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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 知能が高くなると普通の生存域を抜け出す個体が出てくる。今回の大狒々はそれだったのだろう。いくら富士霊樹の下層だからといって油断は出来ない。


 生物は本能的に縄張りを持とうとする。それは逆の意味では生物をその場所に縛り付ける枷でもあるのだ。良い餌場があるのにわざわざ他の場所へ行って餌場を探す苦労はしない。しかし知能が高くなるとその軛から脱する。


 樹海でも強力な個体が放浪している場合がある。そういった個体がエルフの森に流れてくる事も度々ある。知能が高いと戦いの経験をすぐに吸収して強くなる。知能が高いということはそれだけで最大限の警戒をするに値するのだ。




 タカチヨが触媒として試した後に骸骨の杖と赤面は売り払った。骸骨の杖は予想通りに骸骨のゴーレムが出来たが赤面の方は狒々というより猿と鬼を混ぜ合わせたような形を取った。


 赤面のゴーレムは力も強く、素早かった。それだけ見れば良い触媒なのだが生み出されたゴーレムは瘴気を纏っていたので普段使いするには危険すぎた。



 大黒狒々の毛皮とそれらが売れたお陰で三人の懐は潤った。タカチヨはそのお金でゴーレムの触媒を買った。しかしマサモリとシラギクは特に欲しい物はなかったので結局使わずじまいだった。


 マサモリは武器を買うべきなのだが気に入る物が見つからなかったので再び吸魔鉄の剣を使う事にした。本来なら防具もしっかり買うべきなのだがマサモリもシラギクもまだ成長期なので高価は防具を買うには早かった。


 しかし鯉の鱗帷子では富士霊樹の魔物の攻撃は防げないので新調する事にした。二人は富士霊樹でも安くて硬いと人気の大狒々の皮鎧を買った。大人になっても背丈が伸びないエルフがいるお陰で子供の体格でも装備できる品が豊富なのはマサモリ達にとってありがたかった。



『やった』

『始めてだ!』

『やっとだ』


 三人は富士霊樹の下層から登って階層にして八階付近で初めて琥珀を手に入れた。魔ヤドリギの核となっていた琥珀はしっかりと魔力を帯びている。光にかざしてみると光り輝いている。


『小さいけど魔力はしっかりしている。これならゴーレムの触媒に使えるよ』

『おめでとう』

『ありがとう』


 富士霊樹に登るようになって結構経ったが魔石は未だ収穫無しだったのでマサモリは胸を撫で下ろした。


 下層にしか行けないので核のある魔ヤドリギが少ないのはしょうがないのだが本当に出ないのも困る。せっかく富士霊樹に来たのだからタカチヨには目標を達成していってほしいとマサモリは思っていた。




 三人が富士魔蜂を二体倒して食べながら歩いていると魔力の籠った風が吹いた。風は最初から吹いていたがその風の中に仄かな魔力が混じった。


 最初の頃はタカチヨしかそれを認識できなかったが何度も経験する事でマサモリ達にも風に乗った魔力が感じられるようになった。


 相手に悟られないように警戒態勢に入った。敵が奇襲してきてもそれにカウンターを合わせて反撃できるはずだ。シラギクはかなりやる気になっているようなので、それが敵に悟られないかマサモリは不安になった。そんなマサモリの不安を余所に強風が一面に吹き荒れた。


 三人の真横から巨大な風の塊が襲い掛かってきた。シラギク側だったのでシラギクは待ってましたと言わんばかりに棍棒を叩き付けた。それでも風の塊はシラギクの攻撃によって進路を変えながらも走り抜けた。


 マサモリは大きく避けながら風の塊の端に斬りつけた。回避を優先したせいで攻撃は浅く、手応えは感じられなかった。シラギクの攻撃で進路が歪められなければもう少し深く切り込めたはずだった。


 タカチヨは結界魔法を使って攻撃を防ぎ、その勢いを利用して吹き飛ばされながら距離を取った。風の塊が木の枝を利用してマサモリ達の方へ方向転換してくる。


 その時に風の塊が五メートルを超える巨大な鎌鼬である事が分かった。巨大な鎌鼬は腕や顔、体中から刃を生やしている。迂闊に攻撃を受けるのは危険だ。


『マサモリ、怪我してるよ。しかも黒くなってる』


 マサモリはシラギクに言われて初めて自分が負傷している事に気が付いた。回避を優先していたし、強化魔法をしっかりかけていたので怪我を負わされるとは思いもよらなかった。もちろん痛みもなかったはずだ。


 しかし、体を見てみると小さな傷があちこちに出来ていて黒い血が流れ出ている。そして傷口は黒く腐れるように広がりつつあった。


『シラギクも血が出てる。タカチヨに直してもらって』

『あ、本当だ。体がだるくなってきた』


『了解、シラギクを治すよ』

『しばらく俺が足止めする』


 方向転換をしてきた巨大な鎌鼬にマサモリは斬りかかった。シラギクへ攻撃を向かわせない為だ。巨大な鎌鼬はよく見ると体に血が滲んでいる。


 シラギクの一撃が効いているようだ。しかしそのままにしておくと傷は回復してしまう。追撃したい所だがマサモリは自分の傷口から体が痺れてくるのを感じた。


『ふんっ』


 マサモリは気合と共に体の魔力を活性化させた。すると黒ずんでいた部分がじわじわと正常な肌色に戻っていく。傷は癒えなかったが毒の影響は解除された。


 そして積極的に巨大鎌鼬に近づいた。離れれば助走をつけた攻撃が、近づけば体中から刃が生み出される。しかし毒さえ気にしなければ助走をつけた攻撃よりも近づいて行動を阻害した方がマサモリには利がある。


 鎌鼬はマサモリが近付いて来ると不快そうに咆哮をあげた。シラギクが傷付けた部位を攻撃しようとするが鎌鼬は体から刃を生み出し、マサモリに応戦する。幸い、傷が重い部分からは刃が生まれなかった。


 しかし体内から生み出される刃の余りの多さに阻まれて追撃が出来ない。体から生み出された刃を剣で受けたマサモリは触られてもいないのに小さな切り傷が刻まれた。


 再び毒が体に回りそうになるが魔力を活性化しているのですぐに黒い傷痕は小さな切り傷に戻った。マサモリが攻めあぐねていると鎌鼬の傷は回復してしまった。


 今までは回復に重点を置いて守りながらの戦いだった鎌鼬が一転して攻勢を強めてきた。マサモリは吸魔鉄の剣で防ぐが体から飛び出してくる刃の多さに圧倒されて次第に押されていった。


 すると左右から団扇が飛んできた。団扇はその軽やかな見た目とは裏腹に鎌鼬の生み出す刃を断った。団扇の数が次第に増えていくと団扇の何個かが鎌鼬の体に突き刺さる。再び守勢を強いられて鎌鼬は苛立った唸り声をあげた。




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