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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 午前中いっぱいは魔力を纏う訓練で終わった。本来ならもっと時間をかけてゆっくりやるのだが少女には教えないといけない事が多い。これから少女には色々な知識を詰め込まなければならない。


 樹海のエルフとハーフエルフは寿命が圧倒的に違う。エルフの速度で教えていたら少女がお婆ちゃんになってしまう。それに寿命の短さは習得の早さに反比例している。


 寿命が短い人は物事の習得速度が兎に角早い。特に子供の内はスポンジのように知識と技能を吸収していくだろう。しかし少女にはその時間が少ししか残されていない。


 とにかく詰め込んで一人前の大人にしなければ、と子供のマサモリは真剣に考えた。


「よし、次の段階に進もう。体外に放出した魔力を硬化させていく。最初は綿や水位の硬さで良い。とにかく魔力を変化させて自分を守る膜や壁にするんだ。もっともイメージしやすいのは水を纏う感じで良いと思う」


「はい! 行きます。んぐぐぐうう」


 少女が顔を真っ赤にさせて体外に放出した魔力を硬化させようとする。シラギクは魔力に手を触れて硬度の変化を検査している。


「お、ちょっと抵抗感が出てきたよ。その調子」

「はひい。むううう」


 少女の纏う魔力が次第に粘度を増していった。初日を終える頃には水程度の抵抗感を得た。


「あたしは天才かもしれないです。すごいです。わーい、わーい」


 一日中訓練をしたが少女は根をあげなかった。少女が根をあげたら勉強を教えようと思っていたマサモリは少し肩透かしされた気持ちになった。しかし本人が喜んでいるならこれで良かっただろう。


「良く根をあげなかったな。明日はどうする? 魔法の練習でもいいし、勉強でもいいよ」


 マサモリが言うと少女よりシラギクの方が勉強という言葉に顔をしかめた。


「魔法の方が良いです! 今日だけでも強化魔法が使えるようになったです。うふふふ、強くなっていじめられないようにするです!」


「わかった。明日も魔法訓練だな。武術はもう少し体が回復してからにする」

「やったです!」


 マサモリは人に魔法を教えた事は無かったが、ここまでやる気があると教えるこっちも嬉しくなってくる。今日の傾向から少女にあった教え方を考えておこう、マサモリはそう思った。



 超大陸に行っていたエルフは全員精密検査を受けた。特に寄生生物に寄生されかかったマサモリ達は念入りに検査をされる事になった。それに加えてマサモリは何度も血を抜かれた。


 体調に変化はないが最近はとにかく鉄分が得られるレバーやひじき、ほうれんそう、納豆等を食べさせられた。それに加えて良く分からない丸薬を大量に飲んだ。


 しばらくは定期的に採血しなくてはならないので億劫である。マサモリとシラギクを除いた超大陸に行っていたエルフは精密検査が終わるとすぐに超大陸に舞い戻っていった。


 彼らは超大陸に残っている星外生物と戦わなければならない。普通の星外生物でも見つけるのが大変なのに、寄生する個体も居るとなると労力が数倍に跳ね上がるだろう。


 星外生物を見つける手段を発見してほしいものだとマサモリは思った。ただ、軍師の反応では脅威はかなり低下したとの話しだったのでそれだけが救いである。


 行けるものならマサモリも超大陸に行きたかったが採血もあるし、少女の事もあって放っておくわけにもいかない。今回はマサモリを連れていけないと勝ち誇って言ったヒデヤスの顔を思い出して少しイラっとした。



精密検査の合間を縫って少女の訓練を手伝った。



「本日の訓練の前に発表がある」

「わーわー、ぱちぱちー」


「発表ですか?」

「そうだ。お前の名前は(なつめ)だ!」


「ナツメ、おめでとうー」

「え、あたしの名前ですか。ナツメ……」


「うん。砂漠でも育てられる植物から取った。美味しい実をつける素晴らしい植物だ。あれ、もしかして気に入らなかった……?」


 マサモリは喜んでくれるとばかり思っていたが反応が止まった少女を見て、冷や汗が滲み始めた。


「あたしはナツメです。村長から付けてもらったです。偉いです」

「良かったねー」


「ああ、気に入ってくれて良かった」

「でもナツメって植物知らないです。どんな植物ですか?」


「ヤシ科の植物なんだけど、ってヤシも知らないか。とにかく美味しい実をつける有益な樹だ。エルフの森じゃ実はあんまり出回らないけど今度見つけたら買ってくるよ」


「食べてみたいです。あたしはナツメです。ふふんふん」

「よっし、ナツメも納得してくれたし訓練を始めよう」


 強化魔法だけを続けたかいあってか、ナツメは氷程度の硬度の強化魔法を使えるようになった。


「すごいですー! 本当に出来るようになったです。あたしは天才かもしれないです。ううううー! 強くなったらマサモリとシラギクは特別に守ってあげるです。ですです!」


「その時はよろしくな」

「ナツメちゃん、偉い偉い」


「ここから強化魔法の硬度を上げるのには毎日の訓練が必要だ。だから次は身体強化に重点を置く」

「どんとこいです」


「身体強化は体全体を強化しつつ、体の内側にある骨と筋肉を強化する。筋肉だけ強化すると骨が負担に耐えられずに折れてしまう。骨と筋肉を強化しつつも全体的に強化して、強化状態にむらが出来ないようにするんだ」


「筋肉ですか? いまいち分からないです。骨は分かるです」

「そう思って、医療班が来た時に人体模型を借りておいたぞ。これだー!」


「うう、気持ち悪いです! 怖いです!」

「これはねー、人の体の皮を剥いだ状態だよ」

「か、皮を剥ぐって……」


「人の体は骨と筋肉と内臓で構成されている。この体を覆う赤い部分が筋肉だ。これと骨を強化すると身体能力が向上する。超大陸の人はかなりおおざっぱに体全体を強化していたけどそれだと効率が悪い。まあ、内臓を強化する事自体は正しい選択ではある。肺を強化すると息切れがしにくくなる。でも全体的な強化比率を考えるとそこまで強化しなくても十分って感じ」


「肺ってなんですか?」

「肺はここらへんにあるよー。息をした時に膨らむ部分が肺」


「あたしには難しくてよくわからんです」

「そこらへんは後で教師を付けてあげるから教えてもらって」


「えっ、教師ですか。あたしはお金ないです。いらないです」

「お金は俺が払うから安心して。それに強くなるには頭も良くないといけないんだ。今の話しだって強化魔法を上手く扱う為に必要な情報なんだ」


「うー、そうなんですか」

「頭が良くないと選択肢が狭まる。ナツメが言っていた賢い村人になれば村での地位も安泰なんじゃないの?」


「なるほど! 分かったです。賢い村人でもいいです」

「うん。まずは手から順番に自分の筋肉の位置と、どう動くかを少しずつ確認していこう」



 指一本動かすだけで様々な筋肉が動く。それを自覚して強化すると何も考えずに全体的に強化した時とは比べ物にならない程身体能力が向上する。


 しっかりとした知性を下敷きにした暴力は強い。人と獣の差である。人は体格、身体能力、魔力において全てが優っている相手にも戦って勝てる。経験と知性はそれらを上回る力を秘めているのだ。

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