52.メイド男爵、困ったときはやっぱり砦ちゃんにすがる
「正直者になる薬ということは前後不覚になってペラペラ本当のことを喋ってしまうものでしょうか?」
「なぁるほド、酩酊状態を作り出す毒が必要ですネ。他には……」
悪徳商人に正直者になってもらおうという作戦を思いついた私である。
もちろん、それを作るのはマツとポイナの二人である。
くふふ、頭が無駄にいいのを揃えておくと役に立つんだなぁ。
私は領主として二人の人材を抱えたことを誇らしく思うのだった。
「ふーむ、なるほど、結論が出ましたね……」
「そのようですネ……」
二人は十分ほど話し合っていたが、にこにこ微笑みながら戻って来た。
おぉっ、仕事が早いよ。
もう目星がついたとかなのかな?
「男爵、研究設備がないとムリですっ!」
「毒を抽出してもそれを保管しておかなければなりませン! 砦じゃムリ!」
二人は口をそろえてムリを連呼する。
いわく、いくらスライムに毒を抽出させてもそれを補完する場所がないとのこと。
言われてみれば、納得の話でこの砦には最低限のものしかないのだ。
ぐぅむ、困ったぞ。
お金がない以上、研究設備を買い足すわけにはいかないし。
砦ちゃんには感謝しているけど、完璧ではないのだ。
「そっか。砦ちゃんのボーナスとか出てるかも!」
ここで思い出したのが、我らが不思議な砦のもつミラクルパワーである。
古くは魔物の群れを撃退し、その形を変幻自在に変えてきた。
ポイナっていう領民が加わったのだ、もしかしたら、ボーナスをくれるかもしれない。
「砦ちゃん、ステータスオープン!」
私はさっそく青い画面を呼び出すのだった。
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【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】
ランク:トリデンメイデン(最下級+)
素材:頑丈な岩
領主:サラ・クマサーン
領民:3
武器:なし
防具:なし
特殊:リボン・ヘッドドレス・ドラゴンタトゥー
シンクロ率:10%
領民増加ボーナス! 次のうち、一つを砦にインストールできます。
1 オーブン付き豪華キッチン:レシピ付きでプリンも焼けます!
2 ロボット掃除機ムンバ君:高機動型で壁もいける
3 豪華な研究室:いろいろ役に立つ
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するとそこには3つの選択肢が現れる。
おぉお、すごいじゃん。
やっぱりポイナを仲間にしたことが評価されたんだ。
「これで解決ですね! 3番に決定、むが!?」
マツは三つの選択肢を見て、即座に決めようとする。
しかし、私は慌ててその口を抑えるのだ。
だって、一番はキッチン設備でプリンが作れるんだよ!?
あのプリンを食べるために私は頑張ってきたのだ。
そもそも、レシピを教えてくれるなんて嬉しすぎる。
その次の壁も掃除してくれる掃除機ムンバ君とやらも気になるし。
砦の壁をピカピカに磨き上げてくれたら、すごく嬉しいよ。
「ぐぅむ、キッチンいいよねぇ。掃除機っていうのも気になるし……」
一時の怒りに身を任せて研究室なんか作っていいんだろうか?
そもそも、研究室の「いろいろ役に立つ」って何よ。
ふわっとし過ぎでしょうが。
もっと具体的に言ってよ、詳しく言われても分からないかもしれないけどさ。
もしこれで研究室とやらが役に立たなかったら私は絶対に後悔する。
「メイド男爵、私は別にどれを選んでもいいですよ?」
マツは私の葛藤を読み取ったのか、少しだけ寂しそうな顔をする。
それはただ相手にをやっつけたいっていう気持ちからのものじゃないだろう。
自分たちの居場所を奪おうとしたことに憤りを感じているのだ。
ウィンドル商会の仕打ちには腹が立つ。
この領地を取り上げるなんて、まるでお父さんがされたことと同じだし、すっごい悪党である。
私はあの日の父親の顔を忘れてはいない。
いつの間にか借金を負わされて、領地を失うことになった彼の顔を。
私とお母さんに申し訳ないって頭を下げた、あの時の顔を。
「……やっぱり3番にする。だって、許せないし、正義の男爵としてお仕置きしなきゃ!」
別にこのズルい商人が親の仇ってわけじゃないのは分かっている。
私の父親は外国との取引で失敗したと聞いているし。
だけど、私にとっては父親の一件をケリをつける意味でも、うやむやにしたくない。
そもそも、あんな商人を野放しにしておいたら、プリンを美味しく食べられないってものだ。
『了解しました。研究室を配置します』
砦ちゃんの無機質な声が響き、ついでゴゴゴゴゴと壁が揺れる。
きっとどこかに部屋ができているのだろう。
「ひゃあっほぉおお! ポイナ、頑張りますよっ! 魔道具研究室です!」
「有毒物質研究室ですネッ! 頑張りマス!」
マツとポイナは二人して研究室とやらに駆け込んでいった。
どうやら2階の空きスペースにできたらしい。
「うひゃあ、この箱なんですか! モノを温めることができますよ!」
「これもすごいでス! すぐに熱湯ができるナンテ!」
ちょっとだけ覗いてみたら二人は嬉しそうに作業していた。
さぁて、どうなることやら。
◇
「で、で、できましたぁあああっ! 大きくて動くの大好きですっ!」
「自信作ですよっ、スライムヒーリングで快感を世界に広めたいのデスッ!」
次の日のことだ。
マツとメイメイは例の「正直になる薬」とやらを開発してしまったのこと。
「私ってすごいですね! やっぱり天才だったんですね! 男爵、讃えてくださいよぉっ!」
「これを飲むと体の奥がじんじん言い出して、ピンタゲラってなりマス! 私もなでてください!」
二人の言動を見るに、自分たちの体で実験していたらしいことがわかる。
私はとりあえず二人の頭をなでなでして褒めることにした。
まるで犬みたいに喜ぶ二人なのである。
こうしてるとかわいいんだけどなぁ。
「どうやって商人の人にこれを浴びせられるかだよね……」
しかし、問題はすぐに立ちはだかった。
相手にバレずに正直になる薬を仕込む方法が分からないのだ。
「はいはいっ! 商人めがけて薬の小瓶を思い切り投げつければいいと思います! メイメイがやりますよっ! こう見えて、メイメイは小石を投げて魔物を殺せます!」
勢いよく手をあげるのはメイメイだが、彼女に任すことはできない。
私たちがやりたいのはお仕置きである、暗殺ではない。
手紙に仕込むことも考えたけど、相手がそれを開くとは限らない。
商人の手下が正直になってもしょうがないのだ。
「……よぉし、じゃあ、私が直接、行ってくるよ!」
そんなわけで私は最善策をとることにした。
男爵自らが契約書を私に行くのであれば、相手のボスが出てこざるを得ないだろうという計算だ。
「男爵だけだと不安なので、私も!」
「メイメイも参りますっ!」
「私も行きますよっ、今度こそ、薬屋さんで毒を売ってもらいますっ!」
私の意気込みに感化されたのか、三人も一緒についてきてくれるという。
よぉし、行くよ、我が忠臣たちっ!
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