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『魔ヤドリギが苔に襲われている……』
鳥の巣のような魔ヤドリギに苔の様なものが半分覆いかぶさっている。
『魔苔だね。ヤドリギが大好物らしい。ヤドリギに核が無ければ放置でいいね』
『食べられる?』
『え、どうだろう。分からないよ。苔の中には食べられるのがいるらしいね』
『よし、挑戦してみよう』
『美味しかったら私も食べてみる』
マサモリは念動魔法で魔苔を少し引きちぎった。感触は柔らかくてゴワゴワしている。結界に入れてすぐさま調理した。どの程度火を通していいか分からないので強めに火を通した。
『よし、では……。まっず!』
マサモリが塩を振りかけた魔苔を口に入れた。モサモサとした食感と共に土と海藻を混ぜたような味がした。ついでに青臭い。
『これはハズレだ。土と生臭い海藻の味がする』
『私はいらないー』
『大丈夫? 口から出したら?』
『せっかくだから全部食べるけど不味すぎて逆に薬効がありそうな味だった』
『美味しい奴だけ食べよう』
『他に食べられそうなのはある?』
『ここらへんだと他には大蜘蛛とかまいたちだね。鎌鼬は肉は臭いらしい、毛皮だけ採取しているね。大蜘蛛はどうだろう、あんまり食べたくないな』
『大蜘蛛だけか。大蜘蛛は何が売れるの?』
『大蜘蛛の巣だね。巣を作る時には特別な糸を出すからそれが高く売れるよ。巣に居ないでうろうろしている場合があるからその時はお金にならないみたい』
『私は強いのと戦いたいな。強いのはいないの?』
『ここらへんに出てくるのは大狒々だね。上から魔物が落ちてきたりするけどここは一番下から大丈夫だと思う』
『大狒々か。腕がなるよ』
『狒々は食えないなあ……』
人に近い生き物は食べると病にかかってしまう。大体の毒は魔法で完治できる。しかし人型の生物を食べてかかる病気は緩和が精々だ。その他にも毒が強すぎると魔法では完治出来ない。
強い毒でもかかってすぐ解呪や解毒魔法をかければ有効だ。毒や呪いにかかったり、かかった可能性がある場合はすぐに魔法をかけている。魔力が多いので成せる技だ。
マサモリは耳を澄ましながら富士霊樹の中を進んだ。すると木の枝が軋む音が聞こえた。
『何かいるね』
マサモリが三人分の棍棒を持った三メートルを優に超える大狒々が樹のしなりを利用してマサモリ達へ襲い掛かって来た。マサモリは振るわれる棍棒に剣を叩き付けた。
棍棒ごと大狒々は吹き飛んだが、枝を利用して衝撃を吸収して再び襲い掛かってくる。棍棒の質量が多すぎるので魔力を吸いきれない。表面を少し砂にしただけで棍棒は健在だ。
マサモリ、シラギク、ゴーレムで三角形を作って中央にタカチヨを配置した。次々と大狒々達が姿を現してくる。強さは赤鬼に比べると相当強いが強化魔法をしっかりかけられる魔力があるので赤鬼達と戦っていた時よりも余裕がある。
大狒々はマサモリ達に対して常に複数匹で攻撃を加えてくる。それに加えて石や矢が飛んでくる。実力以上に戦いにくい相手だ。攻撃を加えてもすぐに引いて致命傷を防ぐ戦い方は敵ながら天晴だ。遠距離攻撃はタカチヨが団扇を振るって跳ね返した。
『強いけど今の強化魔法だと楽勝だね。そろそろ倒すよ』
シラギクはそういうと先程よりも少し強く踏み込んだ。大狒々はシラギクの変化に気が付く前に棍棒ごと体を真っ二つに打ち払われた。大狒々達の間に戦慄が走った。
シラギクが攻撃に転じて襲い掛かっていくと蜘蛛の子を散らすように大狒々達は逃げ出した。しかし途中で向きを変えた。
『蜂がいる。フェロモンを放つからすぐに退避だ!』
タカチヨの指示でマサモリ達も一目散に逃げ出した。マサモリはその場に残しておいた式神を使ってその後の様子を観察した。
運悪く蜂のフェロモンを浴びた大狒々は悲鳴をあげながら蜂に追われている。最初は数匹だった蜂もすぐに十匹を超えた。すると直接的な攻撃はせずに毒針だけで大狒々を攻撃しはじめた。
大狒々が動けなくなると蜂達は大きな顎で大狒々を分解して運んでいった。大狒々の血溜りだけが残ったがすぐに富士霊樹に吸収されていった。
残りの大狒々も運悪く集まって来た蜂に見つかったようで追いかけっこが繰り広げられていたが蜂の方が有利だった。しかしそれでも勇敢に戦う大狒々もいて逆に蜂を叩き殺している。
蜂達は最初にフェロモンが発せられた場所を中心に巡回を続けている。
『はぁー、すごいなー。私達ならゴーレムを見捨てれば蜂から逃げられるけど他の動物は大変だね』
『ゴーレムのコアはすぐ分離できるから囮にしちゃって大丈夫だよ。ここなら木の葉のゴーレムが作れるからすぐに補充できる』
『木の葉のゴーレムかあ』
『うん、土のゴーレムに比べると軽くて攻撃力も少ないから壁には使えない。だから妨害を中心に使うんだ。蜂から逃げられなさそうな時はゴーレムを向かわせて注意を引くね』
『フェロモンを利用して蜂をおびき寄せて狩りまくりたいね』
『うーん、強い個体も居るから止めておいた方が良いと思うよ。確実に怒られそう』
『そうか、蜂は美味かったからまた狩りたいな』
マサモリ達は蜂に見つからないように素早くその場を後にした。随分移動したせいで現在地が分からなくなってしまった。しかし最下層なので樹から飛び降りればすぐに地面だ。
道に迷っても下に行けばすぐに帰れるので少し緊張感が薄れてしまう。マサモリが下の方を見ながら歩いていると足元の枝からひょっこり何かがしみ出してきた。
『うわっ』
マサモリが驚いて飛び退くとタカチヨとシラギクは戦闘体勢になった。樹の枝から握りつぶされた土偶の様な霊体が顔を出している。
『あっ、木霊だね。いたずら好きだから突然飛び出してきて驚かせてくるんだ』
『木霊、かわいいー』
『驚いた。無害なの?』
『ここらへんではそうだね。上に行くと木霊も自我が強く出てきて悪さをする個体が出てくるから注意しろって言われた事がある』
『ふーん、木霊は倒していいの?』
『えー、可哀想だよー』
『人に害をなす個体は消しちゃって大丈夫だよ。いたずら程度なら許してあげよう』
木霊はいたずらが成功して嬉しそうに震えている。霊体は普通の攻撃が効き辛いので戦う場合は厄介な相手になる。通常攻撃は武器に魔力が無いとほとんど効果をなさない。
エルフの持っている武器は全て魔力を帯びているので有効なのだが物理的な攻撃と違って効果が薄い。戦わないならそれに越したことはない。
長老族はそういう厄介な相手を倒したり、封印したりしなくてはならないので長年研究されてきた。しかし今はその技を披露する時ではないようだ。
気が付くと外縁部まできていた。木の葉が常に風に揺れてざわついている。静かだった内側とは違って他の生物の存在を探知し辛くなった。外側には魔ヤドリギや魔苔はほとんど見かけなくなった。
枝も細くなっていて木の葉が生い茂っている。大狒々等はここまで来たら重すぎて下へ落ちてしまうだろう。三人の体格はまだ小さいので細い枝でも気にせずに行き来できる。ゴーレムは手前の枝の太い場所に置いて来た。
三人がゆったりと景色を眺めていると一陣の風が吹いた。風が指向性をもって三人に襲い掛かってきた。三人は各々防御態勢を取った。マサモリは剣を振るい、シラギクは棍棒で防いだ。
タカチヨは結界魔法を張った。マサモリは剣を振るったが文字通り、空を切った。手応えが全くしなかったが風に紛れて飛んできた殺気は霧散した。
『鎌鼬だ』
『もう殺気がしないけど逃げられた?』
『そうみたい』
『残念だ。次に見つけたら毛皮にしてやろう……』
下手人を探して外縁部を回ったが結局痕跡すらなかった。魔法を使った跡には魔力跡が残る。しかし富士霊樹ではすぐさま樹に吸収されてしまうので手掛かりは掴めなかった。
探索というより探検になってしまったが下層にいる生物を観察して周った。上に上がる程、それらの生物は強くなり賢くなる。まずは彼らの生態を学んでいった。




