳細を聞いたヴァルは部隊を二手に分け、敵を挟み込むように左右に大きく迂回させて進ませた。
……あ、俺のスキルで通れなくなってる。解除はちょっとマズいから、範囲とかいじれないかなぁ……と思っていたらコーンとバーがごっそりと減り、ちょうど部隊が進むところで途切れる形になった。ナイス『二号業務』。
さて、敵はどう動くだろうか。さすがにこのまま動かないなんていう馬鹿な真似はしないと思うけど。あの場に留まれば、良くて左右からの挟み撃ち、悪ければ『二号業務』に蓋をされる形での完全包囲だ。
興味深く眺めていると、敵の方から笛の音みたいなのが聞こえてきた。それを合図に、敵兵は一目散に逃げていく。さすがに逃げるか、そりゃそうだな。誰だってそうする。俺もそうする。
ヴァル達は追撃をせず、弓を持った数名が射かけるだけにとどめた。相手をよく見ているようだ。別に敵は崩れているわけではないからな。下手に追撃しても、反撃で手痛い損害を出す可能性もある。
俺たちの現時点での目的は防衛であるからして、ここで無理をする必要はないというわけだ。
逆襲警戒で部隊を残し、ヴァルが俺の元へとやってくる。
「どうやら、話に聞いていたよりも強力なスキルだったようだな?」
「別に騙す気なんかなかったさ。ついさっき使えるようになって、俺もビックリしているとこだよ」
「それにしたって敵を完全に足止めするとは、そうと知っていたらいくらでもやりようがあったというのに……惜しい事をしたものだ」
「文句なら神にでも言ってくれ。……スキルって神の領分でいいのか?」
「さてな。生まれてこの方、神など見たことも感じたこともない。まぁ、次に何かあった時は先に教えてくれ」
そう言って伸びてる敵指揮官を引き摺って、部隊のところへ戻るジャン。そのまま指示を出し、伸びてる一般兵をまとめさせた。逆襲警戒も程々に、戦闘後の処理をする空気だ。
俺も今回の戦闘でガッツリスキル使ったし、レベルが上がってスキルが進化してるかもしれないから、今のうちに見ておきますかね。戦闘後のリザルトってね。
そうして表示させたステータスウィンドウには、レベル10という文字が表示されていた。
「戦う前は6だったのに、一気に10まで上がるか。比率どうなってんだよ」
さて、スキルの詳細とか開示されてないかな……と触ろうとした瞬間、ステータスウィンドウの前にもう一つウィンドウが標示された。
曰く、『四号業務:警護対象に危険接近。直ちに急行せよ』だと。
それを認識した瞬間、視界が暗転して、次の瞬間には、正面に短剣を振りかぶった黒ずくめの人間がいた。




