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マサモリの嫌な予測が当たり、鬼の気配を感じた。
『鬼に見つかった』
『数は?』
『二体だ』
『私も二体だと思う。どうしよう? 逃げる? 戦う?』
鬼は遠巻きにマサモリ達を観察している。最初は二体だったがマサモリ達が念話をしていると鬼の数が一体増えた。
『三体になった』
正に泣きっ面に蜂だ。しかし弱った敵を狙うのは自然界では当たり前の事なのだ。
『悩んでもしょうがないしこれ以上増えると面倒だから倒そう』
『おっけー!』
二人は突然振り返って遠巻きにマサモリ達を観察している鬼へと向かった。そんな二人に手槍と石が飛んできた。二人は簡単に弾いて鬼へと対峙した。
さっき武器に巻いた和紙が効果をはっきしている。木の棒のままでは雑に攻撃を受けたら武器が壊れてしまっていたかもしれない。
マサモリ達を追っていたのは三体の黄鬼だった。マサモリが襲い掛かると黄鬼は一目散に逃げだした。マサモリは足元の小石を黄鬼に向かって投げつけようとした。
投げる時にマサモリはふと気が付いた。これは重量術が生かせるタイミングだと。マサモリは自分にかかる重力を意識して普段とは違う深い踏み込みをして石を投げた。
樹々を傷付けないように投げたので頭を狙う事は出来なかったが石が黄鬼の脇に当たった。骨が折れる音が聞こえたが黄鬼はそのまま逃げ去った。
あの程度の傷ではすぐに回復してしまうだろう。しかしマサモリは、はっきりと重量術の有用性を実感した。シラギクの方も黄鬼に逃げられてしまったようだ。二人は顔を見合わせてすぐに移動を始める。
少し進むとまた鬼の気配が背後からした。
『また来たね』
『さっきのっぽいよ』
『俺にはそこまでわからないなあ』
後ろに付きまとわれるだけで神経を使わされる。時折、投石や投げ槍が飛んでくる。脅威ではないが気が疲れる。
また向かってもすぐに散ってしまうだろう。中々狡賢いなとマサモリは思った。するとマサモリが背負っていたハナエがもぞもぞ動きだした。
「うーん」
マサモリはハナエの首に手刀を入れて再びハナエの意識を奪った。
『ハナエが起きたけど五月蠅そうだからまた眠らせたよ』
『ハナエちゃん、騒ぎそうだからねえ。鬼に追われてなければ起こしても良かったけど、今起きられたら面倒だね。そのまま眠らせておこう』
こういう時に弱みを見せると鬼が一斉に襲い掛かってくる可能性が高い。魔力があれば一瞬で倒せるのにとマサモリは思ったが魔力があればこんな経験は出来なかったなと思い直した。
マサモリ達が移動していると背後から殺気を感じた。鬼が再び石や槍を投げつけてきた。慌てず騒がず二人は攻撃を避けた。シラギクは飛んできた槍を掴み取って逆に投げ返した。後方で小さな叫び声が響いた。
『グッド!』
『どうよどうよー』
次からはマサモリも投げ返すようになった。しばらく同じようなやり取りがされ、鬼達の気配は徐々に離れて行った。
『ふー、魔力が無いと本当に億劫だ。ハナエを寝かしつけて本当に良かった』
『私は余裕だよ! さっさと襲い掛かってくれば楽だったんだけどなあ』
二人はそのまま富士山を下山して樹海を走り抜けた。
「さて、ここにあるのは気付けようの雑草です。あなたが使うのはこの凄く苦いのですか? それともこっちの凄く酸っぱいのですか?」
「両方!」
「おっけー!」
関所を抜けた二人はハナエを起こす事にした。
「今回はこれらをすり潰してから口に入れます。優しいですねー」
すり潰した雑草を結界に入れてハナエの口の中に入れた。そしてあごを開けられないように抑えてから結界を解放した。
「ヴァッ!!」
ハナエは反射的に吐き出そうとしたがあごが開けずに口の中に逆流した。そして再び咳き込んだ。あごを抑えっぱなしだと可哀想なのでハナエのあごを解放した。
「にっが! ここはどこ! わらわは生きてる!?」
「良く分からないけどマヨネーズ兄弟の兄に助けてもらったみたいだよ。なんでボロボロになってたの?」
「おぇっ、なんで草を口に入れたの! わらわこれ大っ嫌い。でもわらわが無事で良かったわ。あれホヨコは?」
「ホヨコ? 誰?」
「確かホヨコの使い魔が居たような……。役に立たなかったし別にいいわ。それよりもなんでもっと早く助けに来ないのよー」
「ハナエが一人で突っ走ったからだろ。ちなみに俺は怒っています」
「ハナエちゃん! 私も怒っています」
「わらわも怒ってるわ!」
「ハナエが一人で突っ走った事でハナエの命だけでなく俺達の命が危なくなったんだ。最近はまじめにやっていると思っていたのに……。もうスパルタで行く事にした! 尻叩き五千回だ!」
「五千回! 少ない! 優しい!」
「なんでわらわがそんな目に!」
マサモリはゴーレムを呼び出してハナエを拘束した後、ゴーレムがハナエの尻を叩いた。
「痛い! 止めて!」
ハナエが体をジタバタさせながら言った。そう言ったハナエだったが実は痛みを感じていない。強化魔法をかけているからだ。
ハナエは所詮子供の浅知恵だと思いながら痛がっている振りをした。何故だか分からないがハナエは親から良く怒られるのでこの程度は屁でもない。精々痛がっている振りをしておいてやろうとハナエはほくそ笑んだ。
そんなハナエを見ながらシラギクは思った。回数が多いから途中で強化魔法が切れるだろうと。強化魔法は薄く長く使っていればそれなりの痛みで終わるまで耐えられただろう。
だが少ない魔力で強化魔法をあんなに強く使ったら途中で魔力が切れてしまうのは目に見えている。わざわざマサモリが最初に叩く回数を教えてあげたのは魔力の配分をさせる為だったのにとシラギクは思った。
「わらわのお尻が……」
案の定途中で魔力が尽きてしまったハナエはお尻を抑えながらさめざめと泣いた。でも飯時になると一瞬で復活してしっかり人一倍食べた。
マサモリはハナエが全く懲りてないと思った。しかしハナエを改心させる方法は思い浮かばない。
そもそも人を怒ったり、叱ったりする経験が不足していた。出島村でもそうだったがどうやったら効果があるのか、若いマサモリにはまだ分からない。
でもマサモリは大して悩まなかった。駄目なものは駄目なのだ。だから次はもっときついお仕置きにしよう。マサモリのハナエ改心計画は始まったばかりだ。




