第23話 5月4日
――5月4日――
――迷宮バーガー 晴町ダンジョンセンター店――
今日から晴町ダンジョンのガチ攻略を開始する。
時刻は朝10時。私はいま、晴町ダンジョンセンターに唯一存在する飲食店『迷宮バーガー』にて、ご主人様が来るのを待っている。
今日のシェフの気まぐれバーガーは『ダンジョン出現10周年! ダンシュツバーガー!』である。ダンは肉団子、シュはシュリンプ、ツは漬物の略である。肉団子とエビと漬物のバーガーか……まずそう。
とは思っても、メニューはひとつしかないので、私は仕方なくダンシュツバーガーを食べている。
意外と美味い!
学校の説明会ではダンジョンが出現して10年と説明したが正確には『明日で』10年である。ダンジョンは10年前の5月5日に突然、世界中に出現したのだ。
ダンジョンが人類にもたらした恩恵は大きい。経済、社会、文化、それらはダンジョンのお陰で爆発的に発展し進化した。資源問題や環境問題など諸問題も一気に解決された。すべてはダンジョンのお陰様である。
人々はダンジョンに感謝し、出現日である5月5日には各地のダンジョンセンターにて【出現祭】を行うコトとなった。日本ではちょうどゴールデンウィーク期間中なので3,4、5日と3日間かけて祭りを行うところが多い。
今年は出現10周年ということもあり、大きなダンジョンセンターでは『10周年記念セレモニー』などの大々的なイベントが用意されているようである。サイモンのオッサンも祭りの準備で忙しそうだった。Aランクダンジョンを有する曇山ではイベントも相まってゴールデンウィーク中は人でごった返すことだろう。
晴町? 晴町は平和だよ。「ダンジョン出現10周年! おめでとう!」と安い垂れ幕がかかっているだけある。あとダンジョンセンターの職員さんが入口でスーパーボールすくいの店を出していた。1回無料だった。私も挑戦したけど取れなかった。無料イベントなんだから破れにくいポイを用意しとけ。サービス精神が足らん。
「せんぱーい! おまたせっす!」
そうこうしてると、私のご主人様がやってきた。今日もいつも通り可愛い。つややかな黒髪、くりっとして大きな目、整った顔とスラッとしたスタイル、右手には大量のスーパーボールを持っている。スーパーボール?
「これ、入口の店で取れたっす。先輩にプレゼントするっす」
ゴロゴロっとスーパーボールを私に渡してくる。
うわーい、嬉しいなー。かさばるー。
「なんか今日はすごいっすねー。やっぱり出現祭だと色々あるんっすね」
「晴町は全然がんばってない方だよ。隣町の曇山では福引にビンゴ大会、スタンプラリー、チャリティーオークション、他にも着ぐるみショーとかあったりイベントが盛りだくさんだったよ」
曇山では有志の探索者が祭りの実行委員会に参加して色々と協力しているらしい。福引の特賞で『スキルカード』が貰えるのを知った時は度肝を抜かれた。最低でも100万はする。金持ちダンジョンセンターである。
「先輩、詳しいっすね」
「昨日、妹と行ってきた」
昨日(5月3日)は休養日だったのだ。攻略前日くらいはダンジョンに潜らずにゆっくりしようと、私とご主人様で決めたのである。
私が家でだらだらしていると、妹が「どこかいっしょに遊びに行きたい」と言ったので、曇山ダンジョンセンターのお祭りに行ってみたのだ。
意外と楽しかった。妹は福引の景品で3等の『ウィルオウィスプBIGぬいぐるみ』が当たって嬉しそうだった。探索者にとってモンスターのぬいぐるみなんぞ微妙な気持ちにしかならないが、一般の人にはかなり喜ばれるようだ。ちなみに私は残念賞の『著名探索者トレーディングカード』だった。こっちはマジでいらん。
「晩御飯はスシナーによっていっぱい食べたよ。妹も楽しそうだったし、いい休日になった」
これで英気は養われた。憂いなく攻略に挑める。
「な、な、な、なんでウチも誘ってくれなかったんっすかーー!?」
ご主人様が突然大声を上げた。なに? どした?
「えと……だってご主人様、3日は用事があるって言ってたよね?」
休養日を決めた時に「3日は用事があったからちょうど良かったっす!」と言っていたハズである。
「悔しいっす! ウチが秘密兵器を用意しているうちにそんな羨ましいことがあっていたなんて! うううっす!」
「秘密兵器? なんかカッコイイー! 気になるなー、ご主人様どんなのか教えてよ」
「ふっふっふっす。あとで否が応にも見ることになるっす。ダンジョンに入るまでのお楽しみっす。先輩も期待するっす」
不敵な笑みを浮かべるご主人様。なんかフリみたいになってて、全然大したことないんじゃないかと疑ってしまう。ご主人様の言葉なので期待するけどさ。忠犬的に。
「それじゃあ、秘密兵器も気になるし晴町ダンジョンの攻略を始めるとするか!」
「はいっす!」
こうして、私達のダンジョン攻略は始まった。
…
……
………
――晴町ダンジョン 第01階層――
「これがウチの秘密兵器っす! ひゃっはーっす!」
「怖い怖い怖い怖い怖いぃぃぃぃ……!!!」
ダンジョンを暴走する『二人乗りの自転車』。
乗っているのはもちろん私とご主人様である。
自転車をこいでいるのはご主人様だ。スピード狂としか思えない、とんでもないスピードである。ダンジョンに法定速度はないがこの狭い道をこれだけ飛ばしていれば確実にスピード違反だろう。私は自転車の後部で振り落とされないよう、ご主人様に必死にしがみついている。半泣きである。マジで怖すぎる。
ご主人様の秘密兵器とは『ダンジョン内の移動に自転車を使う』ことだった。
ダンジョンに入るなりアイテムボックスから颯爽と自転車を取り出し「先輩は後ろに乗るっす!」とだけ告げられた。
ご主人様の取り出した自転車は一般的なものより、見た目かなり独特な自転車だった。タイヤが大きくてイカツく、その割には車体が低めである。ファットバイクというらしい。ダンジョンの悪路(晴町の場合は石畳の凸凹な床面)でも問題なく走れるそうだ。
いや分かるよ。移動時間の短縮だよね? でもさすがに自転車はキツくない? 地下迷路は曲がり角が全部直角90度だよ? 曲がれるの? モンスターとかどうすんの? 轢き殺すの?
私の疑問にご主人様の出した答えは『すべて強引に突破する』だった。
「電動機つきで改造もしてるので最大時速80kmまで出るっす! これなら一気に第10階層まで行けるっす! 白餡! 案内を頼むっすー!」
白餡がご主人様の頭に引っついて道案内をしている。「ピギ!」とか「ピギィリ!」とか聞こえる。
私は時速80kmの自転車の後部に座って(二人乗りできるように改造しているらしい)ご主人様の背中に引っついている。後ろからギュッと抱きしめる形になっているが、全力でくっつかないと振り落とされので仕方ない。ご主人様の身体あったけーとは思っている。
ダンジョンのカーブに入ってもご主人様が速度を落とす様子はない。
カーブのたびに車体が45度近く傾いている。マジか。なぜ倒れん。タイヤの地面に対する吸着力がすごすぎる。ダンジョン産のタイヤなのか? そんなのあるのか?
「先輩! 曲がる方向に体重をかけるっす!!」
「え!? ひゃあぁぁぁぁーーー!!!」
ダンジョンを走る。
ダンジョンを曲がる。
ダンジョンを走る。
ダンジョンを曲がる。
ゴブリンを避ける。
ダンジョンを走る。
ダンジョンを曲がる。
ギャギャギャとカーブを曲がるたびにタイヤが悲鳴を上げる。今のところ上手くゴブリンを避けながら進めてはいるが、いつブツかってもおかしくはない。ヒヤヒヤする。
たぶんこれ、すぐに限界が訪れるよね?
第02階層まですら辿り着けないと私は思う。
私のレーサー魂(そんなものはない)がそう告げているのだ。今走っているだけ奇跡だと。破滅の時は近いと。
思い起こせば、小さい頃、自転車で恋人と二人乗りをするのに憧れていた。カントリーな道のアニメを見たのだ。彼氏が私を自転車の後ろに乗せて、一生懸命に坂道を登っていく、そんなシチュエーションに憧れた。
現実はなんか『ご主人様がダンジョン内を自転車でかっ飛ばして、私はその後ろで振り落とされないように必死にしがみつく』ってシチュになってしまった。どんなシチュやねん。まあこれも青春か。抱きついてるの気持ち良いしサイコー。どうせなんでドサクサに紛れて胸でも揉んでおこう。ご主人様、集中してるみたいだし気づかれないよね、うん。
むにゅ。
「ちょっちょっ!? どこ触ってるっすーー!?」
え? あれ? 一瞬でバレた?
ちょうど曲がり角だった、
自転車がバランスを崩して宙を舞う。
私とご主人様も宙に投げ出された。
周囲がスローモーションのようにゆっくりと動いている、
自転車はそのまま壁にぶつかって大破、
私とご主人様はまだ空中だ。
このくらいの速度なら余裕で着地できるだろう。
多少ケガしても回復できるし。
それよりも、
いま、
私はすごく重要な案件について思考を巡らせている。
考えろ! 考えるんだ……!
これは大変な難問だぞ……!
もう着地してしまう! 時間がない!
私は、
『どうやって言い訳しよう?』
と、
必死に考えた。




