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結界魔法使いにとって一番重要な仕事はエルフの森に結界を張る事だ。その仕事はエルフ全体にとっても最重要で専門性と熟練性が必要だ。そういう面もあって、結界魔法使いの一族は今では長老族と呼ばれいる。
長老族はエルフの森を囲う迷いの結界の維持、管理を仕事としている。長老と言っても権力はほとんど無い。
迷いの結界とは迷いの木が出す幻術を利用した結界である。迷いの木の出す幻術を利用して結界の中に入る者に幻術を見せて迷わせ結界の外へ誘導する。
エルフでも同じ結界を張る事はできるが結界をかける範囲が広いので迷いの木を触媒として利用している。
迷いの木をエルフの森の様々な場所に配置する事でエルフの森全体を囲う結界を作り出した。そしてその維持の為の魔力を常に長老族が供給している。
そのお陰か結界の維持を担当する長老族は他のエルフよりも魔力が高くなった。代を重ねていく内にそれは顕著になり今では結界の維持は一族の家業となっている。
「侵入者は皆殺しじゃー!」
強大な魔力を纏った禍々しい赤甲冑の男が巨大な座布団を五枚並べたような刀を片手に寄合所の前の広場に飛び込んできた。
「まーさーもりぃ! 爺が来たぞ、もう安心じゃあ!」
「じっちゃん、ばっちゃん。お帰り」
赤甲冑の男に続いてふんわりと薙刀を持った巫女服の若々しい女が降り立った。赤甲冑の男は兜を取って脇に抱えた。中からはこれもまた若々しい男の顔が現れた。
男の名は源エルダー白川木米。マサモリの祖父だ。
女の名は源エルダー白川貴子。マサモリの祖母だ。
超大陸のエルフの寿命は二百歳前後である。人に比べて寿命における若い時期の割合が長い。ハーフエルフになると百五十歳前後でエルフの母から生まれた場合の方が若干寿命が増える。
クォーターエルフは人より少し長生きだ。しかし若い期間が長く、魔力もそこそこ高いのでエルフの血を求める者は減らない。
エルフは寿命が長い反面、子供が生まれ辛い。特に魔力が強いエルフは子供が出来にくい。その代わり、子供が出来ると両親の魔力が強ければ強いほど子供の魔力も強くなる。
一時期、エルフの人口を保つ為にハーフエルフを増やそうとした時期があった。統一王亡き後、戦乱の時代だ。
エルフは種族としての優位性と戦いを防衛に重んじていたので長い間勝ち続けた。しかし戦いが長引けば長引くほど戦死者が増し、人口不足が自覚された頃には既に手遅れになっていた。
エルフ同士よりもエルフと人、亜人の子供は出来やすかったが人口不足を解消できる程まではいかなかった。それでもハーフエルフにはハーフエルフなりの利点があり、戦況に影響を与えるようになった。
人の種族寿命は長くて百歳、亜人は大半を占める獣人を例にすると百五十歳、環境の違いで変わるがその六から八割が平均的な寿命になる。
平均寿命が低いのは暮らす環境の劣悪さが原因である。金持ちや王族は普通に比べて遥かに長寿となる。多くの人の死因は戦死だ。
ハーフエルフはエルフに比べて寿命が短い分、成熟が早かった。彼らは人手不足寸前となっていたエルフにとってはありがたい存在となった。だが上手くいきすぎたのが良くなかった。
人はハーフエルフ自体に恐怖した訳ではなかった。強さはやはり純粋種のエルフに比べて劣るし技術も促成栽培な為お粗末であった。本当の恐ろしさはクォーターエルフの存在だ。
人並の成長と成熟速度を持った、人より魔力と寿命が優れている個体。それはハイヒューマンではないだろうか。
エルフの血が薄まれば薄まる程、子供もできやすくなったので、他の亜人は影で人を揶揄して嘲笑った。しかし自分達もしっかりと危機感は感じていた。
亜人とエルフが子供を作るとどちらかの特性に偏った子供が生まれる。普人はどの種族と交わっても交わった種族の血が薄まった状態の子供が生まれる。
ハーフエルフの段階でエルフ達から見て魔力の少ない個体ができてしまった。魔力の少ない上に見た目も亜人種になった子供が出来たのを見て、魔力や外見を種族の誇りとしていたエルフは強い拒絶感に捕らわれた。
人口が多く、労働力の低い普人の奴隷は価格と数の面でも優れてので、それ以降ハーフエルフの全ては普人との間に作られた。
亜人種に偏った外見のハーフエルフは個としてはかなり優秀だった。亜人の強い体とそれを補う魔力が合わさってかなり均衡の取れた優秀な戦士が生まれた。
強化魔法で身体能力を向上させれば若干低くなった身体能力を補えるし、強化魔法以外の魔法も程々に使える。魔力は種族差が大きく、そのうえ元の魔力が大きい程伸びしろがある。魔力は重要な資源、資質だったのだ。
亜人はエルフと亜人のハーフエルフを見て、人はクォーターエルフを見てエルフを滅ぼさなければならないと心に決めた。だが管理できる範囲内であればそれは重要な資源と化す。その結果が今の状況だ。
超大陸にいたエルフの歴史は以上となる。樹海に移住したエルフは長い樹海での生活で最初は数を大きく減らした。しかし今のエルフの森と呼ばれる不動プレートにたどり着くと徐々に数を増やしていった。
樹海の生活に適応したエルフの体には驚くべき変化が現れた。寿命が徐々に増え始めたのだ。近年では千歳でも元気なエルフが増えた。寿命が増えすぎて寿命が分からなくなる始末だ。
樹海のエルフは普通に成長すると八十歳で人間で言う二十歳に体が成長する。そこからは非常にゆっくり年を取る。中には二十歳で人の二十歳の体格に成長する子供もいるし、八十歳になっても人の十歳の体格のエルフもいる。
一番体格が成長しないエルフは人の十二歳の体格で体の成長が止まってしまった。同じ年齢でもエルフによって体の成長速度が全く違う。
これにはエルフの精霊化が原因となっていると考えられている。樹海での生活に適応した事で体が精霊化し始めた。精霊化が進むと食事を取らなくても周りの魔素を吸収するだけで生きられるようになる。
エルフの寿命が延びる事で新しい問題が発生するようになった。精神の死だ。年老いたエルフの中には体は若くて健康なのにボケ始めて次第に心が動かなくなっていった。
エルフの体や魂は樹海に適応して進化していったが心は人のままだ。長い年月を生きるにはエルフの心は弱すぎた、普通過ぎた。
解決策はすぐ見つかった。趣味を楽しめば良いのだ。心が止まってしまったエルフが居る一方、毎日元気に人生を謳歌している老エルフは元気そのものだった。人生を楽しむ、これが最良の特効薬だとエルフは直観した。
一人最低一つの趣味を持つ事が義務付けられた。食べる事、寝る事、人に迷惑をかけない範囲ならなんでも趣味と認められるようなった。それに付随して人の趣味を意味もなく批判したりする事は禁止となった。
子供の頃の感性を大事にして初心忘れべからず。新しい物事が億劫になって受け入れられなくなったり、毎日がつまらなくなるのは心の老化の第一歩なのだ。




