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巨大結界の壊された衝撃が宇宙をかき回すような力の奔流となってエルフ達を襲った。
「はあああ!」
シラギクは最後の足掻きとばかりに最大魔力で炎魔法を放とうとした。
「え、どうしてっ!」
結界を砕かれた反動を受けていたマサモリにシラギクの悲鳴が聞こえた。
「力が入らない」
先程まで溌溂としていたシラギクの魔力が急速に薄れていった。シラギクはへたり込んだ。
「シラギク!」
マサモリがシラギクの背中に触れると体全体に死の恐怖が駆け巡った。魔力が吸い尽くされる。反射的に手を放そうとしたがマサモリは理性で押さえつけた。
「マサモリ! シラギクに魔力を供給しろ!」
今まで黙ってみていたサビマルが叫んだ。マサモリはシラギクに魔力を送るまでもなく魔力を急激に吸われている。このままシラギクに触れ続けたらマサモリは魔力を失い、死ぬ。
巨大結界を破った集合体はそのまま結界の核となっていたエルフの建造物に衝突した。魔力を帯びた建造物が衝撃に耐えかねて壊れていく。
「マサモリ! 補給物資を使え!」
魔力が吸われて霧がかったように意識が朦朧としてきたマサモリはサビマルの声が遠くに聞こえて言葉の意味を理解できない。マサモリの体は魔力が尽き、少しずつ透明になっていった。
「白船を使え! 白船は巨大な生きている杖だと思え! 白船を使って中にある補給物資から魔力を吸ってシラギクに与えろ!」
サビマルの声はほとんどマサモリには届かなかった。自分の体が霞みとなって宇宙に溶けていくようにマサモリは感じた。
マサモリは糸が切れたように倒れた。すると白船の温かい魔力がマサモリに伝わって来た。マサモリは自身の消滅を防ぐ為に本能的に魔力を求めた。反射的にマサモリは白船から魔力を奪った。そして船内にある豊富な魔力を飢えた獣の如く貪った。
補給物資から賄った魔力はすぐシラギクに吸収されるが魔力の通り道としてのマサモリは意識を吹き返した。
「ああああ!」
マサモリの叫びと共に白船から無数の根が生えた。根は魔力を求めて宇宙に広がっていく。敵集合体と壊れつつあるエルフの建造物へと白船から根が伸びた。
根は凄まじい速度で宇宙空間を覆った。宇宙という無地のキャンパスを突然白船の根が満たした。根はエルフの建物を包み込み、集合体に開けられた穴へと潜り込んだ。
それは呼吸に等しかった。肺が酸素を求めるように、マサモリは生きる為に貪欲に魔力を求めた。宇宙空間に散らばっていた補給物資にも根は伸びていった。宇宙に散らばった補給物資をかき集めるように根は広がり続けた。
建物がまず砂になった。砂になった建物から小さな何かが飛び出す。それを追って根が伸びたが上手く避けられたので途中であきらめた。
星外生物の集合体を覆うように根は集合体の表面を走った。穴があればこじ開けて根を伸ばす。集合体へ向かう根が増して大きな手の様になった。
そして根が集合体を握りつぶした。集合体は卵が全方位からの力によって握りつぶされたように全体がひび割れた。暫くすると辺り一面に伸びた根が崩れて砂になっていった。
集合体は殻を残して隙間から砂を吐いた。白船から伸びた根も砂と消えると辺りには白船と星外生物の殻、そして極小の砂しか残らなかった。
大きく数を減らした星外生物だったが集合体に参加していなかった流星がまだ残っていた。星のような集合体を作る規模はないが守る者のいないジェルセを滅ぼすのには十分な数だ。
忌々しいエルフ達に見つからないように敵性生物の流星は大回りで迂回していた。そしてエルフが布陣している面の裏側に流星群は到着した。
これこそ彼らの切り札。本来なら星となった集合体を防がれた時に回り込んで挟み撃ちにする予定だった。しかしそこまでする必要もなくなった。エルフは自爆したようだ。
エルフが守っていた地域を避けて別の場所に降り立つ。そして破壊の限りを尽くしながら数を増やしていく。彼らはエルフが少数だと少ない情報から確信していた。
先に降り立った仲間は一部地域を除き順調に侵攻している。時間も数も自分達に味方している。彼らは弱者をいたぶる愉悦を胸に舌なめずりをした。
マサモリ達が乗る白船の正面には再び敵の流星級が埋め尽くすように布陣していた。さっきの白船の攻撃を警戒したようで敵は果敢な攻めより群れの集結を優先した。
マサモリは失敗したなと思っていた。魔力さえ残っていれば逃げ延びる事ができたのについついシラギクから手を離せなかった。
しかしあの時マサモリが手を離していたらシラギクは消えていた。何が正しくて何が間違っていたのかはマサモリには分からなかったが妙に清々しい気分だ。
サビマルがマサモリに魔石を押し付けるようにしているが少し魔力が回復した程度では状況を打開できない。
マサモリはしょうがないので白船の感触を楽しむ事にした。疲れた体に染み入る僅かな温かい魔力に吸い付くような肌触り。最後の逃げの一手をするにしても今はまだ休息の時だ。
「ひー、ひー。うひひひっひ」
マサモリと同じように魔石を当てられたシラギクも意識が回復した。死に間際に錯乱してしまうのはしょうがない。
「サビマル、策はない?」
「ない」
マサモリは寝転がって大の字になって宇宙を見上げた。正面に星外生物がなおも集合している。宇宙はすごいなと感心してしまう。宇宙からもっとジェルセを眺めたかったなとマサモリは思った。
星外生物の集合体とエルフの大結界がぶつかり合った時のあの宇宙を照らす輝きはとても美しかった。今はエルフの生命の光りが尽きたかのように宇宙に闇が広がっている。
最後はエルフの森に残っているエルフ達に希望を託す為、この白船をどうにかして彼らに残さなければならない。調子に乗って宇宙へ上がってきちゃったけど来てみたかったのだから諦めるしかない。
マサモリは思ったよりもすっきりとした感想を持った自分に笑いそうになった。短い時間だったが宇宙で見た景色は命を賭けるに相応しかった。
「お前達はよくやった。我の策が悪かったというだけだ」
「エルフの森に白船を届けるまでは頑張らないと。俺達の行動は後世のエルフにとって意味のある行動だったと俺は信じている。後は残ったみんなに希望を託そう」
サビマルが持っていた魔石の魔力を吸い尽くすとマサモリは元気よく起き上がった。空元気であったが元気良い振りをすると心にも元気が沸いてくるようだ。
「とりあえず逃げようか」
「待ちたまえ」
シラギクが芝居がかった声で止めた。
「今からこの星の王たる私がその力を見せてくれよう」
「シラギク……。シラギクは良く頑張った。さあ、エルフの森へ帰ろう」
「結局あの策はどういう意味だったのだろうか」
「二人とも! ちょっと話しを聞いてよ! 今、まじめな話しをしているんだよ?」
「おっし! 白船を大気圏に突入させるから自分の身は自分で守ってくれ!」
「話しを聞いてよー! あっ、ほら動き出した」
星外生物が一斉に動き出した。マサモリは白船をジェルセに向かって動かした。白船を結界で囲む。後は重力が白船を運んでくれる。星外生物の一群があっさりとジェルセの結界を突き破り白船を追撃しようとした。
「結界よ!」
しかしジェルセの結界が大きく輝くと星外生物の一群は結界を超えきる前に動きを止めた。そして結界に縫い止められた。
シラギクが片手を高く上げて握りしめる。すると星外生物の一群は雑巾が絞られたようにねじり切られて燃え上がった。マサモリ達には知覚できないがエルフ達とは反対側に侵入していた星外生物も同じようにあっさりと消し炭と化した。
「かーっかっか! かーっかっかっか!」
大気を逃さない為に存在していると思われていたジェルセの結界が眩く光ると近くにいる星外生物に向かって光の筋を飛ばした。光の筋は殻を焼き切り軟体部分を炭にした。
星外生物は一目散に逃げ始めた。
「追撃じゃー! 打て打てぃ」
光の筋が星外生物を追撃する。しかしあま
りの数に全てを滅ぼすには足りない。それでも光の筋は進行方向上の星外生物を全て焼き切った。




