42
マサモリは相変わらず畳に座って結界を維持をしている。臨時村には少数ながら村人が残っていて今は食料を中心に集めている。
守備隊も数は減ったがしっかりと臨時村を警備中だ。臨時村の結界は二重になっていて結界と結界の間に樹海の木の葉が不規則な動きをしながら舞っている。これなら吸魔石の銃弾を受けても大丈夫だろう。
村人数人と守備隊の一人が食料等を採取する為に臨時村を離れた。彼らは普段よりも慎重に木々の間を隠れながら放棄された畑を目指した。放棄された畑にはまだしっかりと結界が残っているので当分は植物も採取可能だろう。
もし人が壁畑を見つけても結界を壊さないと中の作物には手を出せない。エルフと一部の授粉用の虫以外は結界内に入る事ができないように結界を張った時に設定されている。
中の作物を手に入れる為には結界を破壊しなければならない。結界全体を破壊せずに上手く結界内に侵入できたとしても痕跡が残ってしまうのでエルフならすぐ看破できるはずだ。
エルフ達は問題なく放棄された畑に辿り着いた。壁畑の周りをまず守備隊の男が調べる。そして村人が採取を始めた。背負い篭に野菜が満たされると彼らはすぐに壁畑を後にした。
樹々を足場にしながら空中を進んでいた先頭の守備隊のエルフに三方向から銃弾が放たれた。守備隊のエルフは音がした瞬間に守りを固めたが枝に着地すると倒れ込むように口から血を吐いた。
「に、逃げろ」
数秒おいて再び守備隊の男に銃弾が放たれた。守備隊の男は動かくなって、大地には血溜りができた。
「飯だ! エルフだ! お前らぁ、こいつみたいになりたくなかったら無駄な抵抗はするなよ」
樹の陰から六人の銃を持った超大陸の男達がエルフ達の前に歩み出た。
「結界があって食べ物が取れないと思って殺したくなったがさすが兄貴! 畑の場所で待ち伏せするなんてやっぱりすげえや」
「ふん、油断するからこうなるんだ。おい! こいつらに吸魔石の首輪を付けろ!」
「ひぃぃ、人間だ。俺達はもうお終いだ」
「ふざけるな! 殺してやる」
一人のエルフが激昂して男達に襲い掛かった。銃声が鳴って襲い掛かったエルフが倒れた。
「おいおい、死にたくないなら無駄な抵抗はするなって言ったよなあ」
男は弾を素早く補充してエルフ達に薄気味悪く微笑みかける。
「あああ、来るなぁあ!」
超大陸の男達はエルフを囲い込んで首輪を嵌めようと距離を縮めた。エルフ達は逃げだそうとして死に物狂いで男達に突進した。しかしすぐに超大陸の男達に阻まれた。エルフ達は超大陸の男達に強く腕を絡めてしがみついた。
「おいおい、無駄だぞ。クズが!」
エルフ達は一斉に大爆発を起こした。
「やった! 超大陸人が六人引っかかったぞ」
静岡村へ向かうエルフ達の中の一人から歓声があがった。
「モブエルフ、お手柄じゃん。お前の趣味が役に立つなんて思いもしなかった」
「馬鹿野郎! 東京村に始めて来た田舎者エルフに都会の人を多さを見せつけてビビらせるのが俺の仕事だ。素晴らしい趣味だろ?」
「おい、この前は道案内する為って言ってたじゃねえか。本音が出たな!」
「ふふ、まあね。そりゃあ、東京村のモブエルフを任されたからにはねえ。役得があってもいいだろう? 東京村で働くなんてモブエルフ界では憧れの的なんだぞ」
彼は周りからモブエルフと呼ばれている。モブエルフは各村の人口に応じて決められた人数の通行人、一般人に化ける事を許されている趣味だ。彼らは毎日自分の分身を様々な年齢の男女に変化させて村の中を徘徊させている。
エルフの森は人口の割に面積が広いのでどうしても他人と会う機会が少なくなる。それを解消する為に人口の水増しが彼らの趣味だ。
村の中心部に多くの分身を配置してその他の地域にも分身を配置する事で案内役や枯れ木も山の賑わい係をしている。
井戸端会議をしているモブエルフ達に積極的に話しかければその村の情報を教えてくれるだろう。そしてモブエルフは外からの侵入者が居ないか目を光らせるのも隠れた仕事の中の一つだ。
臨時村では小屋から新たに村人数人と守備隊一人が出てきた。そして先程大爆発した壁畑に向かう。爆発の痕跡を魔法で消して、再び別の壁畑へと向かうのだった。
超大陸の戦士が現れなければ普通の食料回収になるので一石二鳥の策となった。
「静岡村まで行ったら分身の操作も難しくなるし、分身は後数日しか維持できない。くそっ、修行不足だ。それにしても軍師は良い策を与えてくれたぜ」
サビマルの提案した臨時村完全囮作戦はその後も成果をあげ続けた。
「やっぱ、駄目かあ」
「そういう訳ではない。だが、うーむ」
サビマルは一人また思索に入った。
「大丈夫! マサモリが来なくても全然平気だよ」
「白船を打ち上げる前に向こうからの式神の返事を待った方がいいのかな? でも中々返事が来ないよね。もうすぐ定期輸送の時間なんだけどなあ」
「シラギクは絶対必要だ。だがマサモリはどうなんだ。何が戦局を左右するんだ。何故こんなにも能力が暴れる! 時として間違った選択が正しかった場合もある。駄目だ、わからん」
サビマルは言い終えると冷静になった。
「お前が行っても何も変わらない。マサモリ、お前が決めろ」
「んじゃ、行く! 一人残っても暇だしね」
「わかった。行くぞ。どうなっても、ならなくても我は知らん。うむっ、それとは関係ないが別の策が浮かんだぞ」
「よーし、マサモリも行くことになったし残りの補給物資を全部乗っけよう」
「おー」
一人でブツブツ言い始めたサビマルを置いてマサモリとシラギクは補給物資を積み込みはじめた。そして臨時村に誰も残らないならある物を全て詰め込んでしまう事にした。
船の甲板まで溢れ出した補給物資は途中で落っことしたら大変な事になる。短い時間で懸命に縛り付けた。
定期輸送の時間が間近となると三人は補給物資でいっぱいの船の中に入り込んだ。船の外には式神を配置して船内から船外の様子が見られるようにした。
三人とも宇宙に上がるのは初めてだった。マサモリは宇宙に上がる瞬間を目にしたかったので船内から外が見られるように配置を整えたのだ。
「そろそろだ。ワクワクするねー」
「うん。早く宇宙に上がってみたい」
マサモリは白船に結界を張った。そこで初めて白船の恐ろしさを体感した。マサモリが想定していた結界の強度を遥かに上回る出来栄えだ。
黒船と正面からぶつかり合ったが今にして思えば無謀な試みだったと実感して肝が冷えてきた。黒船の結界魔法使いが一般的なエルフと同程度の力を持っていたらマサモリ達は肉片になっていた。
この白船自体が高性能の杖、それ以上だ。白船は使うというよりも白船の持つ力を後押しした方が効率が良いだろう。この船自体が一種の世界樹という聖域なのだ。
降って湧いて来た巨大な力にマサモリは高揚感より恐怖を感じた。突き抜けすぎた力は人を狂わせる。この船があれば超大陸の全ての人を簡単に殺せるだろう。
この船は危険だ。凄すぎる、素晴らしすぎる。だがマサモリは力には溺れない。マサモリの力は壊す為の物ではなく、守る為の力だからだ。
小さい頃から親や祖父母に口を酸っぱく言われてきた言葉がマサモリの中に浮かび上がるとマサモリは冷静になった。




