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【完結】トリデンメイデン! ~砦に置き去りにされたメイド、超古代兵器を手に入れる~  作者: 海野アロイ
第6章 メイド男爵、順調に復讐を進めていく(偶然か、必然か)
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53.メイド男爵、悪徳商人を懲らしめるっ




「ようこそ、おいでくださいました。お連れ様もご一緒にお座りください。主が参りますので、しばしお待ちください」


 ウィンドル商会は王都のど真ん中にある大きな商館だった。

 その大きさは昔の私の伯爵家よりももっと大きい。

 壁には動物の首が飾られていて、床には猛獣のカーペット。

 いかにもな金持ち趣味である。


 案内してくれた執事さんは眉毛を一つ変えず、私たちを応接室に案内してくれる。

 丁寧ではあるものの、なんだかちょっと態度が冷たい。


「おぉっ、メイド男爵殿! ようこそいらっしゃいましたっ!」


 そして、現れたのは太ったおじさんだった。

 年は50歳ぐらいだろうか。

 商人としてはすごく脂がのっていて、のりまくっているような雰囲気。

 なるほど、これが性悪商人か。


「ぬひひ、マニース・ウィンドルと申します。遠路はるばるようこそ、王都へ!」

 

 彼は私の手を無理やり握ると、にぎにぎと握手をする。

 こんなこと言っちゃ悪いと思うけど、汗ばんだ手で気持ち悪い。

 ひぇええ、セクハラを受けてる気分なんだけどなんとか耐える。

 ここで相手の心証を悪くするわけにはいかないのだ。

 

「ええっとぉ、その、こちらをお持ちしましたぁっ」


 私はにっこりと笑顔を作って、例の契約書の入った封筒を差し出す。

 その表面には『親愛なる、誠実な商会主様へ。メイド男爵から』と背中に嫌な汗をかきそうな文言が並ぶ。

 誠実な商会主なんていうのはもちろん、皮肉である。


「おやおや、男爵様、自らお渡しいただけるとは光栄です。ぐふふ、私は正直な商売を心がけていますから、こう言っていただけると嬉しいですねぇ」


 封筒を受けとった商会主はぐふぐふと笑う。

 明らかに嫌みったらしい笑みで、背筋がさらにぞぞぞとする。

 誰が正直者ですって、本当はそんなこと微塵も思ってないくせにっ!

 心の中で啖呵を切る私。

 きっとマツやメイメイも同じような気分だろう。


「ん? やばっ!?」


 見るとメイメイの額にうっすらと青筋が浮かび、さらにはその拳が震えているのが分かる。

 彼女が暴発したら、男爵が手下を使って商会主を襲ったという図式になってしまう。

 私は慌ててメイメイの拳をぎゅっと握る。


「メイメイ、我慢だよ? この後、美味しい串焼き買ってあげるからね?」


「分かりましたっ! メイメイはその一言が欲しかったのですっ!」


 なんてこった。

 怒っているふりをした、ただの罠だったんじゃん。

 とはいえ、リスクが下がったのはいいことだ。

 

 私たちは彼が特製のクスリにやられるところを拝まなきゃいけないわけで。


「さぁてと、中身を確認させていただきますね。ふくく、とびきりの契約条件でしたから、きっと驚いたんじゃないですかぁ?」


 メイメイとごにょごにょやっていたけれど、商人のおじさんは私たちに構わず封筒を開ける。

 その顔は温和そのものといった感じで、いかにも善人である。

 しかし、私たちは気づいているのだ。

 この男は善人の皮をかぶった、ろくでなしだってことを。


「ふむ、ふ…むむむむむ!?」


 例の契約書を封筒から引っ張り出した、おじさん。

 その指で契約書をしっかりと握っているのが分かる。


 ぬははは、罠にひっかかったね!

 これであんたは嘘がつけないよっ!


 踊りだしたい気分だけれど、執事の人がいる手前、冷静さを取り繕う私。

 指先から摂取できるって話で、即効性があるらしい。

 さぁ、どんな反応をみせてくれるだろうか。


「な、何だこれは!? なんで私の罠がバレているのだ!? 契約条件を後から書き換えるという、私の至高の罠が!? はわわわわ、なんだ、これは!? 私はどうして本当のことを言ってるのだ!? ぼくちんのバカ!」


 おじさんは手紙の文面が置き換わっていることに気づいたらしい。

 そう、例の契約書はポイナとスライムによってすでに本当の文言に変化していたのだ。

 それにしても、正直になる薬とやらは恐ろしい。

 おじさんは自分の口を抑えて慌てふためいている。

 それにしても、心の中の一人称が「ぼくちん」って、なかなかかわいい。


「旦那様、何をおっしゃっているのですか!? 契約書の内容はそんなものであるはずが! あ。こりゃダメですね、本当の内容に移り変わっておりますわ。なんだこれは!? どうして私は本当のことを!?」


 執事は主人の失態を慌てて取り繕おうとする。

 しかし、彼もまた正直になる薬に毒されて、本当のことを言ってしまう。

 

「何を言っているのだ、貴様。この役立たずめが! 契約書で罠にはめて、この娘どもを奴隷に落とすのが目的だったのに!」


「うるさい、このバカ商人が! 給料がよくなきゃ、お前のところで働くか、このボケ!」


 汚い言葉で罵り合う、おじさん二人。

 商人の口からは最悪としか言いようのない言葉が出てきて、うんざりである。


 とはいえ、彼らの薬は1時間程度しかもたないのだが。

 嘘で塗り固めた自分を恥じて、少しは反省してほしいものだ。


「こんなふざけた契約はしません! それと、この契約書のことは商業ギルドに報告させてもらいますからねっ! みんな、行くよっ!」


 私は商人のおじさんにばばーんと言ってやるのだった。

 悪辣な手を使って、誰かの人生をもてあそぶなんて絶対にしちゃいけないことだから。


 それから私は商業ギルドに行って、今回の事件について報告することにした。

 その詐欺のメカニズムについて、証拠品をもってしっかりと。

 上の人たちがその内容を知れば、きっと何らかの処断が下るに違いない。


 きりっとした面持ちで、館を出る私たちなのだった。


「さぁて、気分もいいし、美味しいご飯でも食べようか! ポイナのお蔭で薬草とか素材も売れたし」


 それから私たちはお祝いをすることにした。

 まぁ、何かを手に入れたってわけじゃないけど、一つの区切りみたいなものである。

 それに砦周辺に生えていた雑草をポイナが鑑定してくれたのは大きかった。

 意外なところに意外なものが生えているものである。


「うふふ、今回の最大の功労者はポイナだよっ! ありがとう、ポイナ、これからもよろしくねっ!」


 私はポイナの手をぎゅっと握る。

 スライムに半身埋まっている系の女子ではあるが、今回は彼女が大活躍してくれた。

 正直、あの時、彼女がいなければ、私たちは悪しき商人の餌食になっていただろう。


「本当ですよっ、自白剤作るの楽しかったですよ」


「何だかわかんないけど、面白かったですっ!」


 マツとメイメイも私に続いて、ポイナに称賛を送る。

 メイメイに至ってはポイナにぎゅっと抱き着く始末。


「そ、そんナ……、こちらこそよろしくデス!」


 ポイナは照れているのか顔を赤らめて、声を震わせてしまう。

 もちろん、怪しくない意味で。

 彼女にも初心な所があったんだなぁって、微笑ましく思うのだった。



 後日談ではあるが、私はウィンドル商会の詐欺を告発したものの一人として、証言台に立つことになる。

 ウィンドル商会は他にもたくさんの余罪があったらしくて、厳しい処断が下されるとのこと。

 気の毒ではあるけれど、こればかりは同情できないよね。

 悪は絶対に滅びるのだっ!

 


◇ ポイナの心、男爵への感謝



「ポイナ、お前はもう雑用でもやっていてくれ……」


 両親が諦めに満ちた目で自分を見ていた日のことをポイナ・ポポイポイは忘れない。

 彼女はヒーラーを生業とする一家に生まれた。

 ヒーラーとは回復魔法や回復薬を通じて、人々の健康に貢献する職業だ。

 聖母神の奇跡を使うことから神職を同時に担うことも多い。


 ポイナの家系は優れたヒーラーの一門だった。

 だが、ポイナ自身は一切、その才能に恵まれなかったのだ。

 彼女はそもそも魔力が弱かった。

 回復魔法を習得する際にそれは致命的な欠点だった。


 家業を手伝うにも失敗続きで、指導係の父母兄弟、あるいは親族は匙を投げてしまう。

 表立って排斥することはなかったが、ポイナは親族の誰かが自分のことを一族の恥だというのを聞いてしまう。


 持って生まれたものがないだけで、そこまで言われなければならないのか。


 ポイナは憤りとともに、確かに、その通りだと思った。

 能力がないのに癒しと言う人の命に係わる行為にしがみついている自分。

 その浅ましい態度は責められても仕方がないと彼女は思ったのだ。


 ある日のこと、彼女は実家の図書を整理している際、奇妙な文書を見つける。

 それは「奇跡のスライムヒーリング」と題された古文書だった。

 内側にはスライムを使役して、人々を回復させる方法が記されている。

 発行元はメルタタタ王国と言う遠方の小国だ。


「私、これを学ぶっ!」


 ポイナはこっそりと家を出て、スライムヒーリングの門をたたく。

 彼女は運命の出会いを果たし、その奇跡の癒しを身に着けるのだった。


 とはいえ、スライムヒーリングの日は浅く、実践しているのは師匠ぐらいしかいない。

 その師匠も自分の見識を広めるために旅に出てしまった。

 聞けば、世界の平和を守る活動をしているのだという。


「私もお師匠様みたいになりますっ!」


 ポイナは持ち前の知識欲を満たすためにも、旅に出ることにした。

 スライムヒーリングを人々に広めたい、その一心で。


 道中では彼女はひどい差別を受けることになる。

 スライムなどと言うモンスターを使って人を癒すなど誰も聞いたことがないからだ。

 それに、旅行中、すっかり毒の魅力に憑りつかれてしまったのも痛かった。

 

 平和にしている市井の市民からすれば、ポイナのしていることは異端中の異端だった。

 やはり自分は誰にも受け入れられないのか。

 自分のしていることは間違っているのか。

 悲嘆にくれていたとき、彼女は出会うことになる。


 自分の人生を共に歩んでくれる、メイド姿の少女に。

 彼女は男爵を名乗り、自分の領地に迎えたいとまで言ってくれた。


 ポイナはここに誓うのだった。

 このメイド服の男爵を、一生、支えることを。


 ポイナ・ポポイポイ、彼女は後の世でスライム聖女と謳われることになる。


【☆★読者の皆様へ お願いがあります★☆】


お読みいただき、ありがとうございました!

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