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『治ったよ!』
シラギクが鎌鼬の横合いから助走をつけて叩き付けた。身を守る為に出していた刃が砕けて鎌鼬が悲鳴をあげた。そして鎌鼬は体全体に一斉に刃を生み出し、発射した。
マサモリとタカチヨは結界魔法で刃を受け、シラギクは棍棒で受けた。三人が守りに入ったその時に鎌鼬は地面を踏み込み逃走しようとした。しかし鎌鼬は足元にあった木の葉に足を取られて体勢を崩しただけに終わった。
『かかった! いまだ!』
枝に落ちている木の葉に紛れて機を伺っていたタカチヨのゴーレムが鎌鼬の足を掴み、足元から纏わりついた。マサモリは鎌鼬の頭を狙って斬りつけた。
『はああ!』
マサモリに一瞬注意が向いたのを確認して、シラギクは大きく振りかぶって棍棒を叩き付けた。鎌鼬の体全体に衝撃が走り、鎌鼬は口から塊のような血を吐いた。
体全体からうっすらと刃が飛び出しているがそれは鎌鼬が自覚して出したのではなく、シラギクに叩かれて飛び出した様子だ。シラギクが止めを刺そうとしたが最初の一撃で鎌鼬は絶命していた。
『鎌鼬を倒したのは良いけど、この前の奴ではなかったな』
『色々な個体がいるんだねー』
『有名な妖はいくつもの伝承がある。つまり様々な攻撃パターンを持っている。今回は切り裂く事と毒に特化した個体だったみたい』
『俺は毒が効きにくいから良かったけど、一時的に壁を出来る人が居ないと厳しかった』
『そうだね、精進精進』
『防いでも躱しても、傷を付けるというだけじゃそこまで脅威じゃないけど、毒の方が危険だったね。今回は伝承の組み合わせが凶悪すぎだよ』
『うん。でも防げない攻撃っていうのは心理的に怖いな……』
鎌鼬の毛皮は高く売れたが戦いが長引いたせいで品質が少し落ちていた。しかしマサモリは良い経験になったと思った。同じ妖でも違う伝承攻撃を使ってくるのは知識では知っていた。しかし今回の鎌鼬は前回の鎌鼬とは正に別物だった。
特に毒は戦い慣れしていないと焦ってしまう者が多い。一緒にいるのがタカチヨではなく、ハナエだったら恐慌状態に陥っていたかもしれない。そこまで考えてマサモリはふと思いついた。
『あれ? タカチヨの方がハナエより確実に強いよね? 今回だって冷静で心強かった。しつこいようだったらハナエに怒ってもいいんだよ』
『うん、僕の方が強くなったんだけど……。なんというか生まれてからの長い抑圧でビビっちゃうというかなんというか。今までの僕の失敗をいつまで経っても覚えてるとか……』
『全く、ハナエちゃんは駄目なお姉ちゃんだね。私からも言っておいてあげる。ぷんぷん』
『あ、ありがとう』
マサモリは富士霊樹の探索で吸魔鉄の剣を使い続けた。何本も折ったがお陰で収穫があった。吸魔鉄の剣で吸い取った魔力は、エルフが毎日供給しなければいけない魔力として見なされるという事だ。
つまり、吸魔鉄の剣を使えば使う程、一日に捧げるべき魔力が減る。長老族は自動徴収分の八割と手動で供給する一割五分のノルマがある。一割五分の分は魔物から魔力を吸い取っても良いのだ。
といってもマサモリが半日以上富士霊樹を探索していても吸魔鉄で吸収できる魔力の量は微々たるものだ。しかし、必ずしも自分の魔力を捧げなくてはならないという訳ではないのが分かったので自由度があがった。
そう考えるとシラギクは常に魔力を捧げていたのでジェルセにとっては上客だったのだろう。
マサモリ達は気ままに富士霊樹を探索し続けた。しかし突然、呼び出しを受けた。
「超大陸の星外生物を放置しておくと危険だそうだ。軍師、占い師が不穏な気配を感じ始めている。マサモリはもちろん行かないよな?」
ヒデヤスが顔をしかめて言った。
「行く行く!」
「行かないよな?」
「行くってば」
「楽しい事なんて一欠片もないぞ。向こうに行ったら現地人をじゃんじゃん殺すぞ」
「えっ、そうなの。でも一回位は行っておきたいよなあ」
「私も行ってみたい!」
「若いお前達にはまだ早い」
「ボタンも一緒に行きたいってさ」
「む、そうなのか。でもしかし、うーん」
「マサモリが行きたいっていうなら連れて行ってあげてー」
「アオイー。でも万が一を考えるとなあ」
「シラギクちゃんも行くなら大丈夫よー。もちろん、あなたが守ってくれるんでしょー?」
「正直子供には刺激が強すぎると思うんだが……。仕方ないか、いいぞ。でも着いて来るからには私の指示は絶対だ。そして、もし超大陸で捕まるような事があったら自裁せよ」
「わかった」
「はーい」
「お前達なー。まあ、いい。もし勝手な事をしたらすぐにエルフの森に送り返すからな」
「やったー!」
「わーい」
ヒデヤスは頭を抱えた。アオイはそんなヒデヤスにそっと手を添えた。
「超大陸にはエルフの森の物を持つ込まないから手ぶらで良い。お前達には子供用の服を手配する。超大陸では子供はすぐに攫われるから絶対に気を付けろ。向こうでは基本的に念話で話す。余計な事は絶対に話すなよ。集合はここ、三日後の丑三つ時だ」
「「はい」」
マサモリとシラギクはタカチヨに超大陸へ行くことを伝えた。タカチヨはマサモリ達が超大陸へ行く事に強く反対したがマサモリ達に押し切られた。
マサモリは自分で超大陸へ行ってみないとどんな場所だか理解できないと思っていた。もしも、エルフの森を襲撃した人達と同類が住んでいるなら踏ん切りがつく。
しかし自分の目で確かめない内は方向性が決められない。とにかく超大陸とそこに住む人たちを知りたかったのだ。
マサモリは転送陣でボタンを迎えに行った。ボタンは喜んで今回の超大陸行きに参加するようだ。しかしヒデヤスからボタンは別行動だと指示された。ボタンのドワーフ語りを延々と聞かされるよりは良かったのかもしれない。
ヒデヤスから支給された服は服というよりボロ布に近かった。そして離れた場所からでも異臭が漂ってきている。
「この服を着るんだ。そして洗う事を一切禁じる。どうだ? 行きたくなくなったか?」
「くっさ」
「くしゃい」
シラギクは鼻をつまんでそう言った。
「現地の人はこんなのを着ているのか。武器は? 防具は?」
「子供だから防具はなしだ。武器はこの錆びた短剣と折れそうな剣を用意した」
「殴った方が強いじゃん」
「気軽に殴るのも禁止だ。強さが一瞬でバレる。武器をしっかり使え。こんな武器でも向こうでは一財産だから大事に扱えよ」
「なるほどなー」
マサモリは強く握れば砕けそうな短剣を手にして爪先で弾いてみた。そこらへんに生えている樹の細い木の枝の方が頑丈だ。
こんな武器を使って戦うなど、罰ゲームでしかない。しかし、これが超大陸の武器かと思うとマサモリはワクワクしてくるのであった。




