46.メイド男爵、怪しげなヒーラーと出会う(出会いたくなかった……)
「帰れ! 許可証のない奴には売れないんだよっ! だいたい、気持ち悪いんだよ、この野郎!」
王都にて今からレッツパーリィと洒落込もうかなと思っていた矢先のことだ。
私たちの前に修羅場が訪れる。
「ぎゃふっ!」
シスターっぽい格好をした女の子が薬屋さんから叩きだされたのだ。
褐色の肌に金色の髪の毛、髪の毛はハーフツインにしていた。
外国人っぽいけれど顔立ちはかわいらしい。
彼女が一体、何をしたって言うんだろう。
「だ、大丈夫? ケガしてない?」
とりあえず、私は女の子に駆け寄ってみる。
『貴族たるもの全方位に媚を売れ、じゃなくて親切であれ』、そんなパパ上の教えを思い出したのだ。
あ、ちなみにパパ上って言うのは私のお父さんのことね、念のため。
「大丈夫です。ありがとうございまスゥ」
うちどころか悪かったのか、彼女は額から血を流しているが大丈夫だと言い張る。
言葉遣い的にこちらの地域の人じゃないのかもしれない。
メイメイもそうだけど、トルカ王国は交通の要衝なので色んな国の人が訪れる。
「しかし、女の子にあんなことするなんて薬屋さんもひどいよ。災難だったねぇ」
私は彼女をてきぱき手当てしながら、慰めることにした。
シスターっていうのは神様の使える身分。
そんな人に乱暴な真似をするなんて、あってはならないことだし。
「いいえ、いいんでスゥ。神様は見てくださっておりますのデ」
彼女はそう言うとすっくと立ち上がり、ぎこちない笑顔を作る。
その表情だけで私は察してしまうのだ。
たぶん、きっとこの子は貧しい教会のシスターなのだ。
そこに併設された孤児院の子どもたちのために、どうにか安く薬を売ってくれないかと頼み込んだに違いない。
「いや、何だか、このシスター、怪しいですよ? シスター服の文様も見たことないですし」
マツはシスターの服装を見て、彼女のことを判断しているらしい。
確かに、彼女のシスター服にはなんていうか、ゲル状のモンスターであるスライムみたいなものが描かれていた。
私も正直、見たことがないデザインだった。
「マツ、人を見た目で判断しちゃダメだよ。私だって、こんななりだけど男爵なんだから!」
先ほどの王兄様の門番もそうだけど、人を見た目で判断するのは大きなものを取りこぼすことが多い。
後で、この人が有能だと知って後悔したりするものなのだ。
それに私は彼女の姿にピンと来たのだ。
シスター服ってことは、十中八九、ヒーリング魔法の使い手だろうということだ。
私は応急処置はできるけど、本格的な治療はできない。
そういう時にヒーリング魔法の使い手がいれば本当に助かるわけで。
私が王都に来たのは爵位うんぬんの問題もあるけど、それ以上に人材を探しているってのもある。
やっぱり領地経営は人が基本だよね、きっと。
「そう都合よくいきますかねぇ? なんか怪しいんですよね。私の勘がびんびん伝えてるんですよ? この女、油断ならないって」
マツはいまだに彼女を怪しんでいるようだ。
怪しい女って言うのなら、あんたこそがそれに当たると思うんだけど。
ふぅむ、それなら、お互いに名前を名乗り合おうじゃないか。
相手の正体が分からないから、怖がったりするのだ。
「えーと、私はずっと北の辺境の一部を治めている、サラ・クマサーンっていう、一応、男爵なんだけど、あなたの名前を聞いてもいいかしら、シスターさん」
まずは私からの自己紹介である。
こうやって自分のことを男爵って言えることは本当に素晴らしいね!
「お師匠様のドヤ顔、ちょっとうざいですよね? 鼻の穴がちょっと大きくなるし」
「しっ、聞かれたら怒るからそっとしておこう? 人生で唯一の楽しみなんだから」
私の自己紹介を聞いたメイメイとマツはひそひそ話をしている。
あんたら、聞こえてるんだからね?
「わ、私はポイナ・ポポイポイと申しまスゥ! ポイナとお呼び下さイ! 神に仕えるヒーラーとして各地を回っておりまス、男爵様!」
不敬極まる私の忠臣たちとは対照的に、ポイナは私に深々とお辞儀をする。
ほぉら、みたとおり、ちゃんと社会性のある人じゃん。
それに思った通り、ヒーラーだったし!
くふふ、ひょっとしたらいい人材かも。
「それにしても、北の辺境の大地からいらっしゃったんですネ! あちらはピンタゲラな、ええと、素晴らしい土地だと聞いたことがありまス。ぜひ、一度、訪問させてくださイ!」
彼女は想像以上に私の領地に食いついてくる。
ふぅむ、素晴らしい土地って言うか、自然豊かなだけで何もない土地なんだけど褒められるのは嬉しい。
あの砦のあたりって万死の森だなんて不名誉な名前がついてるらしいけど、敢えて言わないことにした。
夢を壊しちゃ悪いからね!
ちなみに彼女の言う「ピンタゲラ」なる言葉は「素晴らしい」という意味の言葉らしい。
外国人なんだなぁ、やっぱり。
「もちろんだとも! なんなら、うちの領民になってくれても構わないよ! 優秀な人は誰だって歓迎してる弱小領地だからね!」
ここで私は軽めのジャブを打つことにした。
そう、そこはかとなく領民募集中であることをにおわせたのだ。
「お師匠様、わざとらしすぎますよ? 目がらんらんとしてて怖いです」
「どうみても、勧誘ですよね? この人、大丈夫なんですか!?」
メイメイとマツは感づいてごにょごにょ言うが、ここは無視だ。
「本当ですカ!? ぜひぜひ、領民になりたいでス! 神に仕える身としテ!」
ポイは私の手を取って、目をキラキラとさせる。
やたらと食いつきがいいので、ちょっとびっくり。
後でうちの領地がヘンテコな砦だと知った時の反応が怖くなってくる。
彼女は敬虔な信者らしく、やたらと神を連呼する。
まぁ、私も寝る前にお祈りぐらいはするけども、彼女ほど信心深くない気がする。
「ところで、ポイナは薬屋さんで何を探してたの? 何かの薬が必要なんだったら、探してあげようか?」
我ながら思いっきり恩着せがましいムーブをする私である。
なんせ手元には五百万ゴールド、いや、四百八十五万ゴールドもあるのだ。
ぬはは、一万、二万で人に恩が売れるなら安いものだ。
「いえ、私が探しているのは毒なんでスゥ。薬屋さんに毒を売ってもらいに来たんですけど、お前みたいなのには売れないっテ」
ここで彼女の口から飛び出したのは、想像の斜め上のものだった。
彼女はキラキラと輝く瞳で、毒、と仰ったのです。
おっといけない、あまりにびっくりしたので心の中の口調が変わってしまった。
「ど、毒!? 毒を探していたの!? 何のために!? あ、そっかぁ、毒から薬を作るのかな?」
眩しいぐらいの美少女から出てきた、毒という言葉。
そこから思いついたのは、薬剤というものは毒を加工することで作れるという薄い知識だった。
そうだよ、こんなにカワイイ女の子が毒を好き好んで買うわけないじゃん。
「ええと、話せば長くなるんですけド、私、ビーストヒーラーというか、スライムヒーラーで、スライムヒーリングをしてるんですヨ!」
彼女ははにかみながら、さらに私の知らない言葉を連呼。
ビーストヒーラーって何?
モンスターのお医者さん的な立ち位置?
じゃあ、スライムヒーラーはスライムを回復させる人?
「ふふふ、まさかですヨ! スライムヒーラーって言うのは、スライムを使って人を回復させる最高に先進的デ、環境にやさしくテ、それでいて体にも優しく副作用も少なくテ、むしろ気持ちも良くテ、それがもはや本作用っていうメルタタタ王国の医療技術ですヨォ!」
すっごい早口で、まくしたてるポイナ。
正直、最初の方しか聞き取れなかった。
えーと、なんだっけ?
スライムを使って治療する?
人間を?
うっそぉ。
私の頭の中にとても大きなクエスチョンマークが現れてしまうのだった。
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