6話目 白鳥の湖
「エイホウさん?」
あたしは小部屋でキョロキョロした。
「えっと……ここ、ゲーム内でしょ? なんで話せるの?」
『VRもハウスの中にありますので、エイホウの範囲内です』
「わお、スゴーい」
頼もしい味方ができたわ。
「それじゃ早速だけど、最初の鍾乳洞でイキナリ行き詰まってるの。洞窟からの脱出ルートって分かる?」
『検索中……判明しました』
「どう?」
『脱出できません』
「社長ー!!」
もう絶対ブッ飛ばすわ! 方法分かんないけど、今決めた! 会った瞬間ブッ飛ばす!
そんなあたしに、エイホウさんは続けた。
『脱出ルートは、プライベートルームにあります』
「え? ココのこと?」
『はい』
扉は……1コだけよね。
「どうやるの?」
『ステータス画面を開き、1度【終了】を選んでゲームを終えてください』
「はぁ!?」
『そののち【開始】すると、選択肢が現れます。そのさい、“プライベートルーム”ではなく、“新宿西口のOK社前”を選択すると、通常スタートできます』
「ぐあー!」
本当に鬼畜ね! いっぺんゲームから出るとか!
だけど、あたしの場合、出たらサボテンになっちゃうんだってば! ちょっとの時間でも自分の記憶がボンヤリになっちゃったから、これ以上現実に戻るのはヤバいのよ!
「ねえ、エイホウさん。ゲームにいたままで脱出する方法ってある?」
『窓から外に出ます。はめ殺しになっているので、椅子の脚で叩き割ってください』
「どこまでもヒドいわね」
そんじゃま、椅子を持ってと。
「社長の、バッキャロー!」
ガシャーン!
ふぅっ、少しスッキリしたわ。
「お次は?」
『外の50cmだけは、プライベートルームの敷地なので、そこに下ります』
「はーい」
ガラスの消えた窓から出ると、外はだだっ広い宇宙。
「ちなみに、敷地の外はどうなってるの?」
『全て、扉と同じ出口扱いです』
「――いよいよゲームっぽいわね」
踏んでみよっと。あ、ホント。はいはい、ブレス寄越しなさい(1敗)。
で、さっきの手順まで戻ってと。
「次は?」
『扉の反対方向に回ると、魔法陣があります。それに乗ると、新宿西口にワープします』
確認すると、たしかに虹色の魔法陣があった。そこからはオーロラみたいな輝きが出てるし、間違いなさそう。
「ねえ、エイホウさん。1度新宿へ行ったあと、ダンジョンに再アタックって出来るの?」
『出来ません。新宿に行った時点で、扉は通常に戻ります』
「ふうん……あと、ボス竜のスペックって、分かったりする?」
『鑑定したいと念じつつ、1秒見つめれば分かります』
「あー」
そっか、鑑定かー。ステータスが存在するんだし、ちょっと考えても良かったわね。
ものは試しと、早速やってみた。
「必殺、スキャン!」
せっかくなのでポーズ付きでやってみると、竜のスペックが吹き出しに表示された。
※ ※ ※
名前:スカーレットドラゴン
攻撃:128
防御:256
速度:8
体力:1024/1024
マナ:16/16
特徴:《飛行》《炎の息吹》《尻尾攻撃》
無効:黒、茶、緑、紫、銀、白
吸収:赤
弱点:青
※ ※ ※
「体力、高っ!」
シュゴー。(1敗)
あまりの衝撃に、うっかり棒立ちになっちゃったわ。反省。
何度も無駄死にするのはイヤだったから、エイホウさんに頼んでデータを拾ってきてもらった。部屋でじっくり確認する。
「――うん、1024。見間違いじゃなかった」
あたしのライフが64なんだけど、2ケタ違うし。あと、攻撃力128? これって炎にも適用されるのかしら。まあ、大体似たような感じよね。なら、黒焦げも納得だわ。
あたしは自分のステータスを見た。――うん。どう考えても、自力で倒すのはムリ。やっぱり、竜自身のパワーで自滅させるのがスマートだと思うのよね……。
「ねえ、エイホウさん。弱点の『青』って、どういうこと?」
『青魔法全般です』
ん?
「それって、水や氷の攻撃に弱いとか?」
『はい。中には、水に触れただけでダメージを負う敵もいます』
「――ほほぉ」
触れただけで、ですか。
美少女天使改め、白鳥となったあたしは、地底湖にちゃぷちゃぷ浸かっていた。
「ドラゴンちゃーん! 水遊びも出来ないのー!?」
バシャバシャ音を立てて挑発。よし、順調にドラゴンが向かってきたわ。あとはそのままマヌケに突っ込んでくれば、水でダメージを食らうかどうか分かる!
シュゴー!(1敗)
ああ、そりゃ吹くよね……。
「第2弾!」
白鳥のあたしは、湖面から飛び立った。羽を濡らしたまま、フィギュアスケートのように高速スピン!
『アンギャァアオオオ!』
お、飛沫がちょっとかかったダケなのに、イヤがってる! 確認、確認!
えーっと、体力が1013/1024? 効果あり!
「フフフ……人間サマの知恵をナメないことね!」
かわして、浸かってのダメージを繰り返すことしばし。
竜は、首をひねった。
――ん? なにやってんの?
シュゴー。
自分にブレス……? まさか!
ライフを確認すると、全回復。
「あ……あいつ、頭いいわ……」
シュゴー!(1敗)




