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「とりあえず名前は考えておく。まずは樹海で生活する為に必要な強化魔法を覚えようか」
「えっ、魔法を教えてくれるですか!」
「そうだよ」
「やったです! 強くなってあたしをいじめる奴をやっつけるです。ふふふ、ですです」
「吸魔鉄の足輪をかけられていたけど魔法は何を使えるの?」
「回復魔法だけです。風魔法をこっそり練習していたら動けなくなるまで叩かれたです。ううう、思い出しても震えるです」
「並行して武術も教えるし風魔法だって教えてあげるよ」
「わー、すごいです! 魔法も武器も教わるのにお金がたくさんかかるです。お金が無い人は強くなれないです。お金がない人は弱いから這いあがれないです。それでやっすい食べ物を食べて魔物化しちゃうです。ここのエルフはみんな綺麗で安心です」
「魔物化?」
「魔物化も知らないですか。しょうがないですねえ、樹海で取れる食料には呪いがかかっているです。でも安くて栄養満点なので自分で解呪して食べるです。でもそんな安物を買う人にまもとな解呪は出来ないので体に呪いが溜まるです。呪いが溜まりすぎると体の一部が魔物になっていくです。最後は全身が魔物になるです」
「しっかり解呪出来れば良い食材なんだけどなあ」
「別の牢屋に魔物化した人が捕まってたです。樹海の食べ物ばかり食べさせられて次第に魔物化していったです。ううう、怖いです」
「うちで出てくる食べ物はちゃんと解呪してあるから大丈夫だよ」
「ぶっ! ここは樹海ですか。嘘です。魔物に殺されるです」
「あー、そういえば飛ぶ時に一応目隠ししたんだよねえ。樹海の中でも結界があるから大丈夫だよ」
「ううう、樹海の食べ物は危ないです。でも美味しいです。ううううー」
「俺達はずっと食べているから大丈夫だよ。さっき自分で綺麗って言ってたじゃん」
「そうです。誰も魔物化していないです。でも樹海の食べ物ですか……。ううう、うめえです」
「樹海の食べ物はしっかり解呪すれば魔力が豊富だから食べるだけで魔力が少しずつ増えるよ」
「えっ、本当ですか!? 嘘じゃないですよね? すごいです! 超大陸では頭の可笑しい人以外は貧乏人しか樹海の食料を食べないです」
少女はさっきとは打って変わって勢いよく食べ始めた。
「ほら、俺達の魔力が多いのは樹海の食べ物を食べていたお陰だからなのさ」
少女は周りのエルフを見た。どのエルフも見た事の無いような膨大な魔力を秘めている。超大陸では限られた人しか見てこなかった少女でもその魔力の多さは理解できる。
「あたしは強くなるです。それで強い村人になるです」
もう村人だよとマサモリは言いそうになった。しかし本人がやる気のようなので余計な事は言わないでおく事にした。
「強い村人?」
「そうです。村人の中でも差があるです。強い村人、偉い村人、弱い村人、賢い村人、駄目な村人です。強かったり偉い村人は階級が高いです。逆に弱い村人はいじめられるです。戦闘でも囮にされるし、畑も小さくて村から遠くにあるです。駄目な村人に分類されたら這い上がれないです。だから強い村人の奴隷になるのが一番安全です」
「超大陸は大変だなあ」
「だからマサモリは偉い村人としてあたしを守らないといけないのです。そうじゃないと、駄目な村人のあたしはみんなにいじめられるですー! 攫ってきた責任取るです」
朝食が終わるとマサモリとシラギクと少女は何もない空地へ向かった。
「これから強化魔法の訓練を始める。強化魔法と一言で言っても使い方は様々ある。今回は基本的な身体能力強化と防御強化をやるよ。一番簡単なのが防御強化になる。防御強化は体外に排出した魔力を硬化させて衝撃を吸収する。身体能力強化は体内に魔力を行き渡らせて身体能力を強化する。とりあえず防御強化をやってみよう」
「はいです! ぶっとばすです」
少女はやる気満々だ。
「まずは体外に魔力を放出して拡散しないように纏う。その後に魔力を硬化させていく。はじめは綿から始まり、次第に水になっていき、最終的にはその水が氷になる。そこまで行くと次は氷を鉄にするってイメージだね。とりあえず魔力を体外に放出して留めてみよう」
「はいです! ぬぐぐぐ」
少女の体からじんわりと魔力が放出される。まずは手の部分から腕のつけ根に向かって魔力が流れる。だが胴まで到達した辺りで流れが急激に遅くなった。
この様子から少女は手から魔法を出す訓練しかしていない事が分かる。得意な部分から先に魔力が流れているからだ。これが均一に全身から湧き出すようにしなければならない。それでも魔力を腕から出せるなら後は時間の問題だった。
「最初はゆっくりでいいよ。得意な部分からゆっくりと全身に行き渡らせるんだ。全身を魔力で覆ったら後はその状態を維持する。すると全身が魔力に包まれた状態を認識するようになって体がそれを覚えてくれる」
「途中で止まったです。難しいです」
「いいよー。そのまま諦めないで続けてー。んんー、じゃなくてぶわぶわぶわーって感じ」
シラギクが助言する。天才型にありがちな感覚指導だ。マサモリにはさっぱり分からない。
「なるほどです。出来たです」
「えっ」
マサモリは驚いた。少女は感覚型のようだ。感覚型の場合は細かい説明をするよりも実践させて、感覚を掴ませた方が習得が早い。
「くっ、今回はシラギクが先生の方が良さそうだ」
「いいよ、まっかせてー」
そこはかとない敗北感をマサモリは感じた。人それぞれタイプが違うのでしょうがないがあれで分かるんだと悲しくなってくる。
それでもシラギクの説明を解読できるようになる為にマサモリも指導を注視した。何度も停滞を繰り返しながら少女は体全体を魔力で包み込んだ。
「はぁはぁ、出来ましたです。でももう魔力が残ってないです。うう、今日はお終いです」
「魔力を補充するよ」
「えっ」
マサモリは少女に魔力を補充した。少女の魔力量は少ないのでマサモリから見れば補充は容易い。
「あああああ、熱いです。なんだこれです!」
「魔力を補給したからとりあえずその状態をしばらく維持」
「すごいです。元気一杯です」
少女が魔力を使い切る前にマサモリが魔力を補充した。魔力が少ないと魔法で訓練できる時間が短くて魔法の上達に時間がかかる。超大陸だったらこの強化魔法の訓練も相当な日数がかかっただろう。
それに安全性を考えたら魔力を使い切る事自体が危険だろう。しかし樹海は安全でエルフは使える魔力が減ったとはいえ、超大陸のエルフに比べると魔力は豊富である。
魔力を補充出来るエルフが補助すれば魔法の習得が容易なのである。富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなるといった具合なのだ。




