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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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6


 若々しい老夫婦の登場にマサモリは一安心した。


「二人はここで待機してて。俺は回収にいってくる」

「儂が護衛についていくぞ!」

「爺さんはここで大人しくしてな。マサモリ、気を付けていってきな」


「うん。とりあえず起きている人がいるか見てくるよ。ばっちゃんはここをよろしく」

「はいはい。なんか分からない事があったらすぐ連絡するんだよ」

「わかった」


 マサモリは集まった人々を書き記した住民票を祖母に手渡すともう一枚ある住民票を持って走り出した。手元にある住民票には回収しなければならない可能性が高い人々が記されている。


 趣味で数年間寝ている人には念話が届かない。家族が居れば一緒に連れてきてくれるのだろうがそういう人に限って孤独を好み、思索にふけっている。


 マサモリは最初から彼らを迎いに行く為に場所と行く順番を考えていたのだ。



 ルートを考えていただけあって早くも最初の一軒目に到着した。小屋は日当たりが悪いのもあって、苔に侵食されていてほとんど苔玉のようだ。


「音夢寝太郎さんー。起きてるー?」


 人が長い間出入りしていないのは苔を見て分かる。しかし最初はまず声掛けからである。少し待っても反応が無いのでマサモリは探索魔法を使った。家の中には座禅を組んだ何かがあった。


「お邪魔します」


 苔が厚く積っていてどこに戸があるのかわからなかったがなんとか苔を掘り返して戸を開けた。部屋の中はじめっとしていて、苔の胞子が部屋中に充満している。そこには石になって座禅をしているエルフが鎮座していた。


「失礼するよっと」


 石エルフをそのまま魔法で持ち上げると懐から取り出した小さなしおりを取り出すと額に張り付けた。


『一名様、ご案内~』


 マサモリは念話した後に石エルフに結界をかけて放り投げた。しばらくすると石エルフはゆったりとした軌道をえがいて等速で飛んで行った。それを確認したマサモリは別の場所へと向かった。


 ブラックリストを元に趣味人を回収して回ったが隣人が回収してくれている場合も多く思ったより早くブラックリストを消化する事ができた。樹の様になって樹に同化しながらへばり付いていたエルフには手を焼かされたが緊急事態なので強引に引き剥がした。


『住民の九割が寄合所に集合済み。残りの皆も気を付けて集合しな』


 祖母の念話を聞きながら、突然の事態の割には集合状況が良くてマサモリは一安心した。全員揃うまでは油断できないが今の所は順調だ。



 樹海面上ではミピピッシ号は順調に探索域を増やしていった。進めば進むほど樹海深が浅くなっているので結界魔法使いにも余裕が出てきた。情報量が増えていく報告書を眺めながらブレペイスはほくそ笑んだ。


『迷いの結界が通じない! どういう事なんだ。黒船はまっすぐ西進している。結界が通じてない! くそっ!』


 エルフの森には迷いの結界が張られている。樹海面上でも樹海の中でも迷いの結界は効果を発揮するのをエルフは何度も試している。エルフの森を守る為の最大の結界がいとも容易く突破された事に式神を通じて黒船を監視していた千葉村の当代村長は体が震えるのを自覚した。


 千葉村の村長は黒船が到達する前に東側の海岸線に配備されていたゴーレムを黒船の探索魔法の範囲外に移動させておいた。もし、油断してそのまま残して置いたら完全に見つかっていただろう。


『ち、千葉村の村民は速やかに北上して茨城村へ移動せよ。案内人は……』

『東京村の村長だ。千葉村の村長は村民の避難に当たってくれ。監視は私が変わる』

『東京の! すまん、助かる』


『東京、山梨、神奈川村は北側の村へ避難を始めろ。黒船はゆっくりと西進中。静岡、長野、愛知、岐阜村は移動の準備を始めろ』


「まさか俺の代でこんな事になるとは……」

「仕方がないのー。出来る事をするしかないわー」

「はは、お前はこういう時も変わらないな」


 槍を片手に持った黒を主体としたほっそりとした甲冑を切る男と巫女服の上に胴と草摺だけを付けた女が樹海の中を駆けている。東京村長老の源エルダー白川秀康しらかわひでやすとその妻の白川蒼しらかわあおいだ。


 ミピピッシ号は樹海の木の葉に揺られながら西へと進んでいる。位置的には千葉村の南よりを進んでいる。運が良かった事に千葉村は北部と北西部に住む者が多く、南部は山岳地帯でほとんどエルフは住んでいなかった。


 このまま西に進むと神奈川村の集落がある場所に進んでしまうので探索魔法で見つかってしまう。エルフは逃げても建物が残っていると人が住んでいる事がばれてしまう。


 ヒデヤス達は黒船の監視と黒船の探索魔法の範囲内に入ってしまう可能性のある建物や壁畑を移動、破壊して痕跡を消している。


 しかし神奈川村には進行方向に集落があるので千葉村と違って対処が難しい。ヒデヤス達の行動は一種の時間稼ぎにすぎない。


『軍師の助言はまだか?』


 彼らは太古より大きな出来事が起きた時は軍師の一族の助言を参考にしていた。軍師の一族は超大陸に住んでいた頃から既にあった一族で戦争で大きな功績を残してきた。しかし彼らの助言には大きな問題点があった。


 助言を受け入れても必ず勝つ訳ではないし、むしろわかってて負ける時すらあった。何故そのような方策を取るのか上手く説明できない、もしくは聞いている側が理解できない場合が多数あった。


 それでも軍師の助言には歴史があり、長い目で見ると意味は分からなくても何となく全体的に上手くいってるんじゃないかなと思われていた。


 軍の技術進歩によってよくわからない助言に頼らなくても勝てるようになると軍師は排除されていった。軍から排除された軍師達は戦に疲れていたエルフ達を率いて樹海へ向かったのだった。そして樹海に安住の地を見つけた事で軍師の地位は確固たるものとなった。


 ヒデヤスはさっさと黒船を沈めてしまえば良いと思っている。多くのエルフもそれに賛同するだろう。


 だから軍師の助言を待ちながらも心は既に船を沈める事に集中していた。まだ幼い息子のマサモリに戦って欲しくないし、戦っている自分の姿を見てほしくもなかったから早く終わらせたかった。


 戦いになると結界魔法が使える長老族が現場に居る方が安全性が断然上がる。長老族は普通のエルフ達より魔力が多く、そのせいか子供もより生まれづらい。


 結界の維持にいつも魔力を使っていたので他のエルフよりも魔力が伸びやすかった。それが長年続くと一般エルフと長老族のエルフの間には埋める事の出来ない魔力差が生まれた。


 すると長老族のエルフと普通のエルフの結婚が徐々に減っていった。最初は誰も気が付かなかった。しかし長老族同士の子供が強い魔力を持って生まれると同じ長老族のエルフにしか興味を向けなくなっていった。


 今では長老族間でしか結婚が成立しなくなってしまった。


 長老族は一般のエルフよりも長寿になるのが早かったが生まれる子供の数と間隔が伸びた事で徐々に数を減らしていった。


 今は長寿化により死なないので減少にストップがかかったが子供不足はどの長老族も抱える大問題である。


 ヒデヤスが息子の為に決意を固めていると念話が届いた。



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